123-3.迂闊(カイルキア視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(カイルキア視点)
迂闊だった……。
チャロナの願いを叶えられる範囲で叶えていたつもりが。
アンパンに必要だった、『ゴマ』の手配をすっかり忘れていたのだ。
リーンもあれだけ楽しみにしていたのに、半月以上も忘れてしまっていた。妹からもだが、姫からも催促がなかったので、俺もホムラから取り寄せを頼んでいたと思っていたのに。
現実は、書類を作ったところで止まっていた。
シェトラスからの言伝がなければ気づかないでいたが。
「なーっははは!! 完璧なローザリオン公爵でも、我が妹の前では形無しなんだぞ!」
「…………」
「ふっふっふ!」
王太子に殴りかかりたいが、事実なので何も出来ない。
ひとまず、肺を空にする勢いで大きく息を吐いたが。
「……まあ。言い訳ですけど、姫様のために動いているのに。肝心の姫様のお願いを叶えるのを忘れてましたね?」
「くよくよしていても仕方がないんだぞ! あ、アシュリンと言うかあちらの陛下に頼まれてたこと、俺もマンシェリーに言い忘れてたんだぞ」
「なんだ?」
「カイルやレクターは、冒険者だった時にホムラやコクレンの主食だった『マンジュウ』を食べているだろう?」
「ええ」
「ああ」
正直、いくら甘党の自分でもむせるくらいの甘さだったが。アズキのアンコとは違う、少しザラザラしたような食感のアンコ。
一個か二個でいいくらいの味でもあったしな。
「あれを、今のマンシェリーならもっと美味しく出来るかもしれない。だから、正式な指導員として派遣出来ないかって」
「……ホムラ、にか」
人生の大半を過ごした国。
きっと、あちらの孤児院のマザーに会いたいだろう。
この屋敷に来たばかりは、あまり外に出さないように保護の名目で留まらせていたが。
来たる、生誕祭の式典のためにも。その依頼も受けた方がいいかもしれない。
予定を組むのはシュラか陛下だろうが。
「もういいんじゃないかな、カイル」
レクターも同じ考えだったのか、苦笑いしていた。
「エリザベート様にもお教えされるぐらい、少しずつパンの製造技術が進んでいるんだ。王城ではシュラ様やカイザーク様も頑張っていらっしゃるんだし」
「……ああ」
「式典の準備も順調だし、姫様に害を加えそうな強固派の連中も、神のご意向のお陰か捕まる以上の仕打ちを受けているってご報告もあったじゃない。大丈夫だと思うよ?」
「うむ! 退化の禁忌を使えるのは神だけだしね!」
たしかに。
完全に安心は出来ないが、どう言うわけか神は俺達と言うよりも姫に対して様々な策をこうじている。
異能の下賜。
この屋敷に俺が連れて行くことを想定した遭遇。
同じ転生者だったマックスと親友に。
加えて、我が祖母の異能も深く知れた。
他にも様々なことがあるが、俺と姫それぞれの恋心を通わすことだけは禁じられている。それがどうして神にとって都合が悪いのかまではわからないが。
仮の婚約者として任命されていることを、出来れば早く告げたい。
貴女は俺のものだと声を大にして言いたい。
それがいつ告げられるのか、わからないで苦しい。
けれど、今がその時期でないのならば。俺は耐えることしか出来ないのだ。
「ひとまず、ゴマの件はシュラ様が来てくださってよかったです。そう言えば、先日も行かれた時に何かを持って帰られたんですよね?」
「うむ! マンシェリーが言ってたマッチャなんだぞ! 神事の時しか使われない貴重な茶のようなものらしい」
「それをいただけたのか?」
「美味しいパンの御礼になるのなら、と。指導員の依頼を受けて欲しい願いらしいんだぞ」
姫は新しい揚げパンを作る時に披露してくれるようだ。
いったいどんなものになるのか、それは少しだけ楽しみだった。
次回はまた明日〜




