94-2.浮く、飛ぶ
謹賀新年
初投稿でーす
*・*・*
シュライゼン様からの魔法講義ということになったので。
私はもう少し動きやすい服に着替えてから、集合場所である中庭に向かった。
「待ってたんだぞ〜!」
シュライゼン様の服装はそのままの、お貴族様らしい煌びやかな装いだ。
浮遊の魔法なのに、汚れとか気にされないのかしら?
まあ、この方にとっては、前にも教えていただいた転移の魔法をサクッと覚えられるくらい簡単だろうから。
きっと、お綺麗な服装を汚すなんて考えもしないのだろう。
とりあえず、近くに行くとなぜか頭を撫でられてしまったが。
「あ、あの……?」
「うんうん。じゃ、浮遊魔法を教えるんだぞ!」
『でっふ!』
「そうだ。ロティがいるから、君は浮遊のイメージがしやすいんじゃないかな?」
「あ」
たしかに。
『飛ぶ』『浮く』の代名詞でもあるロティがずっと一緒ならイメージがしやすいはず。
今は、シュライゼン様に頭を撫でられてから彼の頭の上に乗っているけれど。
「だいたいの魔法のイメージが出来てるなら、後は命令を自分にかけるだけなんだぞ。例えばこーんな風に」
『わひゃ!』
人差し指を軽く振っただけで、シュライゼン様は約1メートルくらい浮き上がってしまった。
バランスを崩すことも、ロティを落とすこともなくただ浮いているだけ。
私が感心していると、シュライゼン様はふふんと笑ってから手招きされた。
「チャロナの飲み込みの良さならすぐ出来ると思うんだぞ!」
「そ、う……でしょうか?」
「うむ! で、三人で空中散歩しようじゃないかー」
「え」
いきなり高難易度を求められていないだろうかと思うけど。
まずはやってみろと目線で訴えられてるので、仕方なく転移の要領で浮遊をイメージしてみた。
(魔力を体に纏わせる……方がいいのかな?)
なんかの漫画とかであった方法をイメージしてみて。
日々の訓練で少しは感じるようになった魔力の流れを意識して。
指先から順に体を伝わるように行き渡らせて、その魔力ごと体を浮かせてみる!
「おお、出来てる出来てる!」
「え」
本当ーに、チャチャっと意識してみただけで出来てしまってるみたい。
下を見てみると、たしかに少しだけ浮いてきていた。
もう少し上に行くよう命令してみると、シュライゼン様と並びました。
「いいぞいいぞ! チャロナにはやっぱり魔法の素質があるんだぞ。なら、せっかくだからこの屋敷の敷地を浮遊と飛行で回ろうじゃないか!」
「ま、まだ浮いただけですよ!」
「大丈夫大丈夫。飛行も落ちないようにする命令と浮いたまま進むイメージを繰り返すだけさ。それだけ出来てるから、お兄ちゃん太鼓判を押すんだぞ」
『出来るでふ、ご主人様ぁ!』
「う、うん」
前世では、機械か何かを使わないと浮くことすら出来ないとされてた夢魔法が叶っただけでもすごいのに。さらに飛ぶとは。
シュライゼン様がまずお手本を見せてくださってから、私もなんとかぎこちなく飛ぶことは出来た。
「じゃ、お兄ちゃんが手を繋いであげるんだぞ。しゅっぱーつ!」
『ぱーつ!』
「は、はい」
ある程度体が慣れてからの、空中散歩のスタートとなり。
シュライゼン様の差し出された手をしっかり握ってから、三人での散歩となりました。
『お家おっきいでふぅううう!』
先頭を行くロティは、私達と同じ目線で散歩出来るのが嬉しいのかすっごくはしゃいでいた。
「ローザリオン公爵家の中でも、本邸の次に大きな敷地だしね? 若き領主が治めるにはちょうどいいんだぞ」
「あ、デュファン様の?」
「ああ。デュファン殿がいるのは本邸だけどね。王都にも近いけど、こっちの方が主要領土には近いんだ」
随分と詳しいのは、やっぱりお貴族様だからかな?
ローザリオン公爵家自体が、大きなお貴族様の地位とはここで知ったけど。……何か重要なことを忘れているような?
なんだっけ?
