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103-2.好きなんだ

お待たせ致しましたー






 *・*・*








 私は、何を口にしてしまったのだろうか。


 悠花(ゆうか)さんは、単にからかって口にした言葉でしかなかったのに。


 カイルキア様と遠出するのが、明後日と決まった夜に。私はなかなか寝付けずに、悶々と夕方の出来事を思い返していた。



『ご主人様ぁ〜、まだ寝ないんでふか?』


「……うん。ちょっと、寝れなくて」


明日(あちた)はお仕事でふよ?』


「そうなんだけど……」



 うじうじしてても意味がないのは、わかっている。


 けど、シュライゼン様や悠花さん達の前で、なんであんなことを言ってしまったのだろうか?


 カイルキア様が、誰が他の女の人のものになってしまうのが。


 とてつもなく、嫌! と、あの時は考えるよりも先に口が勝手に動いていた。


 なんで、嘘でしょ、と思っても、口にした言葉は取り消せない。唯一、カイルキア様ご本人の前で言わなかったのは救いだけど。


 だって、こんな小娘に好かれたりしたら、絶対に迷惑がかかる。むしろ、振られる確定。


 でも、カレリアさんに告げられたアドバイスは、無視出来ない。衝突とは言え、キスされて嫌だったら徹底無視とかあり得るのに、カイルキア様はカイルキア様のままだ。



『……カイりゅのおにーしゃんのことでふか?』



 ロティは私の気持ちを読み取ったかもしれないが、あえて聞いてきた。



「……嫌われてはないと思うんだけど」


『でふ?』


「いくら、この国の大半が身分差を気にしてなくても。私が、この国の貴族とかなんてやっぱりあり得ないし、カイル様とお付き合いだなんて」


『……ご主人様は、嫌と言ってたのに。おにーしゃんを好き(しゅき)になるのは嫌なんでふか?』


「嫌……と言うか、自信が持てないの。幸福の錬金術(ハッピークッキング)に選ばれた以上に、私みたいな孤児があんなにも素敵なお貴族様とお付き合いだなんて、不相応過ぎるわ」


『でも。ゆーかしゃんが言ってたように、あのおにーしゃんが誰かとしゅきになることもあるんでふよ?』


「……わかってる。頭と気持ちが追いついていないのも。けど、今はただの使用人だもの。雇い主様とお付き合いだなんて、聞こえがよくないわ」


『……エイマーのおねーしゃんとゆーかしゃんもいるのに?』


「あ、の二人は……」


『でも、エイマーのおねーしゃんはおきじょくしゃまじゃないでふ。かにぇりあのおねーしゃんも』


「ロティ?」


『ご主人様は、綺麗で可愛いでふ。ロティは自信を持って言うでふ。あのおにーしゃんの横に立てるのは、ご主人様のチャロナ様だけでふ!』


「……ロティ」



 励ましてくれるのはわかるが、なんて健気な応援なのだろう。


 AI精霊とは言っても、意思のある存在。生きてる存在となんら変わりもない。


 私の相棒なのだから、私を気遣って当然のことかもしれないけど、ここまで自信を持って言うのはなんでだろう?


 化粧をしない限り、平凡な顔立ちでしかない私を可愛いだなんて。


 お世辞と言ったら怒られるかもだから、ありがとうの意味を込めてギュッと抱きしめてあげた。



『でふ。ご主人様は、しゅきの気持ちを大事にしてほしーでふ!』


「私の気持ち?」


『あのおにーしゃん以外にも、しゅきになってもらえたおにーしゃんがいまちた。エスティのおねーしゃんのいとこしゃんでふ』


「あれは……その場の勢いじゃ?」



 作った鯖の塩焼きに惚れ込んだ勢いなんだと思ってたら、ロティは可愛くほっぺを膨らませた。



『あのおにーしゃんもちょっとかっこよかったでふ。あのおにーしゃんとなら良かったでふか?』


「え、別に」


『ほにゃ〜』


「あれ?」



 なんで、エコールさんのことはすぐに否定出来たのだろう?


 たしかに、そこそこかっこいいとは思うが、恋人になるとかは即座に否定出来た。


 カイルキア様にもし恋人が出来たら嫌、とは違う拒絶。


 私は、表情の変化はほとんど無いけど。あの麗しい美貌の雇い主様のことが、やっぱり好きだ。


 もう、否定出来ないくらいに。



「〜〜〜〜あ〜〜……もう、手遅れ?」


『でふ。ご主人様ぁ、認めちゃったでふ〜!』


「前世でもほとんどなかったのに、こんな身近なところで……」



 くすぐったくて、でもとても温かな気持ちで。


 好きな人の、少しでも嬉しそうな顔を思い浮かべると、体全体で好き好きと思ってしまい、ベッドの上でバッタンバッタンと横になった。


 最後に、ロティが飛んで頭の上にぽふっと乗っかったら、私は抱っこして腕の中に閉じ込めた。



「これはもう、認めるしかないのかな〜?」


『でふ! 明後日頑張るでふ!』


「……告白、出来そうかな〜?」


『にゅ。出来しょうならしゅるでふ!』


「……もし、振られたら慰めてね?」


『にゅー』



 好き、好き。


 カイルキア様が大好き。


 もう体全部で受け止められるくらい大好き。


 他の皆さんのように、うまく行くかどうかはわからないけれど。デートに誘ってくださったのだから、もしかしてと期待してしまいそうだ。


 だから、自分の気持ちをきちんと受け止めてから、ロティとベッドに入り。


 すぐに寝たんだけど、それからすぐに起きてしまった……?


 そう思うくらいに、意識がはっきりし出して、暗闇の中を歩いていたのだった。

次回は木曜日〜

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