138-3.ポットパン実食(アーネスト視点)
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*・*・*(アーネスト視点)
まったく、チャロナちゃんが帰還されたことで、あの鼻垂れ小僧の表情が変わっていくとは。
幼き頃に、目の前でアクシア王妃様を喪い。そして、これは殿下から明かしていただいた情報だが、カイザーク殿が王妃様の技能により……姫様をホムラの孤児院にまで亡命させた。
その孤児院にも、つい先日強固派の息のかかった阿呆共が、王妃様の元乳母だったマザーを誘拐しかけたそうじゃが。無事に今は孤児院が再建されるまで、あちらの城に滞在しているらしい。
もし、姫様がこの真実を知る日が式典の日となったら。王城かここにいるのを選ぶか。
儂としては、ここに残ると確信している。真実を知らぬ今のままでも、仮の婚約者であるカイルキア殿に惚れているようじゃからの?
まさか、従兄弟であられるシュライゼン殿下のように茶目っ気を見せるとは思わないでいたが。
「ほう……これが完成形のポットパン!!」
とりあえず今は、儂達の昼飯にもなった煮込みシチューとチーズのハーモニーが堪らんパンに目が釘付けじゃ!!
美しく、器となった四角い食パン。
中身がくり抜かれて、並々と収まっているよく煮込まれたシチューの上には、溢れんばかりに香ばしく炙られたチーズ。化粧には、パセリ。
どちらかと言えば庶民向きな食事ではあるが、そんなのは関係ない!!
とにかく、たくさん動いたのでいつも以上に腹が減って仕方がないのじゃ!!
食べるのは、今日生徒であった儂らと鼻垂れ小僧達じゃったが。他に用意されたスープに、くり抜いた白い部分を炙ったのとラスクと言う菓子。
もう目の前にあってはたまらんわい!
「どうぞ、先に召し上がってください」
と、姫様がおっしゃってくださったのなら!!
すぐに、簡素ではあるが食事の祈りを唱えて、まずはスプーンでシチューの部分を。
すくえば、大振りの柔らかそうな肉が顔を出してきた。堪らずに、熱いのも関係なしにすぐに口に入れた!
「んんん!?」
シェトラスの手料理があるとは言え、熱々のシチューと肉が口の中で蕩けるようにほどけていき。チーズは香ばしく、シチューと接した部分は伸びて味をまろやかにさせてくれる。
これだけでも美味で、勢いよくがっつきそうじゃったが。殿下が炙ったパンをシチューに浸しているのが見えて、ふた口で手を止めた。
(……このままでも充分美味いんじゃが)
今まで食べてきた、王家にも献上される白パンですら美味くないと感じてしまうくらい。適当にスープに浸してマシだと思っていたが。
それを凌駕するくらいの、姫様にご指導いただいて作ったパン。ちょんちょんとシチューに浸して、今にも溶けそうで美味そうな部分を頬張る!
「んん゛!?」
違う。
マシに思っていたパンとも全然違うんじゃ!!?
炙った部分は香ばしく、そのサクサクが汁を吸って柔らかくなった部分は、口に含むとマシに思ってたの以上に口の中で蕩けて!!
この食べ方が正解と思えるくらいに、皆揃って食べ進めるくらいじゃった!!
「なんたる美味さ!? これは……これは【枯渇の悪食】以前のレシピ復活と言われてしまってもおかしくはない!!」
「あ、ありがとうございます、お師匠様。シチューが減ってきたら器のパンも食べてみてください」
「ほう?」
その時の儂は、浸したパンと同じかと思ったのだが。
シチューの旨味を存分に吸った、少しサクサクが残ったパンを手に持つくらいがっついてしまったわい!!
「これは、シェトラスの師匠であるあの人もきっと頷くと思うんだぞ!」
「まったくですな!」
彼奴もきっと脱帽するじゃろう。そして、もしかしたら姫様に弟子にしてほしいと押しかけに来るかもしれないが。
とにかく、食パンの一部を魔法鞄で持ち帰らせていただき、我々は城に戻ることにしたのじゃった。
あと、油で揚げて砂糖をまぶした美味なる菓子の、ラスクも!
次回はまた明日〜




