89-5.SSランク(マックス《悠花》視点)
お待たせしましたー
*・*・*(マックス《悠花》視点)
レイは今日のところほっぽってきたから、馬車でリュシアに来たはいいものの。
あたしは、しこりのように残っている気持ちを悶々と抱えながら、目的である自分の店に行く。
目的は、シュィリン達から聞いたじい様の事だけど。
つい先日の、あの報告の場での出来事のせいで誰も覚えていなかった。
でも、あたしはなんとかミュファン達のことは覚えてたから報告に来たわけ。
『『『お帰りなさ〜〜〜〜い、オーナー!!』』』
「ただいま〜」
出迎えの中に、ミュファン達もいたので。
あとシュィリンも引っ張って陽光のフロアに集まってもらうことにした。フェリクスとカーミアは今回除外。
「今日はどうされたのですか、オーナー?」
「……あんた達に少し聞きたいことがあるのよ」
「俺達に?」
「……少し前に、シュー……あんたから聞かされた報告内容とこっちでの報告……全部ごっそり抜け落ちてんのよ」
「俺…………ですか?」
「その様子だと、やっぱり改竄させられたわね?」
「なんのことでしょうか?」
「ミュファンもか……」
じい様とシュラが屋敷にパン作りに来たあの日。
終わってから帰る直前に集まってただけなのに。
具体的になんの話をしてたのか、まるっきり覚えていなかった。
それは、あの場にいたあたし達だけじゃなく、こっちにもその影響はあったようね?
あたしにも、シュィリン達からの報告について、何にも覚えていないし。
ただ覚えているのは、不安そうな二人の顔だけだが。
「姫様に……何か?」
「そっちは関係ないわ。魔法も使えるようになったし、毎日楽しそうにパンや料理は作ってるわ。今日だって、あたし達の前世では定番だった和食を作ってもらえるのよ」
「それは……素晴らしいですね」
「まさか、悪食で廃れてたかもしれない和食の調味料がこの国であるとは思ってもみなかったわ」
今日はこの用事があったから、お披露目の昼飯には間に合わないけど。帰ったらすぐに作ってもらわなきゃだわ!
(……あ、そーだ。和食で思い出したけど)
今ここにいるシュィリンの故郷はチーちゃんと共通してる国。
あそこについて少し聞かなくっちゃだわ。
「シュィリン、ちょっと聞きたいんだけど」
「……なんでしょう」
「ホムラの麺ってどんな感じなのよ?」
「麺を?」
「チーちゃんが少し欲しがっていたのよ。けど、あたしあの国にはほとんど滞在してなかったから、食に関しては疎いのよ」
実際のところ。
チーちゃんがいたはずのホムラ皇国には、たしか数ヶ月も滞在してなかったわ。
友好国の代表的な国の一つではあるけど、中華と微妙な和食を合わせたイメージでしかないのよね。
以前やきそばで取り寄せたのは、ホムラじゃなくて黒蓮。ホムラだと、ちょうど欲しい麺がなかったと商人に言われたかららしいが。
「そうですね……。辛い汁と食べるのが一般的でした」
「つけ麺タイプかしら? 大衆酒場とかでは出なかったわ」
「ローザリオン様が苦手でいらしてるかなり辛い料理ですからね。それもあるかと」
「あらそうなの」
カイルは、チーちゃんの作ったカレーパン以外、本当に辛いのがてんでダメになったのよね、フィーのせいで。
そこはいいとして、ホムラの麺はおそらく担々麺タイプのようね。
だとすれば、刀削麺に近いラーメンっぽいのも出来そうね?
「私も一度だけ食べましたが……あれはこの国の基準を考えても辛すぎました」
「じゃ、カイルは当然でもあたしもきつそうね?」
ミュファンがこう言うのなら、その料理は相当辛いはずだわ。
あたしよりも、辛いのが得意なんだものミュファンは。
「しかし、あの麺を姫が……?」
「昨日、シャケを使った和食っぽいのを作ったのよ。米も炊いたし、もうお代わり必須のものをね? その時のソースが余ったら、麺と絡める手法があっちの世界じゃあったの」
「なるほど……」
想像しただけでも美味しそうだろうと、二人は思っただろうが。
次の定例会まで、二人はチーちゃんの料理にはありつけない。
レイリアへの指導は、とりあえず次の予定はないものの。
多分だけど、カイルはこいつらにもパン作りを覚えさせるはずだわ。
チーちゃんの事情もある程度知ってるし、調理の腕前はまずまず。
今日帰ったら、一度聞いてみようかと思ってるけど。どうなるか、まだわからないわ。
「んー、そうね。カイルに頼んで麺も取り寄せようかしら?」
他にも、たしかリーンが来た日になんか取り寄せるとは言ってたけど、なんだったかしら?
とりあえず、軽い昼飯を二人に作ってもらってから、一度ギルドに向かうと。
「あ、こんにちはマックスさん」
受付のリーシュのとこに行くと、いつもどおりの笑顔で対応してくれた。
「よ。なんか急な討伐依頼とかあるか?」
「ちょうどありますね。二角獣の駆除依頼が」
「あれかー……何人かは向かっているのか?」
「ええ。AAランクには何人か。けど、まだ戻ってきません」
「報酬は?」
「黒銀のブロック、十本分です」
「よしきた。場所教えてくれ、ちゃっちゃと片付けてくる」
「お願いしますね?」
ちょっと体をならそうかと思っただけの理由で来たが、鈍った体を動かすにはちょうどいい。
レイがいなくとも、今のあたしには猫を殴るくらいのたいしたことのない討伐依頼なので。
リーシュに、場所だけ聞いてからギルマスに会うこともせずに向かえば。
たしかに、重傷一歩手前の連中があちこちにいやがった。
「おらおら! 応援に来たぞ!」
「「「!」」」
「雷刃砲! やった、SSランクの増援だ!」
「たのんます! あいつ、びくともしないんで!」
「おっしゃ!」
と言っても、討伐方法はとーっても簡単。
あたしの戦闘斧で雷撃を使ってモンスターに雷を落として、あとは急所を狙うだけ。
はい、終わり。
報酬はせっかくだからチーちゃんに、いい武器か調理道具をカレリアに錬成してもらおうかと思いついたのよね。
鍛冶の技能はあの子持ってないけど、錬金術に関してはピカイチだから。
とりあえず、討伐した証拠の二角獣のシンボルである二つの角を折り。
回復を怪我してる連中にかけてから、急ぎ足でギルドに戻り。
報酬をもらってから、馬車に戻って屋敷に帰ったわ。
けど。
「…………腹減った」
久々の燃費の悪さが、軽く戦闘しただけで起こってしまい。
出迎えてくれた、エイマーに抱きつくようにしてあたしは体の力が抜けてしまったのだった。
次は金曜日




