145-4.第五回パン教室④
お待たせ致しましたー
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フレイズ様は努力家だと思う。
いくら、普段はお城で宮廷料理人でいらっしゃっても。ただの料理人でしかない私の指導を、真剣に聞いていらっしゃる。
けれど、それだけ違っていたのだ。
彼女がこれまで信じていたパンの調理法が、私が教えている調理法と全然。
お師匠様よりは年下でも、今の私よりずっとずっと年上のハーフエルフさん。
いったい、どれだけ【枯渇の悪食】で間違いが浸透していたのだろう。
「そう。その調子です」
「む、むむ。こうか?」
「あとは優しく優しく」
「む、むむむ」
だから、私に出来ることは間違いを正しい方向に導くことくらい。
全員で丸め終えたら、次は二次発酵の仕組みについてだ。
「このまま、また膨らませるのですが。フレイズ様には、是非知っていただきたい魔導具があるんです」
「ほう? なんじゃ?」
「お師匠様……アーネスト様にお伝えして、今制作をしていただいているものです。ロティ?」
『にゅぅうう! 変換、発酵器ぉおお!!』
ロティが変身してくれた発酵器が出てくると、フレイズ様は『おお!?』と声を上げたのだった。
「なんじゃこれは!? 冷蔵庫……とも違う! 窓があるし、中は空っぽ? チャロナ嬢、これでどうパンに関わってくるのじゃ!?」
「この中なんですが」
開けて手を入れてもらうと、湿って温かい感覚にまた声を上げられた。
「なんじゃこれは?」
「この中に、さっき成形したパンの生地を入れます」
「ぬぬ? せっかく綺麗に出来たのにか??」
「二回目の発酵には、外で濡れ布巾をかけるだけよりも。一定の温かい場所で膨らます方が良いんです。本当は、最初の発酵もこの中がいいんですけど」
夏場なら外でも十分だけど、秋になってきたのでそろそろ外気温だけの発酵じゃ菌が育たない。
ので、出来るだけ発酵器で膨らませた方がいいのだ。
「……チャロナ嬢」
「はい?」
「この発酵、と言うのも。気をつけなければ、あのような美味なるパンにはならないのかな?」
「その通りです、フレイズ様」
私が断言すると、フレイズ様はすぐに地団駄を踏んだ。
「なんてことだ! 我々がこれまで思っていたのと、まったく違う! 違い過ぎる!! これが正しいパン作りだったのか!!」
「あ、フレイズ様。粉の配合でまた色々変わりますよ?」
「〜〜〜〜!?」
追い打ちをかけたら、ひっくり返りそうだったので。ひとまず説明はここまで。
ロティの中に生地を載せた鉄板を全部入れたら、今度は時間短縮で時間を進めて。
蓋を開けたら、いい具合に膨らんでいた生地を見て。フレイズ様はまたはしゃいでしまった。
「こんな感じです」
「なんと!? 焼く寸前に近いまで!」
「焼くともっと膨らみますよ??」
「え」
驚き過ぎて血管が切れないか心配になったが。
すぐにぶつぶつと何か言っていたので、ロティにはオーブンに変身してもらった。
予熱の間に、溶き卵、つまりはドリュールを仕込んで塗る工程だ。
「塗り過ぎないように気をつけてください。刷毛で塗り終えたら、すぐにロティのオーブンに入れます」
「うむ。溶き卵を塗るのは同じじゃな?」
「白パンだと、粉を振るくらいですが」
「同じじゃな?」
「じゃ、焼きましょう」
鉄板を全部オーブンに入れて、すぐにロティの歌が聞こえてきたが。
フレイズ様はくりんと首を傾げるだけだった。
「面白い歌じゃな?」
「……仕上げの工程がいつもこうなので」
「はっは! いや、可愛らしいではないか? 出来るまで、サンドイッチの具材の続きかの?」
「はい。サバを焼きましょう」
そして具材が出来上がる頃に、パンも焼き上がり。
熱々のパンの試食で、フレイズ様は美味し過ぎて声を張り上げてしまったのでした。
次回はまた明日〜




