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106.ホムラ皇国(シュライゼン視点)

お待たせ致しましたー


今回は久しぶりに長めですん






 *・*・*(シュライゼン視点)







「とうちゃーく!」


「……っと」



 マンシェリーとカイルがデート中? の最中(さなか)に。俺は、王太子としてマンシェリーが幼少期のほとんどを過ごした第二の故郷、ホムラ皇国に転移してやって来ているんだぞ。


 もちろん一人じゃなく……ホムラ皇国とは馴染みの深い、シュィリンを伴い。


 転移にはほとんど慣れていないからか、到着した時はふらついていたが、この間のマンシェリーのようにはなっていなかった。



「相変わらず、豪華絢爛過ぎる城なんだぞ」



 転移で移動とは言え、今日はセルディアスの王太子としてやってきているから正門前に到着するようにした。


 当然、兵の目にとまったが俺を見るなり最敬礼してきたんだぞ。



「シュライゼン王太子殿下! ようこそ、シュリ城へ!」


「「「ようこそ、シュリ城へ!!」」」



 顔見知りの兵達だから、俺のことはすぐにわかったんだぞ。挨拶がわりに手をひらひらさせてやれば、さらに深くお辞儀するんだぞ。ちょっと鬱陶しい!



「……王太子殿下、そちらは?」


「ちょっとした連れなんだぞ。俺の知り合いなんだ」


「は!」



 シュィリンは外套をかぶせているから顔出ししていない。何せ、随分と離れていても元皇族。現在は彼の叔父家族が皇位を継いでいても、彼の顔を見て先代の皇帝を思い出す臣下も多いだろうと。


 てな訳で、今回はそんな格好をしてもらっているわけだ。


 とりあえず、皇子に会いに来た旨を兵士に伝えて、俺とシュィリンはゆっくりと廊下を先導する兵士の後について行く。



「アシュリン皇子殿下、セルディアス王国王太子殿下をお連れ致しました!」


「……通せ」



 ちょっと不機嫌な男の声が扉越しに聞こえたが、俺は予想してたのでウキウキしながら中に入ったんだぞ。


 んで、シュィリンと入って扉を閉めたら拳が飛んできたので素早く受け止めた。



「!?」


「おっと」


「…………」



 繰り出してきたのは、黒髪長髪のつり目がちな男。


 シュィリンよりも豪奢なホムラの伝統服でいろいろ着込んでいるのに身軽に攻撃してきた。


 受け止めた拳を離せば、次の攻撃。


 次、次、と受け止めては流したりしてると、今度は顔に向けてきたので、さすがにムッとしてきたから。避けて大袈裟なくらいゲンコツをお見舞いしたんだぞ!



「ぐっ!」


「俺の顔にまで本気で殴り込むとは、いい度胸なんだぞ。アシュリン」


「ぐっ……だからって、そっちも本気で殴ってくるな! 痛い!」


「殴り合いはいつものことだけど、顔はダメなんだぞ。君も俺も王位継承権第一位同士なんだから」


「そうは言ってもだな!」



 すると、アシュリンは立ち上がってからツカツカと足音を立てて呆然としてるシュィリンの前に立った。


 いきなりの事態に、シュィリンは身構えていたがアシュリンは外套のフードを掴んで勢いよく取った。



「…………兄上」


「…………」



 顔が見えたシュィリンは、兄と呼ばれても目線を合わせないでいた。


 何故、シュィリンが皇太子であるアシュリンから兄と呼ばれてしまうのか。


 何故、シュィリンが気まずそうに目を逸らしているのには訳がある。


 シュィリンは先代皇帝の長子であり、元皇太子だった。が、叔父の一人の皇位略奪により、城を追われたのでセルディアスに亡国した。


 で、現在の皇帝は他の叔父が継ぎ、皇太子も長子のアシュリンになっている。つまり、二人は従兄弟同士な訳だ!



