108-2.嬉しい味(エディフィア視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(エディフィア視点)
今日は我が娘が、当主を継いだ息子の屋敷の方へと出向いている。
セルディアスの夏の暑さには、暑さの弱い私にはほとほと困ってはいるが。ここ最近は随分と調子もいい。
娘と、母の作ってくれた……姫様直伝のアイスクリームのお陰だ。毎日食べると頭痛を伴うからと、娘のアイリーンに言われているので控えてはいるが。
今は、久しぶりに母と厨房に立って、姫様へのお礼にとケーキを焼いているところだ。
「さあ、あとは仕上げね?」
「久しぶりに作りましたけど、うまく出来ましたわ」
この時期に採れるベリーをたっぷり使った、母が得意とするタルトと言うケーキ。
手間はかかりましたが、タルト生地が冷えたら、仕上げにたっぷりとベリーを乗せて艶出しをしてから、粉砂糖を振りかけるのだ。
「あなたが元気になってよかったわ。対策が見つかって、本当に良かったもの」
「ですが、お母様。毎日食べているとお腹を壊す可能性もあるらしいですから。アイスクリームだけではいけませんし」
「そうね。他の対策も考えなくてはいけないから」
とは言え、一度きりしかお会いしていない姫様に何もお礼をしないわけにはいかない。
だから、お母様にお願いしてケーキを作り、最近転移の魔法を習得された旦那様とご一緒に息子の屋敷に向かう予定だ。
その先触れは、今日アイリーンに託しているのだが、お母様の方を優先し過ぎてなければいいのだけれど。
「さ、出来たわ」
「久しぶりに見ますが、やはり美しいですね?」
贅沢を追加して、艶出しと言う液体を塗ったら、輝かんばかりの美しさに!
ああ、幼い頃に母にせがんで作ってもらったのとほとんど同じだわ。
「すぐにでもお渡ししたいですけど、明日と決めましたし」
「箱に入れてから、魔法鞄にしまっておきましょうか?」
その鞄は私個人のものを使うことにして、自分の部屋に置いてからお母様とは試作用に作った、別のベリータルトでお茶会をすることになった。
「エディフィア、前にも聞いたかもしれないけれど。姫は想像以上にアクシアと似ていたのかしら?」
「ええ、お母様。アクシアと瓜二つと言ってよかったですわ」
十六年前の、戦争の最中に命を落とした……私にとっては従姉妹であった元王妃のアクシア。
お母様にとっては、可愛らしい姪っ子であった彼女の忘れ形見。今は何故かチャロナと名乗っている息子の使用人は、彼女の唯一の娘だった。
そして、私の娘の婚約発表のパーティーの時に、はじめてお会いしたけれど……本当に、若い頃のアクシアそっくりだったわ。
王家の証である、彩緑の髪もだけど顔立ちが特に。唯一、目の色だけは違っていたのだけれど。
「そう。……今度お会いする時に、泣くのを堪えないといけないわね?」
「私も大変でしたわ。けど、なんとか……」
「ええ。あなたとアクシアは仲の良かった従姉妹同士だったもの。気持ちはわかるわ……」
「お母様……」
あなたとて、愛しい姪の生き写しを目にしたら、堪えられないでしょうに。
けれど、それを今言うべきではないので、グッと堪えた。
「けれど、少し楽しみではあるの。自分の孫ではないけれど、アクシアの娘と共に料理を出来るかもしれないことが」
「そうですわね」
私も少しだけ聞いている、姫様の異能。
お母様とは違い、いにしえの口伝だけでなく異世界の料理技術を再現出来る優れた異能らしく。それだけでなく、マックス殿と同じ異世界からの転生者ゆえ……アクシアの娘と言う記憶がほとんどないのは無理ないが、息子のカイルキアの元で元気に過ごしているらしいが。
アイリーンとレクターの婚約パーティーの時にいただいたお料理で、その技術の一端を見ましたけど。正直言って、凄すぎたわ。特に、パンがあんなにも美味しかっただなんて!
(無闇やたらに広め過ぎてはいけない、カイルの判断もだけれど。陛下方のご決断も納得だわ)
特に、アクシアの娘とわかれば、強固派が黙ってはいない。
友好国でも強大な力を持つ他国の王妃へと推薦したがるだろう。アクシアの忘れ形見をそんな派閥争いに巻き込みたくないわ!
それに、旦那様から伺ったのだけれど、姫様は我が息子を好いてくださってるらしく。しかも、カイルも幼い頃のアクシアとの約束を思い返しただけでなく、自分の意志で姫様を好いているそうだ。
私と旦那様のように、出来れば想い合うご縁で結ばれればいいとは思っていたけれど。息子が本気で想う相手が姫様なら、私としても大賛成!
絶対、正式な婚約までして欲しいわ!
「わたくしは、一度しか口にしていないのにだけれど。姫のパンは王宮以上だったわ。あのようなパンがわたくしにも作れるか少し……いいえ、だいぶ心配だわ」
「……そうですわね。姫様も華奢な女性でしたけれど、あのパンは本当に、美味しゅうございましたわ」
サンドイッチのパンですら、ふわふわでむせることもなく、ほのかに甘くて。
トウモロコシが入ってた白パンだけでも、その技術の一端を垣間見ることが出来た。
シェトラスに頼んで、そのパンをいくつかお母様へのお土産にしてこの屋敷に持ち帰ったのだけど。お母様はその時涙を流されたわ。
「アイリーンに持たせたけれど、ちゃんと届いたかしら?」
「姫様を姉のように慕っていましたから、きっと」
と思いたいけれど、お母様の方を優先し過ぎて私の方を忘れていないか、少し心配だった。
その結果、帰ってきたアイリーンは私の書状を忘れて急いで転移を使って、姫様に届けたらしい。
「申し訳ありませんでしたわ、お母様!」
「いいのよ。それで、お土産があると聞いたのだけれど?」
「はい! お姉様……姫様がカイルお兄様と遠乗りに行かれたらしく。そちらで摘んで来られた木苺でジャムサンドを作りましたの!」
「あら」
とうとう、逢い引きまでしたのね、あの息子は? けれど、多分レクター辺りが提案して行かせたと思うわ。
ですが、せっかくの姫様からのお土産。いただかないわけにはいかないわ。お母様や旦那様、お父様も交えて食後のデザートで召し上がることにした。
「「ほう!」」
「まあ」
「まあまあ、とっても美味しゅうございますわ!」
「本当に……」
木苺のジャムもだけど、ふわふわの食パンと言うパンが、とても美味しくてまた涙が出そうになってしまった。
次回は土曜日〜




