107-5.今はダメ
お待たせ致しましたー
*・*・*
(……ああ、もう。びっくりした、びっくりした!?)
抱き止めてもらったとは言え、そこからぎゅっと抱きしめられるだなんて、思わなかった!
なんで、なんで!? と思っても、離してもらってもカイルキア様は話してくださらなかったし。
とりあえず、平常心平常心と心臓に言い聞かせて、なんでもないよーと思いながら木苺を洗って二人でなんでもなかったかのように食べるだけになったが。
(……期待、しちゃうよ)
もしかして、王道ルートに乗っかってしまってかと思いかけだが。ちょっと違和感を感じた。
前のお庭でのお散歩デートの時もだけど、何故か途中で私は眠ってしまってた。
そして、それ前後の記憶がない。
もしかしたら、異能を与えてくださった神様が、このルートでも何か妨害をしているのか?
じゃ、私は結ばれてはいけない? と思っても。
なんだって出来る神様なら、私の想いですらなくすことだって可能なのに。消えるどころかそのまま。
むしろ、放置状態?
(……おかしい!?)
パンの製造員以外の千里の趣味だったのは、SNSで神絵師さんの画像を発見するとか、ラノベでキュンキュン言うような展開を読み込むくらいだったから。
ゲームはさほどプレイはしていなくても、異世界でこの展開はおかしいぞ?
私、一度か二度はカイルキア様に告白したかもしれない?
んでもって、振られてはいないようだけど。神様にはなかったことにされている?
もしかして、さっきのお昼寝も、その間の記憶も改竄させられた?
そのことに、カイルキア様はひょっとしたら気づいているかもしれない?
まさか、とちらっと見てもカイルキア様はいつも通り無表情。うん、ピクリとも変化ないから表情が読みづらい!
(う〜〜ん。ってことは、多分悠花さんに話しても同じ、かな?)
隠してるかもしれないけど、共有したら多分神様に記憶を改竄させられる可能性大。
であれば、ロティに聞いても、前にステータス表示させられないと一緒の結果になるかもしれない。
けどさあ?
(もしかしたら、カイルキア様に私の気持ちがモロバレになってるかもしれない!?)
だとしたら、このデートってお情けから?
まさか、カイルキア様が私を……って、あるのかないのか。
でも、フラグが立っているのなら、もしかしてって期待しちゃうよ……。
もう一度ちらっと見ると、目が合ってしまい、カイルキア様が少し、すこーし口元を緩めてくださった!?
(も……もし、かして!?)
なにのフラグで決まったかはわかんないけど、私……好かれている?
もしかして、両想い?
う、嬉しい!
『はいはーい。そこは待った! 俺達でもそこまで行き着いちゃったら封印するよ?』
「……ふぇ?」
誰、と思って呼ばれた方に振り返ったら、透けているけど、いつもの独特な青装束のフィルドさんが立っていた。
何故、と思って再び前を見たら、カイルキア様は動かずに固まっていた。少し離れたところにいるジークフリート君も。
『やっほー? ちょっと振り?』
「ど……して」
『んー? 俺が君の行き着いた神だから? って言えばお分かり?』
「フィルドさんが……じゃあ、ユリアさんも?」
『そ。けど、今のこの空間の記憶は、さっきも言ったように封印するから』
「な、なんで、ですか!?」
せっかく、両想いだと分かったかもしれないのに。
なんで、そこを神様に邪魔されてしまうのか。
ゲーム云々のセオリーどころじゃなく、私は信じられなかった。
私の顔はきっと絶望感丸出しだろうに、フィルドさんは笑みを止めずに私の前に来ると、ぽんぽんっと頭を撫でてくれた。
『わざとじゃない。が、今は耐えてくれ。君の想いも、彼の想いも無駄にはしたくないんだ。君はあまり強固派のことを知らないだろう?』
「きょう……こ、は」
『あれは根深い。俺達も手は貸しているが、公爵であるカイルキアに何も害を及ばさない思えないからね? だから、殲滅させるまではちょっと我慢しててくれ。君も無関係じゃないから』
「私?」
『そ。神様側の都合ももちろんだけど、君達に害を与えるおバカな人間がいるからね? それがだいたい終わってからは、もう異能以外で手出しはしないよ?』
「……じゃあ。忘れる前に、一度でもいいので聞きたいことがあります」
『うん?』
「日本じゃ、ただのパン職人でしかなかった私に。魔法や錬金術のチート特典を与えたのはなんでですか? 悠花さんだって転生なさったのに」
『あー、それかあ?』
どの道忘れさせられても、一度は聞いておきたかった。
この神様の目的がなんなのか。
ロティを与えてくださったのは感謝しているけど、色々付与させ過ぎだと思う。
頭をかいていたフィルドさんは、一度息を吐いてから私に向き直った。
「……答えてくれますか?」
『ふふ。さすがはレイアークの世界出身者とは言え、肝は据わっているね? いいよ、少しだけ教えてあげる。当然、話が終わったら忘れちゃってるけど』
「構いません」
『んじゃ、言うけど』
私は緊張しているのに、フィルドさんはにっこにこになっていた。
『第一は、自衛のため』
「自衛……防御力が乏しかった以前のままでは無理だからですか?」
『そう。君の前世、周千里の持つパン製造技術だけでも、この世界じゃ重宝されるけどさ? それをセルディアス以外の他国にも知れ渡ったら。君は一国の王女並みの価値がある。連れ去られたとしても、対応出来るからさ?』
「じゃあ、魔法はわかりましたけど。錬金術は……?」
『それは俺達からのプレゼント。以前のチャロナのままじゃ、適性をコントロール出来なかったから記憶をダウンロードさせたことで修復してあげただけ』
「……本当に?」
『俺というより、ユリアの提案だけどね?』
ここにはいない、ユリアさんからの提案。
たしかに、優しいあの女性からなら納得がいく。
なら、質問するのもここまでだ。
「……私の想いは、いつか報われるんですよね?」
『うん。大丈夫、そこはきちんとくっつけてあげるから』
「え?」
『君達は、異世界を超えた魂の共鳴者だからね?』
そう言って、もう一度髪をぽんぽんされた直後に。
私はまた大事なことをたくさん忘れさせられてしまった。
けど、カイルキア様とは目が合ったままで!
「どうかしたか?」
「にゃ、にゃんでもないです!」
「はは。落ち着け」
そして、疑問に思ってたことはすべてなかったことにされた私は。
帰るまで、カイルキア様が食べてみたいパンや料理の提案や質問に答えることになりました。
次回は木曜日〜




