129-3.小さな願い
お待たせ致しましたー
まさか、あんなにも小さな命がもう終わりを迎えていたとは思いにもよらず。
ただただ、シュライゼン様にしがみつきながら泣くしか出来なかった。
アイリーン様も一緒に泣いてくださって。子供達を待たせちゃうけど、リトちゃんのお墓に手を合わせることに決めた。
孤児院内の共同墓地に彼女は眠っているらしく。
後からやってきた悠花さんも一緒に手を合わせた。
(……もっと、美味しいパンを食べさせてあげたかった)
悔やんでも仕方がないとはいえ、あれくらいの歳の女の子が命を失う可能性は、この世界の方が圧倒的に高い。栄養失調も酷いところもあるだろうから、まだ巣立つ幼い命が失われる危険性も。
だから、出来るだけ私も力になりたい。
けど、毎日や毎週のように孤児院に差し入れをするのは。シェトラスさん達を入れてもとても四人で回せない。はがゆいが、一歩ずつ進めていくしかないんだ。
「……リトもきっと喜んでいるでしょう」
マザー・ライアは泣きそうな笑顔で私達に話しかけてくれた。
「そう……でしょうか?」
「ええ。亡くなる寸前まで、チャロナさんに会いたい。もっと美味しいパンが食べたいって……口癖のように言っていました」
だが、亡くなるまで酷い風邪だとは誰も思わず、朝になったら眠るように亡くなっていたそうだ。苦しまずに死ねたのはせめてもの幸せだ。
少し落ち込んでいると、誰かに肩を叩かれた。
「嘆く必要はないと思うんだぞ!」
「シュライゼン様……」
どうして? と首を傾げたら、今度は頭を撫でられた。
「幽霊になってまで、君にお礼を言いたかったんだ。その心残りが叶ったんだから、彼女は天上の世界で幸せに暮らせるとも!」
不思議。
こう言う時って、シュライゼン様はいつもの子供っぽさが残っていても、説得力があるのだから。
だから、私は強く頷いて、まだ流れていた涙を袖でゴシゴシと拭った。
「リトちゃんのような子供を出さないためにも、私頑張ります!」
「うむ!」
「ええ!」
「そうね」
「……ありがとうございます」
そのためにも、今いる子供達に伝えられることは伝えていきたい。頑張ろうと決めてから、気持ちを切り替えて待っててくれた子供達のためにお菓子教室を始めた。
「今日作るのは、米粉のクッキーです」
『『『『『こめこ??』』』』』
「この国の友好国であるホムラ皇国でだと、パンじゃなくてご飯やおまんじゅうを食べるんです。その材料になるお米と言う食材を粉にしたのなら、孤児院でも購入しやすいので……今日はそれを使ってクッキーを作ります。簡単でも覚えておくと、すぐ作れるようになるのが嬉しいのは分かりますね?」
『『『『『はい!』』』』』
「パン作りをやりたくても、まだまだ難しい条件とかがあるんです。お姉さん達で対策は取るので、いつか出来るためにいろんなことを覚えましょうね?」
『『『『『はい!!』』』』』
「いいお返事です!」
そして、今日作った米粉クッキーの一部を、こっそり共同墓地持って行ったら。
何故か、バイバイしたはずのリトちゃんの幽霊が立っていたのだ。
『……まだ言い残してたことがあるの』
「……私に?」
驚いたけど、ファンタジーの世界で幽霊が見える条件とかは意外とゆるいかもしれない。
彼女の前でしゃがむと、リトちゃんはまた私に抱きついていた。
『お姉さん、頑張って。お姉さんのお願いは、ちゃんと神様に届くだろうから』
「……リトちゃん?」
願い? と口にしようとしたら、もうリトちゃんの姿はなかった。それだけを伝えるために、天国に行くのを待っててくれたのだろうか。
とりあえず、お供えだけしてから私は孤児院の中に戻った。
次回はまた明日〜




