128-1.アーネスト=ラピュンツェル①(シュライゼン視点)
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*・*・*(シュライゼン視点)
さて、マンシェリーに言ったように。カレリアの師匠である錬金術師に話をつけるのは簡単だ。
マンシェリーに頼んで、美味しい美味しいおやつになるものを用意してもらうこと。
それをあの人の研究所の入り口に、罠とセットすればあら不思議?
落とし穴に落ちた、稀代の錬金術師が出来上がったんだぞ!
「誰だね!? 儂をこんな目に遭わせたのは!」
「俺なんだぞ!」
「な!? 殿下!!」
わらわらと人が集まる手前で、俺は彼の前に立ったんだぞ!
「ちょーっと、あなたに協力してもらいたいことがあってね!」
「正攻法で来てくだされ!?」
「それで、あなたがカレリア以外に聞き届けたケースが少ないんだぞ!」
「く……!? しかし、このパンとクッキーは信じられないくらい美味い」
「それの製作者も教えるんだぞ!」
「……聞きましょう」
とりあえず、我ながら手掛けた落とし穴だったから結構深くて。爺やと一緒になって引っ張り上げてから、錬金術師──アーネスト=ラピュンツェルの研究所に入らせてもらった。城の中の施設とは言え、王家の俺も滅多に入らないから広さとかはほとんど知らなかった。
だから、こんなに広いとは知らなかったわけで。
「ふむ。あの子も興味を持ちそうだ!」
「で。殿下、儂を久しぶりに罠に落としてまで話したい内容とは?」
一応、俺は王族であり王太子だから、アーネストも簡単に茶を用意してくれた。まずくはないけど、美味しくもない。とりあえず、それは気にしないで置いてから俺は研究所内に防音の結界を張った。
「?」
「今から言うのは、国どころか世界を揺るがす話なんだぞ」
「? それをこの儂にですか?」
「カレリアも知っているからね?」
「……あの弟子め」
「嫉妬してる場合じゃないんだぞ。ひょっとしたら、耳に入っているかもしれないけど。我が妹のマンシェリーがこの国に戻ってきた」
「!? 姫……様が?」
やっぱり、研究所に篭りがちの研究者は、美味しいもので釣らない限り。自分の耳には届いていなかった様子。
が、唯一の弟子であるカレリアの妊娠報告だけはきちんと耳に入れていたようだ。
「真実をお教えしましょう、ラピュンツェル殿。実は……」
と、爺やが事細かに真実を告げれば、アーネストは大きくため息を吐いた。
「神の掲示……であれば、仕方がないと言えますが。ですが、何故城ではなく。あの若造のところへ? 拾った主とは言えど、姫であればすぐにこちらへ寄越すはずでしょうに?」
「それにも。神が関わっていてね? とりあえず、生誕祭と成人の儀を改めてとり行うまでは……おそらく誰が王女と告げても記憶を書き換えられるんだぞ」
「……殿下がおっしゃるのであれば信じましょう。で、姫と先ほど儂が口にしたパンとの関連性はまさか」
「そのまさか。前世の記憶と経験を蘇らせて、神より異能を賜った彼女が、全部手掛けたんだぞ!」
「!? 【枯渇の悪食】で潰えた技術をあの方が?」
「で、あなたには作って欲しい魔導具のために。彼女がいるカイルの屋敷に行ってもらいたいんだ」
「儂にですかの?」
「俺の知る限り、あなたしか無理だ。カレリアは身重だし」
「そうですな……」
引き受けるか、と聞けば。アーネストは首を縦に振ったんだぞ。
「出来れば早いうちがいいんだ。まだ可能かは分からないが、父上にこの国で学び舎を作れないか言う予定でね? いずれ、あなたが開発した魔導具も必要になってくるんだぞ」
「……察するに、例えば錬金術師としての。専門の学び舎を作られると?」
「それも面白いね! 彼女は、前世で調理に特化した学び舎で技術を習得したらしいんだ」
「それに魔導具……面白いですのお?」
興味とやる気に満ち溢れた瞳は、老いて尚、衰えているのは微塵も感じ取れなかった。
と言うか、彼は耳こそ尖っていないがハーフエルフと人間の混血児なので、この国では一番の長老なんだぞ。見た目は初老だけど、もうすぐ二百歳らしい。
「出来れば早いうちに」
「今すぐにでも!」
「ラピュンツェル殿……もう夜ですぞ?」
「く! では、明日は無理ですかの?」
「そうだね? 明日なら孤児院への定例会の準備だし、ちょうどいいんだぞ。カレーパンも食べさせてもらえるかもしれない!」
「カレー、パン? とは?」
「ちょっとだけ辛いけど、美味しいパンなんだぞ!」
「おおおお!!?」
とりあえず、アーネストには興味津々になってもらえたので。
俺はその日のうちに、翌日の分の執務も無理くり終わらせたんだぞ!
次回はまた明日〜




