表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

332/825

88-2.しょっぱい失恋(エコール視点)

今日は特別にハロウィンだから更新







 *・*・*(エコール視点)







(ほんと、マジで美味かったよなあ……?)



 このお屋敷の新人である料理人の嬢ちゃん。


 何を食わしてくれるかと思いきや、骨のついていない塩焼きではあったが。


 クスティの漁師飯とは全然違う、丁寧に調理された美味い焼き加減と味だった!


 従姉妹のエスティ姉は、毎日あんな美味い飯を食ってるなんて羨ましい……。


 けど、勢いとは言え、嫁に欲しいと思ったことについては反省だ。


 まだ成人そこそこの感じだし、可愛いけど胸ほとんどないし。



(けど、どっかで見たような顔なんだよなあ……?)



 どこでだっけ? と思っていると、いつの間にか菜園に到着していた。



「……ん?」



 門をくぐった後に、菜園を見渡すと見覚えのある紫のおさげが見えたが。


 顔は、とんでもない美少女だった!


 あんなかわい子ちゃんいたっけ!?



「……誰……?」


「あの子はエピアさね?」


「え……って、エスティ姉!」



 いつのまにか、俺の後ろの門から従姉妹がくぐろうとしていた。


 俺を見るなり、小さく鼻で笑ってから頭を軽く殴るのはいつものことだけど。


 待って、待って待って?


 エピアって、あの挙動不審がすごかった前髪の長い女の子だろ?


 なんであんな激変してんだ!



「言いたいことは山ほどあるだろうが。恋と友情のお陰であんな風になったんだよ」


「こ、恋?」


「あれとくっついたのは、あたいんとこのサイラさ」


「え」



 もう売約済み……。エスティ姉の部下である、あの青い髪のやんちゃ坊主に?


 次会ったら、タックル必須だ。


 許せんぞ、あんなかわい子ちゃんを恋人にしただなんて!



「で? うちのとこじゃなくて、なんであんたがこっちにいるんだい?」


「あ。チャロナに教えてもらった、コメっつーの買い付けに」


「コメ?……ああ、あの子が明日振る舞ってくれる料理にぴったりの穀物のことさね?」


「注文品を卸した時に、料理長とあの子が食べてくれって言ったから食わしてもらった。スッゲー美味かったよ!」


「そうさそうさ。あの子の料理は、ある意味料理長を凌駕するくらいだからね?」


「で、コメの調理法だけ教わったから買いに来たんだけど……エスティ姉は?」


「ちょいと、ラスティの方に用があったんだよ」



 それなら二人で行くか、と並んで歩くことになり。


 作物のとこに近づくと、激変したエピアが俺を見ると綺麗な目をぱちくりしたが、すぐに会釈してきた。



「こんにちは。エスメラルダさん……エコールさんでしたっけ?」


「ん、結構久しぶり? 顔出した方が可愛いじゃん?」


「ど、どうも……ラスティさん、呼んできます」


「ああ」


「お願いするね?」



 俺が褒めると、ちょっとほっぺを赤くしてさらに可愛く見えたが。


 途端、エスティ姉に足を踏まれて、痛かったがなんとか堪えた。



「やあ〜。エコールくん、久しぶり〜?」



 ちょっとしてやってきたラスティさんは、相変わらずのんびりした笑顔だった。


 エピアの方は、作業の方があるからかいなかったが、俺は目的を言うのに口を開けた。



「あの、厨房のチャロナにご馳走になったんっスけど。コメって言う穀物、買わせてもらえないっスか?」


「お米〜? 食べたんだ〜?」


「うっす。めっちゃ美味かったんで」


「チャロナちゃんの料理は、なんでも美味しいからね〜?」



 なら、いいよ〜? と、ラスティさんは作業小屋から取ってきてくれることになり。


 少し時間がかかったが、革袋にずっしりと重いコメを俺に差し出してくれた。



「値段は、とりあえず青銅貨三枚かな?」


「うっす」



 安い漁師の賃金でも、まあまあ出せる金額だったので。


 俺は懐に入れてた財布から、言われた金額を彼に渡してから袋を受け取った。



「エコー、あんたチャロナに何食わしてもらったんだい?」


「持ってきたサバを、塩焼きにしたもんだったけど」


「「けど??」」


「塩振った以上に、身にも塩味が染み込んでたし。あと、なんか食ったことがある黒いソースと大根ってやつのすりおろしとか」


「黒い、ソース……」



 すると、エスティ姉の隻眼が光った気がした。



「ってことは。エスメラルダさんが分けてあげてるショーユ?」


「きっとそうさね? このあと聞きに行くのもアリさ!」


「え、あれがショーユ?」


「あの子はそれをさらに美味くさせたソースも作ったりするんだ」


「ずっり〜〜! ここの皆だけ美味いもん食えれて!」


「はっは、特権さね!」


「あ〜、やっぱ撤回しなきゃよかった」


「何を?」


「あ、もしかして〜?」



 俺がしゃがみ込むと、ラスティさんは俺の髪をぽんと叩いた。



「チャロナちゃん、可愛いし。胃袋つかまれたからお嫁にきてとか言ったんじゃ?」


「う」


「はっは! その勢いはいいが、あの子には想う相手がいるんだ。諦めな」


「え、誰?」


「ん? このお屋敷と言えば?」


「…………まさか」



 あの無愛想だけど、性格は悪くないし美形過ぎるエスティ姉達の雇い主である旦那様?


 一瞬、身分が……と思ったけど。この国の王様達の一部が身分差突き抜けて〜の結婚してるし、なくもないか。



(ん、王族?)



 と、チャロナの顔を思い出すと。


 未だに姿絵は出回っているが、亡くなられた王妃様と似てるんじゃ、と思いかけた。


 姉さん達に、聞いてみるか?



「……エスティ姉。ラスティさん」


「「ん??」」


「違ってたら、ごめんっスけど。チャロナって……」


「気づいたなら、それ以上は言うな。あの子自身も知らないんだからな?」


「……マジか」



 ある意味失恋して正解だった。


 俺なんかより、身分差が釣り合ってるのなら。


 幸せになるなら、その方がいい。


 なので、俺は気づいた真実を胸に抱えたまま、お屋敷を後にして。


 荷馬車でクスティに向かいながら、村の皆にコメを食わせてやるのを考えることにした。

予定通り、明日も更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こちらの作品も出来たら読んでみてください。
下のタイトルから飛ぶことが出来ます。



名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~


転生したら聖獣と合体〜乙女ゲーム攻略のマッチングを手助け〜
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