117-2.意固地(エピア視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(エピア視点)
喧嘩、ではないと思う。
けど、少しだけ気まずくなってしまった。
誰と言えば、恋人になってくれたサイラ君と。
昨日、姫様に呼ばれて、今日のおやつについてリクエストを受けたのだが。
私はいつものように、チーズのメニューに食いついてしまったが。サイラ君が、恋人になってから初めて意見されてしまったのだ。
出来るだけ、私の意見を尊重してくれていた彼が、初めて私の意見を却下してきた。その内容には、私も頷けるものだったのはわかる。わかるけど、実は少し哀しかった。
チーズ好きになったのは。まだ実家がある村にいた頃。
ここより、食が乏しかった実家では。母が仕込むチーズが何よりのご馳走だった。普段は固いのに、熱を加えるだけで伸びてとろける味わいが、庶民にとってのご馳走だった。
だから、いじめられてはいても、母のチーズ料理があればなんだって出来た。それで耐えてこれたお陰で、ラスティ叔父さんの伝手でこのお屋敷にこれた。旦那様との面接にも耐えて、採用された。
サイラ君にも、出会えた。
それなのに、些細なきっかけで、私が意固地になってしまった。
絶対、姫様が提案してくれたフレンチトーストだって、美味しいのがわかっているはずなのに。
なんとなく、おやつの時間帯になっても、食堂には行けなかった。
サイラ君に見つかりたくなくて、ラスティ叔父さんにも今日は午後から部屋で休んでいると嘘をついてもらった。
苦笑いされちゃったけど、多分理由はわかってくれてるはずだ。姫様と喧嘩はしていないと告げて、奥の畑で黙々と作業していた。
夏だから、暑くて麦わら帽子を取りたくて仕方なくても。サイラ君と会えないと自分で決めたのに、そのことで胸が苦しくて頭がふらふらしてきた。
水の生活魔法程度なら、私でも魔法は扱えるので水を取り出そうとしたのに。
ふらっと横に揺れた以降の、自分の記憶がなくなってしまったのだった。
(…………あれ?)
暗い。
もう夜なのか、にしては真っ暗と言うか薄暗い。いつのまにか、日が暮れてしまったのか?
それにしては、作業していないような気がしたら。目の前にあったのは、網目。見覚えのある、麦わら帽子の内側だった。
「お? 起きたか?」
「さ……い、らく……ん?」
帽子の向こう側から声が聞こえてきた。その声は、大好きな人だけど。今日一日避けてた相手。
なんでこんなにも近くにいるのだろうか、と逃げようとしたら。掴んでたらしい肩に置かれた手によって、がっちりと抑えつけられてしまい、動けなかった。
「おっ前、帽子かぶってても水とか茶とか飲んでないせいで、倒れたんだぞ!? 今日は部屋で休んでたんじゃねーのか!」
「ご……め、それ……嘘」
「はぁ〜〜……それならいいけど。なんで嘘ついた?」
「……なんとなく。サイラ君に、顔合わせたくなくて」
「理由はわかった。昨日の、おやつのことだろ?」
「ご……め」
「いいって」
麦わら帽子を取られると、目の前には大好きな人の苦笑いが見えた。
どうやら、今いるのは菜園の端にある大きな木の下で。彼の後ろにある幹と覆い茂る葉の具合でそれはわかった。
で、今の態勢だが。
私はどうやら、あぐらをかいてる恋人の足の間に寝かされて、結構密着している状態だった。
恥ずかしい……恥ずかし過ぎる!?
いくら恋人同士でも、まだキスも一回こっきりの間柄なのに!
「な……なんで!?」
「は?」
「こ、この態勢……なんで!?」
「ああ。俺がエピアを寮に呼びに行ったら、いないってヌーガスさんに言われて。で、念のためにこっち来たら、ちょうどお前が倒れたってラスティさんが言ってた。で、レクター先生呼ぶまで待機」
おわかり? と言われたら、自分のバカさ加減に呆れるしかなかった。ラスティ叔父さんには伝えてあっても、ヌーガスには伝達出来ていなかったのだ。
とは言え。
「こ、この態勢の理由は!?」
「小屋だと、ベッドとかソファはねーし。あんま動かすなって言われたから……流れで?」
「そ……そ、なんだ」
「で、気分は?」
「だ……じょうぶ」
「ったく。こっちもムキになったの謝ろうと思ってたのに」
「え?」
「チーズもだけど、姫様の料理食いたかったんだろ?」
何故か、サイラ君に謝られてしまった。
たしかに昨日は意固地になってしまっていたが、彼が謝る理由なんてどこにもない。私が、頑固だったから。
「うん。けど」
「けど?」
「……私が勝手に、避けてたのに」
「しょーがねーよ。お前のチーズ好きは今に始まったことじゃねーもん」
「うん……」
「落ち着いたらさ? 姫様に聞きに行こうぜ?」
「え?」
「お前が食いたかった方のパン。明日以降に出来ねーかって。今日は、俺が頼んだフレンチトーストだけどよ?」
「……うん」
ああ、やっぱり。
この人を好きになって良かった。
そして笑い合っていたら、ちょうど来たラスティ叔父さんとレクター先生にも笑われてしまい。
私は勢いよく起き上がって、頭をサイラ君の顎にぶつけてしまって。二人で、地面に倒れ込んでしまったのだった。
次回はまた明日〜