「……無事でいたのなら、もっと早く連絡を寄越してください!」



 アシュリンはシュィリンを敬愛しているのか、敬語で彼に問い詰めていた。



「……だが、俺はもうこの城では部外者だ」


「どこがですか! 伯父上……先代皇帝が死してなければ、皇太子の位は兄上のものです。俺なんかが次期皇帝になど畏れ多い!」


「しかし、アシュリン。現実は叔父上とお前が皇帝の座について正解だ。俺など、もうそこに居てよくない」


「ですが!」


「おいおーい、話が盛り上がっているとこ悪いんだけど。俺もいるんだぞー?」


「シュラは黙っていろ!」


「えー」



 米の炊飯を教えにきただけのついでに、シュィリンもちょっとだけ里帰りさせてあげればいいかな……と思っていたが。


 予想以上に、アシュリンの癇癪? にさわってしまい……終いには、久しぶりの従兄弟との再会に涙を流して床に膝をついてしまった。


 他国の皇子とは言え、友人がここまで感傷に浸るのは初めて見るんだぞ。



「シュラから生きていらっしゃることは聞いていましたが。ここまで伯父上に瓜二つとは……俺は、今すぐに皇位継承権を返上したい!」


「いや、だからそれはダメだ」


「何故ですか!?」


「無理言わない方がいいんだぞ。皇位継承された陛下も、君も優秀だ。シュィリンにいくら継承権を戻したところで、彼は戻る気が毛頭ない。それに、シュィリンは我が国の暗部部隊の幹部だ。こちらとしても優秀な人材をいきなり引き渡すわけにはいかないんだぞ」


