100-2.お米の炊き方
お待たせ致しましたー
まずは、用意していただいてる米の洗い方からだ。
「米にも収穫時期、干し方、精米などで味が変わると思います。これはホムラで生産されてるお米なので、今日はこれを基準にお教えします」
「うむ、頼んだぞ!」
「はい。皆さんも一緒にやりましょう」
お店の厨房で調理するので、いくらでも炊ける。
せっかくだから、スタッフの皆さんのお昼ご飯にもなるようにたっぷり炊く予定でいるのだ。
ただし、つけ置き時間はかなりかかるから、そこは私とロティの時間短縮で短縮するつもりでいます。
「まずは、炊く分のお米をボウルに入れるんですが。リンお兄ちゃん、升ってある?」
「あるぞ」
「なんだい? この木で出来た箱みたいなのは?」
「あら、懐かしいわね升箱って」
「これがホムラだと計量カップの代わりなんです」
「ほー」
「この升一杯で、だいたいおにぎりが三個くらい作れる分量になります。今日のお昼ごはんはおにぎりパーティーの予定です」
「わかったんだぞ!」
と言うことで、升で三杯すくっては土鍋に入れて。
いくつかあるシンクでそれぞれ洗う前に、私が手本を見せる。
「一度目はかぶるくらいの水に浸して。すぐに水を捨てます。そのあとすぐに水を入れるのではなく、パン生地をこねるようにして米を研ぎます」
「そこは俺も知ってるホムラのやり方と変わらないな?」
「うん。二、三回研いだら水を入れて濯いで。これを三回繰り返して、水を米から親指二本立てた高さまで入れます」
「ふーむ。白いのは汚れなのかい?」
「それもありますが、お米の中にある美味しさの部分でもあるんです。それをやり過ぎると、お米の美味しさが半減してしまうんです」
「へー」
「手間がかかるんですね?」
「とりあえず、ここまでやってみましょう」
見本で力加減を見せたお陰もあってか、お兄ちゃん達はそれぞれ手際よくお米を研いでくれて。
ミュファンさんがちょっと優し過ぎたのでアドバイスするだけで終わり。
全部の土鍋が用意出来たら、ここで私の出番だ。
「じゃ、いくよ。ロティ」
『でっふ! 召喚ぁ、時間短縮ぅううう!!!!』
たっくさん土鍋があるので、レベルを徐々に上げてた時間短縮のバナーをたくさん出現させた。
とは言っても、メインの大きいバナーを操作すれば他のバナーとリンクするのでいちいち動かさなくても大丈夫。
一時間と設定してから。
「重ねがけ、短縮化!」
『最大短縮ぅううう!!!!』
そして、複合を使って全部を一瞬でつけ置き完了させて。
白い光で包まれた室内から光が消えた直後には、澄んだ水に包まれたお米の完成だった。
「今のが、私とロティの異能の一部です」
「驚きましたね。一瞬で、複数の作業……しかも、時間を操作、ですか?」
「はい。これでいつでもお米が炊けます」
「これは……おいそれと広めてはいけない技能ですよ。けれど、ホムラの皇太子殿下にはまだそれをお伝えなさらないんですよね?」
「うむ。あいつになら話してもいいんだが、まだまだチャロナ達の異能は未知数なんだぞ。今回は俺から伝えるだけなんだ」
「つけ置き時間は、だいたい30分から一時間くらいかかります。夏場、冬場でまた変わるので注意してください。この状態の米は水を吸って呼吸する作物なんです」
「俺は初耳だが。チャロナ、それは前世の知識か?」
「そうよ〜。あたしよりも、料理人として生活してたチーちゃんの方が詳しくて当然ねー」
「……なるほど」
次に、お米の炊き方だ。
蓋をして、重いからリンお兄ちゃんに持ってもらってコンロに。
火をまず最強にしてから沸騰するまで待つこと少し。
「湯気が出てきて、蓋がカタカタ言い出したら合図です。そうしたら、火を最弱の弱火にします」
「そこはフライパンと一緒ねん?」
「この間はロティの魔導具で炊いてたけど、何か違うのかい?」
「ずっと強火でやってると、せっかくの水分を全部蒸発……なくなってしまって、焦げ付く原因にもなります。あと、お米も硬くなるんです」
「……俺が教わった米の炊き方は、常に強火だったな」
「私もだよ。けど、今日は大丈夫。美味しいお米になるから」
「期待してる」
「うん」
お兄ちゃんに頭を撫でられて、胸がほっこりするけど。やっぱり、カイルキア様の時とは違う。
好きな人に代わりないけど、お兄ちゃんの場合は、やっぱり『好きなお兄ちゃん』だったから。
綺麗な人に変わりないけど、やっぱり私が好きなのは恩人でもあるカイルキア様だ。
そこは、もう間違えない。
それに、あと一週間近くで、遠乗りのデートがあるんだ。
当日には、美味しいお弁当を作るために張り切らないと! と内心拳を握った。
とりあえず、沸騰して湯気が出てきてから火を弱めて。ここで、タイマーではなくあらかじめミュファンさんに用意してもらった15分用の砂時計を使う。