「シュライゼン様も、ご自分の治められる領地内で?」
「んー、まあ。そんなとこかな? まだ俺は爵位とか継いでいないからもっぱら父上の手伝いなんだぞ」
「そうなんですか」
だから、アインズさんがいつも大変なのかな?
昨日いただいたサイードベアのぬいぐるみは、特にロティが気に入ってしまったのでベッドの抱き枕位置に定着してしまい。
今朝見た時は、ロティの天使の寝起きと一緒にむっくり起き上がったのがすっごく可愛かった。
「そう言えば、父上達が昨日来たそうじゃないか」
「はい。また新しいぬいぐるみをいただきました」
「君のことはすっごく気に入っているからね。……何か食べてったのかい?」
「あ、はい。お菓子教室に出そうと考えてたお菓子ですけど」
「くー、羨ましいんだぞ!」
けど、シュライゼン様にも一度確認してもらいたいから……散歩も終わってから実践も兼ねて作ってもらうのはどうだろう?
一度教えなきゃいけないから、それを伝えると微妙な顔をされた。
「昼以降はちょっと忙しいんだぞ。また明日でもいいかい?」
「はい。あ、リーン様も次回行かれますかね?」
「なら、リーンも呼んでレッスンするんだぞ!」
なので、第二回パンケーキ作りは明日になり。
今はお屋敷の散策の続きをすることになった。
お屋敷の建物の造りをざっと見てから、次は中庭に向かうと。
「あ、チャロナ!」
「ピデット君!」
絶賛お仕事中の庭師の皆さんに見上げられてしまい。
ピデット君は少しポカーンとしてから、ふるふると首を横に振った。
「しゅ、シュライゼン様まで! え、なに。魔法使ってんの?」
「ふふーん、俺が教えたんだぞ。チャロナと俺はフィーの兄弟弟子だからね!」
「え、すっごい! チャロナの魔力相当高いんだー」
「う、うん」
悠花さんやレイ君には結構あるとは言われてても。以前のロティのステータス反応があったので、未だに自信が持てていない。
あのパーティーにいた頃とは違って、冒険者に戻れそうなくらいに実力は持てても。
あそこには、もう戻れない。
あそこでは、私なんかただのお払い箱だったから。
「……チャロナ?」
「え、はい?」
考え事をしてたら、シュライゼン様に顔を覗き込まれていた。
「元気ないようだけど、調子でも悪くなったのかい?」
「だ、大丈夫です!」
「そうかい?」
「ほんとに大丈夫か、チャロナ?」
ピデット君にまで心配をかけちゃってたから、無理に笑顔を作って頷いた。
「じゃ、次は厩舎辺りまで行くぞー!」
『でっふ!』
「チャロナ、明日のパンとか楽しみにしてっから!」
「うん!」
そして、中庭に続いて裏庭、菜園、厩舎の順に回り。
エスメラルダさんやサイラ君にも、明日からのパンを楽しみにしていると言われ。
しっかり頷いてから、私達は休憩も兼ねて食堂に向かった。
「シュライゼン様。明日は、お夕飯を召し上がっていただくことは可能でしょうか?」
「出来なくもないけど……また美味しいの作ってくれるのかい!」
「はい。ホムラでもある米を利用したご飯です」
「どんなのだい?」
「ケチャップが味の決め手なんですが。オムレツの具材代わりに炒めたお米を包んでしまうんです」
「むむ。興味あるぞ!……そーだ。前々から考えてたんだけど、俺の婚約者にも食べさせたいんだ。連れてきてもいいかい?」
「婚約者様にですか?」
そう言えば、随分前におっしゃっていたけれど。どんな方だろう。
シュライゼン様くらいのイケメンさんになら、さぞかしお美しいお相手かもしれない。
なので、カウンター越しにシェトラスさんに明日の献立をお伝えして。
了解をいただいてから、それは決定となりました。
「ふんわふわの雲みたいに可愛い女性なんだぞ!」
と言うことは、カレリアさん寄りの可愛い系なのだろうか?
ちょっとお会いするのにドキドキしてしまうが、これで今日シュライゼン様とはお別れになり。
私達は、シェトラスさんに事前にお伝えした鯖サンドイッチで舌鼓打つのだった。
では、また明日〜




