143-3.宮廷料理人①(シュライゼン視点)
新キャラ登場
*・*・*(シュライゼン視点)
今日の俺のすべきことは。
先日のパン教室で、マンシェリーに分けてもらった『食パン』をとある人物に食べてもらうことなんだぞ!
宮廷料理人の長。
そして、シェトラスの師匠。
魔法鞄に入れていたから腐敗も味落ちもしない。
出来立てではないけど、最高の状態で食べさせることが出来るんだぞ!
あの人には、今日に合わせて時間を作ってもらい、俺とか爺やが普段使う調理場に来てもらうことにした。
「……参上致しました、シュライゼン殿下」
現れた人物は、小柄。
久しぶりに会うけど、相変わらず小柄だ。
体格もだが、背丈も。
同席しているアーネスト殿と同じハーフエルフだけど。俺よりは断然歳上でも彼らにとっては若い。
風貌とかも、アーネスト殿が初老の域なら……彼女はまだ俺くらいか。
それくらい幼いのだ。けど、ゆうに百歳は越えているらしい。
「待ってたんだぞ! フレイズ殿!」
「極秘とは伺いましたが……何故、アーネスト殿まで?」
「ふふん! 儂の二番弟子となった者と関係があるからじゃ!」
「!? あの噂は……嘘ではなかったんですかの?」
「当然よ! じゃが、フレイズ。その者の正体は極秘じゃ」
「ほほう?」
とここで、アーネスト殿が厨房に防音結界を張ったんだぞ。
「我が二番目の弟子となったのは、長年行方知れずだったマンシェリー王女殿下じゃ。……現在、お主の弟子の一人であるシェトラスがいるローザリオン公爵家に滞在している。あの鼻垂れ小僧のカイルキアが、数ヶ月前に見つけたのじゃ」
「!? 王女殿下が! 私の弟子のシェトラスのところに!? 何故……何故城に帰還させないのですか!?」
「色々あって出来ないんだぞ。だが、その代わりに彼女が手がけてくれたものを、今日はフレイズ殿に食べてもらいたいんだ」
「? 食べて欲しいもの、ですかの?」
魔法鞄から、食パンを取り出して。まずは包丁でスライス。
マンシェリーが言うにはそのままでもいいらしいが、トーストと言う手法がとてもいいらしい。
気をつけながら、人数分を窯に入れてバターを載せて炙っていく。
焦げすぎず、かと言えコゲ目は少々つけて。
バターが溶けてパンに広がっていったら完成だ。
「バタートーストなんだぞ!」
「?……聞いたことがない方法ですな?」
「とにかく、何も言わずに食べて欲しいんだぞ!」
「このパンと王女殿下が……? 殿下がおっしゃるのでしたら」
自分でも、パンに関しては全然だと知っているので。マンシェリーが手がけた食パンをトーストにしたものを恐る恐る手に取った。
香ばしく、バターの甘い香りに引き寄せられたのか。
我慢が出来ずにひと口。
バターの部分ではなかったが、ひと口食べただけなのに、顔が見た目通りの少女のごとく綻んでいった。
「……どうじゃ?」
アーネスト殿が聞くと、フレイズ殿はこくこくと首を縦に振った。
「美味いで片付けられない!? なんじゃ、このパン! ふわっと、カリッとほんのり甘いのに香ばしい!! むせないし、噛みやすい! なんですか、このパンは!?」
自分でも作れないパンを賞賛するあたり、マンシェリーの実力が本物だとわかったのだろう。
「俺達も手伝ったけど、ほとんど我が妹が手がけたパンなんだぞ!」
「!? しかし……【枯渇の悪食】で潰えたレシピをどのようにしてここまで?」
「マンシェリーは、神に愛された子だったんだ。前世の記憶を蘇らせて。パンの職人だった知識と経験。あと、異能を与えられてこのパンが出来たんだ」
「!? 素晴らしい……と言うことは」
「うん?」
「あの弟子は、毎日のように姫様のパンを……! 素晴らしい手ほどきを目の前で!!」
ムッキー! と腹が立ったのか残ってたパンを咀嚼しながらむくれるのだった。
「そして、元々の素質もあった錬金術も一番弟子と遜色ないと判明してな? じゃから、もし城に戻ってもいいように儂の弟子にしたんじゃ」
「……なるほど。で、私を呼ばれた本来の用件は?」
「近いうちに、あの子が王女だと言うことを明かすための式典をするんだ。そこで、おバカな臣下達にマンシェリーのパンを食べさせる予定ではいるんだけど。先にフレイズ殿には知って欲しかったんだ」
「……たしかに。いきなり突きつけられても誰も食べようとはしませんな?」
で、俺が残して置いた食パンの残りをじーっと見つめるのだった。
まだ食べたそうだったんで、スライスしてからそのまま渡してあげた。
「式典は約二週間後。マンシェリーも日々行儀作法を受けている。王女に戻るかどうかはわからないが、帰還は一度させるつもりだ」
「ふむ。私は当日に同席させていただいて、このパンなどの素晴らしさをバカ共に伝えれば良いのですかの?」
「そうして欲しいんだぞ」
「……一度。お会いしたいですなあ」
「じゃ。あと一回だけパン教室があるから。行くかい?」
「是非!」
味方が増えることは大いに嬉しいんだぞ!
次回はまた明日〜




