90-1.残念称号
お待たせしましたー
*・*・*
大変!
大変も大変!
悠花さんが、リュシアから帰ってきた途端に玄関で倒れそうになってしまった!
情報ソースは、担いできたエイマーさんからだけど。
「すまないが、今すぐサバのミソニを彼に作ってもらえないだろうか? 匂いを嗅げば、すぐに起きるから」
「わ、わかりました!」
『まーた、久々に技使いまくったでやんすか。マスターは?』
「え、なになに? まさか、戦闘しに行ったの?」
『でなきゃ、こうはなりやせんて』
とにかく、ユリアさん達からいただいたみりんを使って、悠花さんの分に残しておいた鯖の切り身を全部味噌煮にして。
ご飯も山盛り、スープもサラダも。
完成してロティと食堂に向かうと、悠花さんはテーブルに突っ伏した状態でいた。
「ゆ、悠花さん大丈夫!?」
『でっふー!』
初対面の時もそうだったけど、モンスターと戦うだけでこんな状態になるだなんて。
詳しくは聞いてなかったけど、大丈夫なのだろうか?
「大丈夫さ。ほら、マックス。食事が来たよ?」
「…………?」
食事を置いたあとに、エイマーさんが悠花さんの体を揺さぶると、悠花さんはゆっくりと上体を起こした。
「……この匂い……味噌煮!」
「ああ。チャロナくんに用意してもらったんだ。ゆっくり食べなよ」
「食う!」
と言うやり取りがあってからがすごかった。
以前のこともあり、結構な量を用意はしてたけど。
悠花さんはそれから、ほとんどフォークだけでばくばくモリモリと食べ始め、まるで掃除機のように口に入れていった。
「ほえ〜」
『しゅごいでふぅ!』
そして、あっという間に料理は完食されてしまい、悠花さんはお水を飲んでひと息つくと、私に向かって親指を立てた。
「うまかったぜ、チーちゃん!」
「あ、ありがとう……」
「ほんと美味かった! いや〜二角獣に雷撃ぶっぱなして戦闘斧で倒しただけなのに腹減って減って」
「に、二角獣!?」
モンスターの中でも、ランクSクラスに近いとされてる化け物級の化け物。
見た目は、たしかヤギのような凶悪な顔に立派な二本の角をはやしてるって。
これも、あのパーティーのリーダーのマシュランから聞いた情報だけど。
でも、ランクSSの悠花さんは、どうやらあっさりと倒してきたんだって!
「ランクAAの連中は結構てこずってだが。ま、俺にかかればおてのもんさ!」
「だからって。その燃費の悪さがほぼ毎回あるのだから、心配になるじゃないか」
「しょーがねーよ。ユニーク称号のせいでこうなっちまうんだから」
「ユニーク称号?」
「チーちゃんには前見せただろ? 俺のステータス」
「えーっと……」
ひと月近くも前だから、曖昧にしか覚えていないが。
たしか、異名の『雷刃砲』以外に、残念称号? っていうのがあったような?
「たしか……燃費最悪……とか?」
「そう、それ。ランクSSになったせいかはわかんねーけど、ランクを獲得したらひっついてきたんだよ!」
『神々の気まぐれでやんすからね〜』
「おまけに外したくても外れねーから、ちょっと大技ぶっぱなしただけで、ほぼ毎回こーなんの」
「た、大変……だね」
私とは違う、神様の気まぐれで与えられた不憫過ぎる称号。
なんで付けられたのかはわからないらしいが、戦闘のたびにこうなってはすっごく大変だ。
カイルキア様達と旅をしてた時はどうだったんだろう?
(……風邪以来、報告のような会話しかしてないな)
告白は出来なくても、好きな人ともっと話したい気持ちはある。
一日の中で、使用人としての接触はあってもそれだけ。
あの時のように、顔を合わせてきちんと会話をする機会なんてない。
雇っていただいているだけでも幸せなのに、贅沢な悩みだ。
身分差関係なしにアピールしろって、周りの皆さんからの応援はあっても……。
「しっかし。この味噌タレのコクと旨み! ユリア達の酒だけで出来たとは思えねーぜ!」
「あ、そうそう。ユリアさん達が今日はみりんを持ってきてくれたから、それも使ったの」
悠花さんの発言で我に返り、みりんと、あとヌーガスさんがお土産に持って帰ってきた昆布とかの報告もすることにした。
「ヌーガスの地元に昆布と鰹節が!?」
「うん。だから、明日にはお味噌汁出来るよ!」
「マジか!」
「チャロナくん、そのオミソシルとはどんなのだい?」
「えっと。スープの一種なんですけど……」
昆布と鰹節でコンソメとは違う、味のベースになる素を作り。
そこに、好きな野菜などを煮込み、仕上げは味噌で味を整える。
それを説明すると、皆さん食べたそうな顔色になられた。
「カイルんとこに報告に行こうぜ? シュラに調査隊を派遣させなくても昆布が見つかったしよ?」
「あ、そうだね? 私もさっき報告に行ったのに忘れてた」
「んで。もう明日じゃなしに今晩作ろうぜ? 玉ねぎとジャガイモの食いたい!」
「悠花さん、本音だだ漏れ……」
「いいだろ! あ、チーちゃんに土産あんだよ」
「え?」
そう言って、自分の魔法鞄からどんどん黒っぽい銀に似た金属の棒を出してきた。
「黒銀のブロック」
「え」
「こいつで、チーちゃんの武器かなんかをカレリアに錬成してもらおうかと思ってよ?」
「こ、こここ、こんな貴重な素材で!?」
「チーちゃんは魔法も使えるようになったけど、自衛は出来た方がいいしな。俺が護衛出来ても、万が一のこともなくねーだろ?」
「け、けど」
「俺は自分の武器はあるし、気にすんなって。今日は応援行っただけから報酬はついでだ。例の金ピカ麺棒は使いにくいだろ?」
「あ、ありがとう……」
武器。
私だけの武器。
けど、戦闘経験なんて、今の魔法の訓練以外は全然してこなかったから、何が出来るんだろう。
悠花さんには感謝しなくちゃ!
とりあえず、カイルキア様に昆布のこととかを報告しに行くと。
是非、作って欲しいと言われました。
「お前達にとっては、故郷の味なのだろう? 興味はあるな」
「わかりました。メインは……何かご希望がお有りでしょうか?」
「逆に何が合うんだ?」
「わりかし、なんでも合うぜ? 魚でも肉でも」
「そうか。なら、ここのところ魚続きだったから肉がいいな?」
「でしたら、照り焼きチキンを作ってみます!」
「「テリヤキ??」」
「ナイス、チーちゃん! マジで今日はご馳走だ!」
「なんなんだ、それは?」
「鶏肉の料理です。楽しみにしててください」
「……わかった」
お酒もみりんも手に入っているから、きっと美味しく出来そう。
たくさん作って、明日のお昼には、せっかくだからテリヤキチキンバーガーみたいなパンを作ろうかな?
次は月曜日〜




