95-2.第二回パンケーキ教室
企画も残りわずか
*・*・*
そうして、お昼を少し過ぎたあたりで。
シュライゼン様と、その婚約者様のご到着となりました。
「はじめまして。シュライゼン様の婚約者であるシャルロッテと言います。少し長いですから、シャルとお呼びくださいな」
「はじめまして、チャロナ=マンシェリーと言います」
孤児である私にも、丁寧な口調で接してくださったシャルロッテ様ことシャル様は。
シュライゼン様が昨日もおっしゃっていた通り、カレリアさんとはまた違う砂糖菓子を体現したような可愛らしくも綺麗なご容姿で。
ちょっとはにかんだ笑顔も素敵過ぎでした。
「今日はシャルも参加させてもらうんだぞ!」
「多少の料理の心得はありますが、間違っていたら遠慮無く言ってくださいな」
「あ、あの、私は使用人なので敬語は」
「まあ。これはわたくしの癖なのでお気になさらずに」
「そ、そうですか」
丁寧口調が普通なら仕方がないだろう。
とりあえず、本題はシャル様のことじゃないので、挨拶も済ませたら、スフレパンケーキ作りに移ろうと思う。
シャル様は、シュライゼン様のようにコックスーツではなく乗馬服を着ていらっしゃった。
お貴族様のご衣装を汚しにくいけれど、着ているモノなら大丈夫と言うことになり、スフレパンケーキ作りに移ることになった。
あと、私のことを一部話しているので、前世の記憶所持とかは遠慮無くと言うことらしい。
貴族で同性で年もそこそこ近いから、と言う理解者を増やすためだって。ありがたいことだ。
「来ましたわ、お姉様!」
アイリーン様も少し遅れてやって来られたが、作業開始だ。
「では、今日も暑いので、並行してアイスクリームも作ります」
「なんなんだい、名前から聞くに美味しそうな気がするが」
「文字通り冷たいクリームです。シャル様、リーン様、少し力仕事ですが頑張りましょう」
「はい」
「はい!」
まずは、アイスクリームのホイップ作りから。
シュライゼン様はともかく、多少料理の心得があるシャル様は手際よく泡立て器を使ってホイップを作ってくださり。アイリーン様も頑張ってくださった。
ロティの変換を見せても、アイリーン様共々『まあ!』と貴族らしい声を上げられたが。
「ロティちゃんがこのように変身なされるのは初めて見ますが。これは、おいそれと外に広め過ぎてもいけませんわ」
「そうですわね、アイリーン様」
そして、いかにロティの技能がすごいのかを認識していただき、アイスクリーム作りに戻ることになった。
「ホイップが出来たら、ロティのミキサーで出来たものと混ぜ合わせたり、バニラエッセンスを混ぜたりとそれぞれ作りましたら」
あとは、冷却や氷結をそれぞれ使って凍らせれば出来上がりだ。
「まあまあ! このように凍らせたクリームなのですね!」
「チャロナさん、これをどうするのですか?」
「ちょっと食べてみたいんだぞ!」
「まあ、シュライゼン様」
「では、先に味見しましょう。これをメインのパンケーキと言うのに載せるのですが」
「パンのケーキですの?」
「違うらしいんだぞ、リーン。フライパンで焼くケーキだったからだっけ?」
「はい、その通りです」
諸説は色々あるらしいが、長く説明するとせっかくのアイスが溶けてしまうので。
スプーンを全員に行き渡らせてから、どれだけ硬いかなのもお貴族の皆さんに確かめてもらうのにご自分ですくってもらい。
まずは、ひと口。
「まあ、まあまあまあ! これがクリームを硬めただけのモノですの!? ただ硬めただけのモノと全然違いますわ!」
「ええ、たしかに。滑らかで、スッと舌の上で溶けて」
「これは美味しいんだぞ! チャロナ〜、暑くなってきてるんだし、これだけでも子供達は喜ぶんじゃないのかい?」
「それなんですが、シュライゼン様」
私の代わりにシェトラスさんが前に出た。
「この菓子は冷たい分、勢いよく食べると頭痛を伴い。さらに食べすぎるとお腹を壊す原因にもなるのです。ですから、子供達には、これから作るパンケーキの方がよろしいかと、私が提案しました」
