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107-6.それぞれの報告(マックス/レクター視点)

お待たせ致しましたー






 *・*・*(マックス《悠花(ゆうか)》視点)









 死ぬかと思ったわ。



「か、カルテの整頓だけなのに。なんでこーんなにも疲れるのよぉ〜! 事務の雑用並みじゃないのぉ〜!」


「つべこべ言わない! ほらまだあるんだから!」


「う、うぅ……」



 あれから、レクターにしごかれてしごかれてこき使われて!


 普段はあんまりしないらしい、カルテの整理整頓を頼まれたってわけ。



「あ、あのー先生? いくら幼馴染みさんでも、マックス様をそのように扱うのは……」


「今更。伯爵家云々は関係なく、彼は年下だし僕は年上。当然の指示を出したまでさ。鍛錬以外実質暇してるんだし」


「……言い返せないわ〜」



 助手ちゃん達も手伝ってはくれてるけど、それ以上にどんどん整頓箇所を頼んでくるレクターの人使いが荒いこと荒いこと!


 お陰で、使わない筋肉を使って使いまくって、明日は筋肉痛確定よーん!


 もうしばらくは、手伝いたくはないわぁ!!



「ほら、もう直ぐ姫様達も帰って来る頃だろうし。君の役目があるだろう?」


「……そうね」



 うまくいったかどうかはわかんないけど。チーちゃんとガールズトークするのよ!


 それは昨日のうちに約束してるから、語り尽くすつもりではいる。


 だから、仕事はここまでね!


 だもんで、ちょっとひとっ風呂浴びてくるか、と貸し切り状態だった大浴場で汗を流して。


 乾燥(ドライ)できちんと髪を乾かして丁寧にヘアスタイルを決めてから玄関で待ち。


 カイルの愛馬、ジークフリートのいななきが聴こえて影も見えてからあたしは腕を振った。



「おーい、おかえりー!」


「……ああ」


悠花(ゆうか)さん!」



 さて、デートしてきた帰りの二人は……と近づいて顔を見てみたけど。



(……あー、やっぱり)



 くっついた雰囲気もなく、親睦は深めたようだけど。他になんの変化もなし。


 どっちもがどっちだったって、言うか、フィルドらのせいで記憶を封印させられたようね?


 ジークフリートから降りてから、やってきたゼーレンにカイルが預けて、二人でこっちにやってきたけど。チーちゃんはいい笑顔だけど、カイルは相変わらず無表情だ。



「……楽しかった?」



 カイルじゃなくて、チーちゃんに声をかけるとぶんぶんと手を振った。



「たっくさん、たっくさん木苺をとってきたの! ジャムやアイスにする予定だよ!」


「そ。期待してるわ。……カイル、あんたにはレクターが話があるんだと」


「……ああ」



 さて、あっちはレクターに任せるとして。


 今からガールズトークよぉおおお!


 進展がどこまで進んだか、絶対聞いてやるんだからぁああ!


 とりあえず、チーちゃんが普段着に着替えて影で待機してたロティちゃんを出してから部屋に入らせてもらったわ。


 ロティちゃんは、少し疲れてたのか出てくるとベッドで眠っちゃったらしいけど。



「さーあ、チーちゃん? 話せる範囲でぜーんぶ話してもらいましょうか?」


「え、えっと……」


「告白はした?」


「し……た、のかな?」


「なんで疑問形?」


「うーん。何回かカイル様とお昼寝しちゃったせいか、覚えて無くて」


「……はー」



 やーっぱり、フィルドのせいで記憶を改竄されちゃったわね?


 しかも、今回は結構念入りに。二人揃ってってことは、かなりうやむやにさせたわけね?


 これは、本当にチーちゃんの成人の儀まで待たされるのかしら?



「あ、でも」


「……でも?」


「滝に行った時に、ちょっと転けて抱きとめてもらったんだけど……。なんでかぎゅってされ……たの」


「ほほぅ!」



 なんてテンプレの王道!


 ちょっとドジっ子がやりかねない事態に陥って、間一髪で助けたら!


 それが好きな相手だから思わず抱きしめちゃうわよね!


 あたしも相手がエイマーだったら、当然抱きしめるわ!



「あ、あとは……」


「ふふ、あとは〜?」


「……ちょっと、笑ってくれた」


「……だけ?」


「う、うん。だけ」



 お・の・れ、フィルド!


 まだダメだからって、チーちゃんとカイルの恋路を邪魔するだなんて、神だからってしていいことと悪いことがあるでしょ!?


 むしろ、くっつけば絆とかもガッチリするっつーのに、なんでまたダメなわけ?


 カイルの方はどーなってんのよぉおおおおお!!








 *・*・*(レクター視点)







「……え。抱き止めただけ以外、記憶を改竄させられた?」


「ああ。なにも覚えていない」



 僕は場所をカイルの執務室に移動して、今日のデートの報告? をひと通り聞いたは聞いたんだけど。


 やっぱり、最高神からの妨害があり、カイルは姫様に想いを告げられなかったようだ。その逆も然り。



「あー……やっぱりダメだったんだー?」


「姫も気付いているかどうかはわからないが。姫の記憶を無闇に封印させまいと、あとはその手の話題を避けた」


「そっか……お疲れ様」



 一歩踏み出したかと思えば、また一歩遠去かる。


 まったく、神も都合があるからって、本人達の記憶も想いもいじらなくていいと思うんだけど。


 いったいなにをお考えなのだろうか?



「……だが、焦る必要はない。以前神から直接伝えて聞いたことが本当であれば。……少なくとも、姫に打ち明けることは出来るはずだ」


「それは君の想い? それとも陛下方について?」


「……おそらく、両方だとは思うが」


「自信ないねー……」


「なんとも言えない。あの一度きりだしな……」


「あ、そういえば……。その神ご夫婦が来られるのって近いんじゃ?」


「……ああ。姫はカレーを作るとはしゃいでいたな」



 姫様や多数の使用人以外、あの神様の正体に気づいていないからね……。姫様もレイバルス公の知り合い、としか思ってないからか、仲良くされちゃってるし。



「けど、カレーかぁ。カレーパンとはどう違うか聞いてる?」


「なんでも。カレーパンの中身をもっとサラサラさせたのを、米にかけて食べるのだそうだ」


「ん、んん? 米にかけて?」


「姫やマックスのいた異世界では、老若男女問わず人気で食べ慣れたものらしい。俺もだが、皆も食べればカレーパン以上に気にいるだろうと」


「そうなんだ……」



 カイル、表情には出てないけど。姫様のお陰で食欲については貪欲になったからか、声音が期待しているようなのが感じ取れた。


 僕も乳兄弟として長く接しているからわかるけど、ほんとそれが目立っちゃうと色気がないなあと呆れてしまいそうだ。



「明日辺りに試作するらしい。いったいどんなものになるのか期待してしまう」


「う、うん。食べ過ぎはダメだよ?」


「あ、ああ……」



 ああ、本当に。


 色気のないデートで終わっちゃったんだなあ……。

次回は日曜日〜

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