109-1.ご両親とのお茶会
お待たせ致しましたー
*・*・*
でん、でででん!
って、効果音とかがこの場合似合うかもしれない。
だってだって、昨夜アイリーン様がお急ぎでやってこられてから渡されたお手紙で。
「チャロナちゃん? そんな固くならなくていいんだよ?」
「無理をおっしゃらないでくださいな、旦那様。カイルキアやアイリーンの前ではないですもの?」
「はは。あれの両親だけだと言うのにねぇ?」
む り い わ な い で く だ さ い!!
『でふ?』
「ロティちゃん、今日も可愛いねー?」
今、何故か。
三階の客間の一つを使って、大旦那様であるデュファン様とその奥様であるエディフィア様とお茶会しています。
アイリーン様からいただいたお手紙には、『明日の八つ時にお茶会をしましょう。お茶菓子はこちらで用意するので大丈夫よ?』と言う内容だったので。
カイルキア様にお見せしてから、今日はメイミーさんに授賞式で着ていたドレスに着替えさせられて、メイクもバッチリに。
そして、お茶会になったわけですが。お二方とも、私が席に着くとずっとニコニコしていらっしゃるのだ。
「はー、チャロナちゃんも着飾ってさらに可愛いね? 愚息にはもったいない」
「え、デュファン、様?」
「ふふ。ごめんなさいね? アイリーンからすこーしだけ聞いてるのよ?」
「え、え、大奥様!?」
「エディフィアでもいいわよ? 長いからエディとか」
「あ、エディ。君だけずるいね?」
「ふふ」
御子息のカイルキア様にはおそらくバレていないのに、先にご両親にはバレていらっしゃいますですのこと!?
「おやおや、チャロナちゃんの顔が盛大に赤くなってしまったじゃないか?」
「貴方様も煽られたではないですか?」
「ふぇ……す、すみませ」
「「なんで??」」
「ふぇ?」
謝罪しようとしたら、逆に疑問に思われてしまいました。
お二方が例の強固派とやらでないのは見てわかってるけど、公爵家の方々なのに、元孤児の使用人が御子息を想うのを快く思ってるだなんて。
「ふふ。私達は、強固派ではありませんもの。実は、旦那様のお母君も孤児でしたのよ?」
「そ、そうなんですか!?」
「うん。母上は孤児だったと言っても、引き取られた先で良い教育を受けたそうでね? 色々あったけど、父上に見初められて今も幸せに暮らしてるらしいよ?」
「? 過去形なんですか?」
「あ、違うよ? 僕はエディの家に婿養子で入ったから、両親とは別で暮らしてるんだ」
「そうなんですね……」
お貴族様だけど、お家の事情で婿養子に入られることもあるんだ。なるほど、なるほど?
けど、今ご当主でいらっしゃるカイルキア様には、恋人も婚約者様もいないご様子。それなのに、私の気持ちを知った上でなお、御子息の恋人に進めてくださるだなんて。
「だから……とも少し違うけど。孤児なのに、セルディアス王家から授賞した身じゃないか! それならば、身分の釣り合いも不足とも言い難い。我が愚息を少なからず想っているのであれば、おじさんは協力するとも!」
「私もよ、チャロナちゃん。さあ、ロティちゃんが我慢出来そうにないようだから。ケーキ、召し上がってちょうだいな?」
「え、あ、いただきます!」
『いちゃだきますでふぅうううう!!』
まだまだお話は続くようだけれど、今日のメインであるお茶会のお菓子。
なんと、エディフィア様と昨日お手紙をいただいたエリザベート様とのお手製らしく。
日本でいた時に、パティスリーなどで見かけたのと遜色がないくらいに美味しそうないろんなベリーのフルーツタルトだった。
これは、エディフィア様の好物でもあるらしい。
「はい、ロティ」
『あむ!……んんんん〜〜〜〜!! おいちいでふううううううう!!!!』
「あら、ありがとうロティちゃん」
「……美味しいです!」
ベリー達が新鮮なのはもちろんだけど。
タルト生地も香ばしくて、程よい甘さでベリーとも相性ばっちし!
しかもこれ、相当の技術がないと作れない味だ。
内側のカスタードも、私が作るのより丁寧できめ細かい舌触り。美味しくて美味しくて、フォークが止まんないよ!
「ふふ。チャロナちゃんにも喜んでいただけたようね?」
「すっごく……すっごく美味しいです!」
「ありがとう。けど、私には特別な技能や異能はないわ。これも、母に教わりながら作ったもの」
エディフィア様は、部屋の中で待機してくださっているメイミーさんが淹れてくださった紅茶をひと口飲んで、なぜか苦笑いされた。
「公爵家の娘として、母の娘として。あなたのようにパンは作れないけど、母とよくお菓子作りをしてただけだわ。これもその一つ」
「そ、そんなことないですよ!」
いくら教えを受けただけでも、お菓子作りは普通の料理とも違い、繊細さが求められてしまう。
だから、エリザベート様に教えを受けただけでも、こんなにも美味しいお菓子を作れる腕前は本物だ。
それを告げると、エディフィア様は目を丸くしてしまったが。
「そう……なの?」
「はい。パンもですが、お菓子作りにも技術が色々求められます。ですから、そんな風にご自分を責めないでください」
「……ありがとう」
ああ、その微笑みが美し過ぎて眩しい!
やはり、アイリーン様のお母様なので笑顔がよく似ていらした。
すると、大きな手に頭をぽんぽんと撫でられたので、右隣のデュファン様に顔を向けた。
「デュファン様……?」
「うんうん。やっぱり、君は我が愚息にいいんじゃないかと思ってね?」
「ふぇ!?」
「あら、旦那様。先程はもったいないとおっしゃいましたのに」
「いやいや、貴族関係なく人を見る目がいい。社交界で媚を売ってくる淑女よりもずっといいよ。おじさんは、君に協力しちゃうよ?」
「ええ。それなら私も」
「ふぇえええ!?」
結局、元の話に戻ってしまい。
私は大旦那様達に、カイルキア様の嫁に来ないかと真剣に相談されちゃって。
つい先日の遠乗りでのデートの、出来事まで事細かく事情聴取されてしまいました。
「今日は楽しかったわ、チャロナちゃん。母のお願いもよろしくね?」
「愚息のことも頼んだよー?」
そして、根掘り葉掘り聞かれて、HPがゼロに近くなった私だったが。
転移でのお見送りを気力で耐えて、ありがとうございましたと言い、お二方が消えてから地面にペタンと膝をついた。
「ふふ。お疲れ様、チャロナちゃん」
「ふぇぇ……大変でしたぁ」
『おちゅかれしゃまでふぅ』
とりあえず、あれだ。
何故か、ローザリオン公爵家の嫁扱いされてしまったことに、頭が追いつかずパンクするしか出来なかったのだった。
次回は火曜日〜