「ふむふむ。体調を崩す原因にもなりかねないわけか、わかったんだぞ」
「まあ」
「こんなにも美味しいクリームですのに、残念ですわー」
「ですから、今日は私達だけで楽しみましょう」
「はい、お姉様!」
と言うわけで、アイスを収納棚に一度仕舞い込んでメレンゲ作りに移ることになった。
「では、次はパンケーキの要とも言えます、メレンゲというものを作ります。作り方は先ほどのアイスクリームと同じ、ホイップクリームを作るのとそこまで変わりません」
「はい、お姉様。材料が違いますの?」
「はい。卵の黄身と卵白を分けて、卵白だけを砂糖と一緒に泡立てたものです」
「「まあ」」
「それを作ると、何が違うんだい?」
「重曹も加えますが、焼くとふわふわで泡のような食感になります」
「「「泡??」」」
「とりあえず作ってみましょう!」
卵の仕分けも苦戦されたが、当然メレンゲ作りも難しそうだったのは、昨日のカイルキア様達と同じく。
その間に、ロティと仕上げ用に使うメープルホイップクリームを作ったり、手助けをしていたが。
お三方とも、メレンゲをなんとか作り終えたところで息を切らしてしまわれた。
「「「ぜーはーぜーはー……」」」
「お、お疲れ様でした……」
「やりますわね、このメレンゲ作りとやらは!」
「ええ、アイリーン様。ひと筋縄ではいきませんわね……」
「これを子供達にか。次の段階では面白いと思うんだぞ! お菓子作りの大変さを学べるしね!」
「「ええ!」」
大変ではあったけど、やりがいがあったみたいだ。
そのことに少しほっと出来、お三方には冷たいハーブティーを飲んでいただいてから焼く手前まで一気に仕上げて。
最後の焼きを見せると、女性のお二人は『ほぅ……』とため息を吐かれた。
「小さくて可愛らしい見た目ですわ〜」
「本当に。少しふわふわしてて、食べるのが楽しみです」
「ええ、ええ!」
「では、挑戦してみましょうか」
火を使うのも、アイリーン様やシャル様は経験がお有りなようなので心配する必要はなく。
ただ、フライ返しを持つ手が、特にアイリーン様は真剣な表情になられた。
「あのふわふわに……ふわふわに!」
「り、リーン様。そんなしっかり握らなくても」
「ですが、お姉様!」
「そう言えば、アイリーン様はなぜチャロナさんをお姉様と?」
「うふ。この方は素晴らしいパンをお作りになられますのよ! ですから、尊敬の意を込めてお姉様と!」
「……だそうです」
「まあ、そうでしたの?」
「シャルお姉様もお姉様ですわよ?」
「ふふ、はい」
そう言えば、アイリーン様の方が歳下なのに、シャル様の方が様付けをされているということは。
『こうしゃく』令嬢と言う地位は貴族様の中でも結構高いのかもしれない。
なのに、その御令嬢からお姉様呼びされてる孤児の私は……と思うが、止める気がさらさらないので受け入れるしかない。
とりあえず、焼きに関してはお三方とも大丈夫でした。
「パンケーキ今日も作るって言うから来たわよ〜ん!」
あとはトッピングだけというタイミングで悠花さんがやってきた。
「まあ、ユーカお姉様!」
「おひさしゅうございます、マックス様」
「あらヤダ、今日はシャルまで連れてきたの。シュラ?」
「うむ。チャロナにも会わせたかったからね!」
「悠花さん、今からトッピングするの!」
シャル様も悠花さんの話はどうやら聞いているのか、アイリーン様が名前呼びされても特に驚いていない。
なら、せっかくだしトッピングに参加しないかと誘うとシャツを腕まくりした。
「今日は昨日と同じアイスがあるの?」
「うん。あとメープルを混ぜ込んだホイップも」
「じゃあ、ハワイアンパンケーキもどきが作れなくないわねえ?」
「いいね!」
「「『「「「ハワイアンパンケーキ??」」」』」」
「クリームを山のように盛り付けた、可愛らしいパンケーキのことよ」
なので、銀製器具から他のホイップクリームの口金などがないか探してみて。
そして、予想以上に大きな口金があったので、専用の袋にクリームを詰め込んでから、悠花さん用にパンケーキを載せた皿を調理台の上に置いた。
では、また明日〜




