109-4.おバカさんを②(ユリアネス視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(ユリアネス視点)
「……さて、シュライゼンはどこにいるのかしら?」
水鏡の前を何度も撫でて、場面展開のように移り変わりさせているけれど、今日はなかなか見つからない。
だが、さらに数回展開させたことで、シュライゼンを見つけることが出来た。
カイザークと一緒かしらと思ったら、女にも見えそうな黒い服を着た……たしか、マックスの配下? のミュファンと一緒だったわ。
『……ヴァーミス卿が、どこからか漏れた姫様の情報を手にしていました』
『ふむ。あれまで強固派だったか。何を企んでいたんだい?』
『は。……姫様を、ウェスト公国へのお妃にすべきだと』
『むぅ。人の妹を勝手にあの悪どい王族のいるところにやりたくないんだぞ。裏は?』
『記録の魔法はここに。すぐに捕縛致しますか?』
『うむ。マンシェリーのためにも、俺達が動くしかない!』
どうやら、既に情報はこちらにも報告が届いていたようだ。
だけど、夫の方では、変な高笑いが聞こえてきたから少し危なそうな感じだわ。
「何があったの?」
「んー? 自分の策に酔って壊れた」
「え、早くシュライゼン達行かせた方がいい?」
「そだねー。俺から言うからこっち来て?」
「ええ」
水鏡の場所を交代すると、おぞましい光景が映っていた。
『く……くくく。ふははは! あーっははははは!! 姫が……行方知れずであった姫が見つかったとなれば! 今こそ勢力拡大の時だ! このセルディアスのために!』
たしかに、フィルドの言う通り、自分の策に酔っているわね? けれど、あの姫をそんな勢力の駒にさせるわけにはいかない。
我らが、異世界から魂を転生させた、あの少女をそんなおバカな勢力争いの場に立たせるものですか。
「ばーば」
声をわざと聞こえさせて、天罰でも喰らわせてやろうかしら? と思ったら、ずっと寝ていたシアが起きてきたのだ。
「どうしたの? シア」
「……このおバカな子、ねーねの敵?」
「あなた寝てただけではないのね?」
「シアは、眞白の神だもん!」
えっへんと小さな胸を張っている我が孫は、きっと寝ていても世界の情勢を見守っていたのかもしれない。
となると、水鏡に映ってるおバカな子についても。
「……シアがあのお姉さんを助けたいの?」
「うん! ご飯のお礼!」
「じゃあ、神の仕事としてやってみる?」
「うん!」
シアは大きく頷くと、体を水鏡に届く高さまで浮き上がらせて、両手を水鏡に向けた。
(さあ、何をしてくれるのかしら……?)
見た目は赤児でも、誕生から既に数百年は経っている。
本来この世界で常駐する主神ではないが、姫で引き合わせたことで、神の魂の成長も少しずつ養えてきていた。異能によって作り出された、神の供物にも匹敵するあの美味なるパン達のお陰で。
「……こんなおバカな子ぉ〜!」
横から見ると、手の中に力を集めているのがわかった。
どうやら、相当怒っているらしい。シアは収束させた光の球を白くさせ、水鏡の近くまで浮遊させた。
何をするのかしら? とばーば目線で気になってしまうが、孫の活躍から目を逸らしてはいけないと気持ちを落ち着かせた。
「ぜーんぶ、ぜーんぶ忘れちゃえ!!」
刹那、空間ごと光がほとばしり、フィルドの方も『お?』と気になって声を上げていたが。
消えた頃には、もうこっちにやってきて、三人で水鏡を覗いたら。
「ぷぷ。シア、ちょーっとやり過ぎだよ?」
「じーじ? あの子悪い子でしょ?」
「うん、だからって」
だからって、赤ん坊にまで退化させるとは誰も思っていなかっただろう。
フィルドの案内で駆けつけきていたシュライゼンやミュファンも口をあんぐりと開けていたし?
『これは……』
『誰なんだ? こんな幼児が城内に……?』
『しかし、まとっている衣服は……ヴァーミス卿のものです!』
『へ? じゃ、誰なんだい? こんな魔法でも退化だなんて禁忌を犯したのは……?』
そう、神以外に使うことを禁じられた、極大魔法の一つ。
シアはまさしく、神だから扱えてしまうのだが。
「しょーがない。あのままでもいいかもしれないけど、事情説明だけはしようか?」
「ええ、そうね?」
「ばーば、シア、ダメだった?」
「いいえ。上出来よ?」
むしろ、退化したのだから何も出来ないに等しいでしょうし。いい見せしめにもなるわ。
雑魚と呼ばれていた強固派の子達は、粗方シュライゼン達が捕縛したし。根づいてしまった世代の強固派のどれもが、シアの術で退化するとわかれば……おかしくて仕方ないわ。
【それは、我らが神による見せしめに近いが。強固派と呼んでる阿呆の子らの成れの果てよ。主らも、神の怒りに触れれば、これだけで済まないことを理解したろ?】
「「……は!」」
元の老成した声音で、シュライゼン達に伝えている夫も……凛々しいわぁ。惚れ直してしまいそう。
けれど、聞き入っているわけにはいかないので。私もシアを抱えて彼の横に立った。
次回は木曜日〜




