104-2.そこはストップ(マックス《悠花》視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(マックス《悠花》視点)
なんてこと、なんてこと!?
(んもぉおおおおおお、レイに蹴り喰らわす余裕もないわ!)
夜明け前に、夢でエイマーときゃっきゃ、うふふしてた幸せ満載だったのに。
レイがいきなり、『緊急事態でやんす、マスター!!』ってボリュームMAXで駆け込んできたから、寝起きでグーパンだけにすませたわ。
けどけど、我がマブダチであるチーちゃんの危機!? とか言うので身嗜みもほとんどせずに厨房に向かったわ!
で、泣き腫らした顔のチーちゃんを連れて、ひとまずチーちゃんの部屋にお邪魔したけどもぉ!
「んで、どーしたのよ。チーちゃん?」
優しく声をかけても、チーちゃんは俯くばかり。
よっぽど、嫌な夢を見たかもしれないのね?
『ゆーかしゃん……』
「なーに、ロティちゃん?」
一緒に連れてきたロティちゃんが、あたしの側まで飛んできてパジャマの裾をくいくいと引っ張ってきた。
『ロティもわかんにゃいんでふが、ご主人様も夢の内容を覚えていないんでふ』
「え、ほんと?」
「うん……全然覚えてないの。だけど、苦しくて、辛くて……起きてからずっと泣いてた」
「うーん?」
覚えてるから、ずっと泣いてたわけじゃない?
けど、苦しさだけが残ってて、ずっと泣いてたってわけか。それだと解決策は導けないが、やることは出来た。
「ちょっと待っててー」
「う、うん」
『でふ』
厚手のタオルで蒸しタオルをぱぱーっと給湯スペースで作り。
腫れっ腫れのチーちゃんの顔に優しく押し付けてから待つこと数分。
その後に、今度は冷え冷えのアイスタオルで目元を落ち着かせて完成。
「これで顔は大丈夫でしょ?」
「……うん。ヒリヒリしない。悠花さん凄いね?」
「OLん時にね? 振られた時とかに、腐れ縁だった幼馴染みがよくやってくれたのよ」
「そうなんだー……」
人身事故で死んだあたしのことを、どう思ってたかはもうわかんないけど。世話好きな奴だったわ。合鍵を持たせてたせいか、うちに上がり込んでは気が向いた時に家事なんか手伝ってくれてたし。
って、あたしのことはどうでもいいから!
「夢のことについては、本当に何にも覚えていないの?」
「……うん、全然。目が覚めた時、すっごい胸が苦しくなって……涙だけが止まらなかったの」
もう一度聞いても、ほぼ同じ答え。
とすると、考えられるのは、フィルド達最高神の力が加えられたかもしれない。
あたしもだけど、チーちゃんに都合の悪いことはとことん、記憶を封印されちゃってるからチーちゃん本人にされててもおかしくはない。
ついこの間も、カイルとの散歩? でちょ〜っと距離が縮んだかと思えば、チーちゃんは何も覚えてなくてカイルには微妙に記憶を残した結果で終わり。
明日に遠乗りを控えてはいるけれど、うまくいくかどうか。
カイルはカイルなりに何か告げるとは思うけど。あたし達の見てないとこで、フィルド達が記憶を封印しないわけがない。あとひと月後の、チーちゃんの成人の儀と生誕祭についてもだが。
「そう。悪夢とか、悲しい夢だったの?」
「わ……かんない。けど。今まで見てきた夢……とも違ってたと思う」
「今まで?」
「前に、少し話したよね? 昔よくこの世界のお母さんの子守唄を聞いた夢を見たって。ついこの前も見たけど、その夢の中には……お父さんかもしれない人も出てきた」
「ちょ……大問題じゃないの! なんで話さなかったの!?」
「う、うん。夢に意味があるだなんて思ってもなかったから」
「日本の陰陽師とかじゃないにしても。この世界にも夢には意味があるとされてるわ。知ってるのは、貴族と王族の間だけだけど」
「そ、そう……なの?」
「名前とかは聞き取れた?」
「ううん。ノイズがかったように無理だった」
「そう」
たしかに、夢でも神が操作していなきゃ、実の父親がセルディアスの国王でここでも三度会合した【アインズバック国王陛下】だと知っててもおかしくはない。
チーちゃんは今の人生の大半をセルディアスで育っていないから、その名前を知らないのは当然だけども。
違和感は、きっと覚えたはず。そこに、実の兄であるシュラが含まれててもおかしくはない。
けど、夢見は貴族以外、王家の内包技能に加えられてる……王妃様が死亡直後に使った特殊なのとは違う固有のものだ。
彩緑の髪を色濃く受け継いでるチーちゃんになら、当然可能な技能だ。
だから、おそらく王妃様の魂か、過去の映像とかで神が王家秘伝の子守唄を紡がせてもおかしくはない。幼い子供に、赤ちゃん以外でそんな方法を出来る存在なんて限られている。チーちゃんの育ての親であるマザーもきっと知らないわ。
「でも。お父さんみたいな人の声が……アインズさんに似てた気がしたの」
(おい、気づいてたんかーい!?)
けど、昨日言わなかったのはまだ半信半疑だったからのようね?
まだ、そんな頻繁に会ってはいないし、もし気づいたところで、あのおっさんが実の父親だって口に出来るかしら?
シュラが珍しく、実の兄だと言えないでいるのを我慢してるのに、父親の方が出来るかしら? わかんないわねー?
けど。
「もしかして、髪色?」
「うん。よくよく考えたら、似てたし……」
似てるどころか血の繋がった家族だけどね?
ここまで言って、フィルド達が動かないんだったらもう少し踏み込んでもいいわねー?
『え〜、俺相当信用されてないんだね〜?』
「どわぁ!?」
耳元で急に男の囁き声が聞こえてびっくりしたが、チーちゃん達が叫ぶ様子もない。
振り向くと、ロティちゃんと一緒に固まっていた。
てことは。
「正体を現したわね、こんの腹黒野郎!」
『はは〜、随分な言い方だね〜?』
結界かなにかの固有魔法とかで、あたし以外の連中を停止させるだなんて造作もないことだわ。多分、この記憶は忘れさせられるだろうが、立ち向かおうじゃないの!
すると、声だけ聞こえてたフィルドが、半透明の姿であたしの前に降りてきた。
「あんた、本当に神?」
『忘れるのに、聞いちゃうんだ?』
「ってことは、王女様に関する記憶の大部分を封印する気ね?」
『間違っていないけどー? 君達のためでもあるんだから、今のところは封印するだけだよー?』
「は?」
『あの王女を元の住処に返すタイミングは、あとひと月後に絶対するようにしなくちゃいけない。俺達だって、慎重に動いているさ。転生させた君達の大部分が、こういう世界に色々詳しくても、まだ正解を与えちゃいけない』
「まだ?」
『今与えちゃうと、君もだけどチャロナは色々考えて、俺達の出番をなくしちゃう可能性が強いからさ。だーかーら、今はまだ忘れてて?』
と、触れてもスカッとすり抜けるはずの人差し指が触れた途端、あたしは何をチーちゃんに言おうか忘れてしまってた。
ただ、代わりに。
「親父さん、お袋さん探しは手伝うわよ! とりあえず、泣きたい時があったらマブダチのあたしに頼ってちょーだい!」
「うわ!」
チーちゃんをロティちゃんごと抱っこして、また考察をするのだったけれど。
何故か、シュラや陛下の話題になると、あたしの口が閉じてしまうのだった。
そのあと、チーちゃんが仕事はきっちりやるからと厨房に行くのをきちんと送り届けたわ。
次回は土曜日〜