「待て、シュラ。兄上にそのような危険な任務を任せているのか!?」


「俺が希望して部隊に入隊したんだ。王太子殿下からのご命令ではない」


「兄上……」



 うーん。話に聞いてはいたけど、想像以上に従兄弟のシュィリンを敬愛してたみたいなんだぞ。


 たしかに、性格も時々無愛想なところはあるが、フェリクス達からの信頼も厚いし、マンシェリーも一時期一緒に過ごしていたとは言えかなり懐いていたらしい。


 そこは元々皇帝になるための教育を受けていたせいもある。


 俺もソーウェンとの戦争のこともあり、シュィリンの身の上は他人事じゃない。


 マンシェリーも実際逃亡させたのだから、本当に他人事じゃないから。



「先ほどの威勢はどうした、アシュリン。王太子殿下と渡り合う仲なのなら、お前はもう立派に皇太子だ。胸を張っていい」


「……兄上ならそう言いますね」



 そして、ようやく受け止めたのか涙を拭ったアシュリンは応接スペースの椅子に腰掛けた。



「で、今日の用件なんだけど」


「魔法鳥づてに聞いていた、米をうまく炊ける方法か? お前だから信じるが、何故主食ではないセルディアスで可能になったんだ? それについては話してくれるのか?」


「うむ。行方不明だった俺の妹が見つかり……神から与えられた異能(ギフト)のお陰で可能に出来たんだぞ!」


「妹……姫君が見つかったのか!? 何故世間に公表していない!?」


「まだ出来ないからだ。俺も聞いた話では、あとひと月後に成人の儀と生誕祭をひらくことで公表されるそうだ」


「そんな先まで?」


「姫は、俺と同じ孤児院で育った。と言っても、俺と同じセルディアスではなく、このホムラでだが」


「と言うことは……我が国で匿っていたということに?」


「だから、米の炊き方については詳しいんだぞ。けど、異能(ギフト)を得たお陰で美味しく炊ける方法を俺達にも伝授してくれたんだ。シュィリンも覚えたんだぞ」


「そう……か。しかし、セルディアスの国王陛下は公表に納得しているのか? あの方ならすぐにでも公表されると思ったが」


「アシュリン、今から言うのはまだ皇帝陛下以外には言わないでほしいんだぞ?」


「なに?」



 とりあえず、簡単にマンシェリーの今の生活状態とこれまでの経緯を説明したら。



「【枯渇の悪食】で失われたレシピを復活……? 我が国ではパンよりもまんじゅうや米が主流だが、それすらも改善出来た、と?」


「うむ。マンシェリーの異能(ギフト)と前世の記憶と経験のお陰で、それらを可能に出来たんだぞ」


「しかも、一年だけとはいえ、兄上とは幼馴染み……?」


「使者だった、現宰相閣下からの命を受けて、だがな」


「……そうか。それなら公表は慎重になるだろう。なら、今日の本題は米の炊き方だな」


「まず、つけ置きと言うのが必要なんだぞ」


「つけ置き?」



 と言うことで、一から全部アシュリンに教えていくことになり。


 とぎ方、水の割合、つけ置き。


 火の加減、炊き時間、蒸らし。


 すべてを伝えてから、なんと皇帝陛下にも食べていただこうとアシュリンが言い出した。



「この炊き方で、父上も納得がいけば。国一帯だけでない、コクレンにも食の改革が見込めるだろう」



 と言うわけで、もう一度シュィリンには外套を羽織ってもらってから玉座の間ではなく、陛下の執務室に出来立ての塩むすびを持参して行くことになった。



「……父上。アシュリンです」


「……入りなさい」



 中に入らせてもらうと、たしか俺の王太子継承の式典以来顔を合わせていない、ホムラ皇国の皇帝陛下、リュンラン陛下がにこやかな笑顔で出迎えてくれたんだぞ。



「先ぶれで聞いてはいるよ。お久しぶりですね、シュライゼン殿下」


「お久しぶりです、皇帝陛下」


「息子から事情はいくらか聞いています。それと、そちらの外套の青年が」


「……お久しぶりです、叔父上」


「……シュィリン」



 久しぶりの家族との再会。


 陛下も、俺がいても涙を隠すことが出来ず。ひとしきり泣いてから、シュィリンを一度抱きしめ、それから陛下の顔に戻ったんだぞ。



「お見苦しいところをお見せしましたね? で、そちらの握りご飯が?」


「うむ。我が妹から伝授してもらった、美味しく炊ける方法で作ったんだぞ!」


「なるほど」



 マンシェリーのことも説明しながら食べてもらうと、陛下とアシュリンは肩を思いっきり跳ね上げたんだぞ!



「これは……」


「粥のようにゆるくなっていない、水気もないしっかりとした弾力。美味いぞ、シュラ!」


「これが本来の米の炊き方。美味しすぎるね……。殿下、妹君の異能(ギフト)とは言え、こうもあっさりとできてしまうものだろうか?」


「あと、パンも可能にしてるんですよ。前世で彼女は職人であったのと、米は主食の一部で他にも炊き方があるんですが、彼女の異能がないと無理ですね」


「……ふむ。是非ともお会いしたいですが、成人の儀までローザリオン公爵家にいらっしゃるのであれば。お邪魔はしない方がいいですね」


「……父上。その含みだと、ローザリオン公爵がいなければ俺の嫁にしたいと言いそうですが?」


「ああ。彼のことがなければ是非そうしたかったよ」


「ダメなんだぞ!」


「……叔父上。繋がりを持たれたいのは分かりますが姫は」


「はは。私も想い合っている男女の仲を引き裂いたりはしないよ」



 まったくもう、と俺はプンスコになりかけたが。


 マンシェリーには、指導員としていつかホムラに来訪してもらいたいと陛下にはお願いされた。


 おそらくだが、主食のもう一つであるマンジュウを美味しく作れるかどうか知りたいらしい。


 なので、マンシェリーが一度こちらの孤児院にいるマザーに会いたいとも聞いていたから。成人の儀が終わってから連れて来ようと片隅に思っておくことにした。


次回は水曜日〜

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