「この砂時計の砂が落ち切るまでこのままにします。そして、火を止めたら蒸らしと言う時間をだいたい5分から10分必要とします」
「そのまま木ベラで出そうにも、鍋にひっついてるのよね〜?」
「その、ムラシって言うのをすると米が剥がれるのかい?」
「正解です。シュライゼン様」
この時間を無駄にしたくないので、順番に他の土鍋もコンロにセットして炊き出しを始めて。
蒸らしの時間も終わったら、まずは炊き立てのお米をひと口ずつ食べてもらう。
「…………これが、米だと?」
何も味付けしてない米に、リンお兄ちゃんは信じられないと言う表情になった。
お兄ちゃんがホムラにいた時期は短いけど、パン以上にたくさん食べさせられたあの不味いお米の味を思い出したのだろう。
無理もないか、と思ってミュファンさんの方も見ると、恍惚の笑みで口元を緩めていた。
「柔らかいのに、少し弾力もあって……淡い甘味がなんとも言えない。これが米本来の美味しさだなんて!」
「チャロナがこれで、この間美味しい料理を作ってくれたんだぞ。米にも無限大な可能性があるんだぞ!」
「これは是非ホムラにも正しい方法を広めるべきです!」
「うむ。とりあえず、おにぎり作るんだぞ!」
「具材出しますね〜」
昨夜のうちに、シェトラスさん達と用意してたので。
具材は、
塩シャケ
シャケフレーク
ツナマヨ
テリヤキチキン
煮卵
海苔がないので、外見のほとんどは真っ白な白むすびにしか見えないかもしれないが、それもご愛嬌ということで。
包み方をお兄ちゃん達に教えてから、少し熱いお米を手にどんどん握ってく。
「皆さん〜、今日はチャロナさんに教わった米でオニギリと言うものを作りました」
「あとおやつにあんドーナツとシュガードーナツも作ってきました」
『『『『『きゃああああああああ!!!!!!』』』』』
陽光のフロアじゃない、一番広いホールにレイリアさんも含めた女装の男性スタッフ全員が集まり。
おにぎりパーティーを始めることになりました。
「何これ、真っ白な三角のだけど?」
「あたし食べたことがないけど、これが米?」
「ね、姐さんの作ったものはすっごく美味しいんです!」
「あんたのクッキーを改善してくれた、って言うあのお嬢さんね? どれどれ」
「俺、いっちばーん!」
「「「あ、フェリ!」」」
一番乗りされたのは、今日も不思議な女装姿のフェリクスさんだった。
おにぎりを一つ手に取り、勢い良くかぶりつくと中身は煮卵なのが見えた。
「……うっめ。うっめぇえええ!!!! 具は卵なのに濃厚で食ったことねえぞ!!」
「お醤油などで煮込んだ、卵なんです」
「超うんめーよ!」
「じゃ、じゃあ。あたしも!」
レイリアさんが手に取ったのはツナマヨ。
「!……マヨネーズと……これは魚? けど、臭みはなくてまろやかになってて、米とよく合う」
「魚を油漬けしたのを、マヨネーズと合わせたんです」
「美味しいです、姐さん!」
「「「「あたし達も!!!!」」」」
そこからは争奪戦になり、おやつに用意しておいたドーナツも大盛況で、リンお兄ちゃんからもまんじゅうの中身がこんなにも美味しくなるとはって驚いてた。
「この甘さの方が、まんじゅうにも美味いな?」
「私の知識だと、食事向きにも出来るんだよ?」
「それは食べてみたいな?」
「また作ってあげるね!!」
肉まんが作れるのなら、カイルキア様達にも食べてもらいたい。
それが顔に出てたのか、またお兄ちゃんに頭を撫でられた。
「ローザリオン公爵様にも作るんだろう?」
「あ、うん」
「あの方に認めていただいてるんだ。仕事に励め」
「もっちろんだよ!」
当然だけど、なんか引っかかる。
まさか、お兄ちゃんにも私の気持ちがバレていやしないかと。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「気付いてる?」
「……ああ」
「い、いつから?」
「お前と再会して、割とすぐだな。あの方の話題になると顔色が違った」
「だ、誰にも言わないでね?」
「公爵様には告げないのか?」
「う……振られると思うし」
「根拠のないことで諦めようとするな。お前らしくもない」
「う〜……」
お兄ちゃんはぽんぽんと私の頭を撫でてから、フェリクスさんの暴食を止めに行き。
一人、壁でぽつねんとしてると、シュライゼン様がやって来られた。
「元気ないんだぞ?」
「ちょ、ちょっと自己嫌悪に」
「ふーん? シュイリンに何言われたんだい?」
「え、えっと…………」
色々な人に私がカイルキア様を想っていることはバレてしまってるが、まさかシュライゼン様にもバレてるんじゃ……。
と、モゴモゴしてると、シュライゼン様にも頭を撫でられた。
「お兄ちゃんには言いにくいことかい?」
「い、いえ。その……」
「じゃあ、話してごらん?」
「あの……」
なんだろう、この気持ち。
本当に、シュライゼン様が私のお兄ちゃんに見えた瞬間だった。
次回は 日曜日〜




