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104-1.姫の気落ち(シェトラス視点)

お待たせ致しましたー






 *・*・*(シェトラス視点)







 どういう事態なのだろうか。


 朝の仕込みをいつもどおりにエイマーとレイバルス公としていたら。姫様(チャロナちゃん)が化粧でも隠しきれないくらい、まぶたを腫らせながらやってきたのに、さすがに私もだがエイマーも手を止めて駆け寄った。



「ど、どうしたんだい、チャロナくん!?」


『チャロナはん!?』


「お、はよう……ございます」


『でふぅ……』


「おはよう……。どうしたんだい、チャロナちゃん。何かあったのかい?」



 何か、ですまない事態なのは明白だが、私では彼女の心に深く踏み込めない。今は上司と言う立場ではあっても、自分は本来彼女とは臣下の立場でもないただの市井しせいの身でしかないが。


 だが、同じ立場でも、エイマーは彼女に縁を繋いでもらった恩を返すべく全力で立ち向かうだろう。今も姫様を抱きしめていた。



「誰かに泣かされたのかい!?」


「い……いえ。覚えてないんですが、夢を見て。夜中に起きてからずっと」


『じゅっと泣いてたんでふぅうう!!』


「『「夢??」』」



 悪夢ではないらしいが、彼女の見た夢のせいで泣いてしまっているのか。


 よっぽど、よっぽど哀しいことだったと言うのはわかるが、これでは慰めるのも少し難しい。けれど、こんな状態で仕事をさせてあげられないし、かと言って休みにさせるわけにもいかない。


 彼女のパンを今日も楽しみにしている旦那様や使用人達のことではない。


 こんな哀しい心に苛まれている姫様を、ロティちゃんと二人だけで過ごさせても、姫様はずっと泣いてしまうだろう。


 仕方がないが、ここはマックス様に頼らせていただくしかない。



「レイバルス公」


『マスターでやんすね?』


「ええ。呼んできていただけますか?」


『お安い御用でやんす!』



 と言って、レイバルス公は壁をすり抜けてすぐに向かって行ってくださった。


 そして、少しして寝巻き姿のままではあったが急いでマックス様が厨房に来てくださった。



「ど、どうしたって!?」


「マックス! チャロナくんが、夢見がよくなかったのかずっと泣いてたらしいんだ!」


「なんだと? チーちゃん!」


悠花(ゆうか)……さん、ごめんなさい」


「俺が聞いてやっから、今日は休め!」


「けど、明日のお弁当の準備とか……」


「せめて、気力回復してからにしろ!」



 とりあえず、姫様の部屋で話し合うことになったので、残された私達三人は、いつもどおり朝の仕込みをすることしか出来なかった。



「……どうされたんでしょうか」



 一番心配になっているエイマーは、スープの味見をしてから私に話しかけてきた。



「……うーん。姫様が何も覚えていないようなら。ひょっとして神の御意向かもしれないね?」


『あり得るでやんす。神の手によって、姫様は記憶を色々いじられているでやんすから』


「「そうなのかい!?」」



 異能(ギフト)を所持されてるからこそ、神に愛されている証拠だとは思っていたが。レイバルス公によると、それだけでなく、神々の都合に合わせて旦那様とのお付き合いも先延ばしにされてしまっているらしい。


 明日、旦那様から姫様と少し遠乗りに出かけるとお聞きしてとても嬉しく思えたのだが。このままでは、姫様が気落ちなされたままではお出かけになられるかどうかもわからなくなってきた。



「レイバルス公、それでは姫様が旦那様を想われていらっしゃる気持ちまで?」


『そこまではねーでやんすけど、俺っち達も色々記憶をいじられてるんで、全部はわかってないでやんす。けど、姫様はご自分の気持ちは自覚したままでやんすよ』


「「ほ」」



 それは良い事だが、何故あそこまで泣き腫らすくらいのことになってしまったのか。


 気にはなるが、ここはマックス様に任せておくしかない。


 次に、姫様が降りてこられたのは旦那様が朝食に来られる少し前だった。



「ご心配おかけしました」


「もう大丈夫なのかい?」



 まぶたの腫れなどは、マックス様が介抱してくださったのかスッキリした顔立ちに戻ってはいたが。



「はい。たくさんお話を聞いていただいたので、もう大丈夫です!」


「またいつでも胸は貸すわよー?」


「ダメだよ、悠花さん。エイマーさんがいるんだから」


「はは。二人は親友なんだから私は別に怒らないよ?」


「そうですけどー」



 うん、いつも通りの姫様だ。


 あれだけ泣き腫らしていた気持ちも落ち着いたのか、いつも通りのやり取りでいらっしゃる。


 けれど、今からバターロールなどのパンを仕込むのは難しいので、前もって倉庫に保管している食パンをトーストにして朝の提供は済ますことになった。



「旦那様とのお弁当は何にするんだい?」


「えと……おにぎりかサンドイッチかで迷ってるんですよね……」


「どちらも腹持ちにはいいからね。遠乗りに行かれるのなら、冷めても美味しいのにすればいいんじゃないかい? 私達も手伝えそうなところは手伝うよ」


『でやんす』


「ありがとうございます」


『でっふぅうう!!』




 ああ、その笑顔は。


 はるか昔、遠目でしか目に出来なかった、アクシア王妃様と同じ笑顔でいらっしゃった。


 アクシア様、貴女の御子は、貴女の甥子様の元で、とても健やかに過ごされています。


 いつか、貴女の墓前にてご報告出来る日が来るやもしれませぬ。


 そのために、私は姫様にお元気で過ごせますよう尽くします。


次回は水曜日〜

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