88-2.しょっぱい失恋(エコール視点)
今日は特別にハロウィンだから更新
*・*・*(エコール視点)
(ほんと、マジで美味かったよなあ……?)
このお屋敷の新人である料理人の嬢ちゃん。
何を食わしてくれるかと思いきや、骨のついていない塩焼きではあったが。
クスティの漁師飯とは全然違う、丁寧に調理された美味い焼き加減と味だった!
従姉妹のエスティ姉は、毎日あんな美味い飯を食ってるなんて羨ましい……。
けど、勢いとは言え、嫁に欲しいと思ったことについては反省だ。
まだ成人そこそこの感じだし、可愛いけど胸ほとんどないし。
(けど、どっかで見たような顔なんだよなあ……?)
どこでだっけ? と思っていると、いつの間にか菜園に到着していた。
「……ん?」
門をくぐった後に、菜園を見渡すと見覚えのある紫のおさげが見えたが。
顔は、とんでもない美少女だった!
あんなかわい子ちゃんいたっけ!?
「……誰……?」
「あの子はエピアさね?」
「え……って、エスティ姉!」
いつのまにか、俺の後ろの門から従姉妹がくぐろうとしていた。
俺を見るなり、小さく鼻で笑ってから頭を軽く殴るのはいつものことだけど。
待って、待って待って?
エピアって、あの挙動不審がすごかった前髪の長い女の子だろ?
なんであんな激変してんだ!
「言いたいことは山ほどあるだろうが。恋と友情のお陰であんな風になったんだよ」
「こ、恋?」
「あれとくっついたのは、あたいんとこのサイラさ」
「え」
もう売約済み……。エスティ姉の部下である、あの青い髪のやんちゃ坊主に?
次会ったら、タックル必須だ。
許せんぞ、あんなかわい子ちゃんを恋人にしただなんて!
「で? うちのとこじゃなくて、なんであんたがこっちにいるんだい?」
「あ。チャロナに教えてもらった、コメっつーの買い付けに」
「コメ?……ああ、あの子が明日振る舞ってくれる料理にぴったりの穀物のことさね?」
「注文品を卸した時に、料理長とあの子が食べてくれって言ったから食わしてもらった。スッゲー美味かったよ!」
「そうさそうさ。あの子の料理は、ある意味料理長を凌駕するくらいだからね?」
「で、コメの調理法だけ教わったから買いに来たんだけど……エスティ姉は?」
「ちょいと、ラスティの方に用があったんだよ」
それなら二人で行くか、と並んで歩くことになり。
作物のとこに近づくと、激変したエピアが俺を見ると綺麗な目をぱちくりしたが、すぐに会釈してきた。
「こんにちは。エスメラルダさん……エコールさんでしたっけ?」
「ん、結構久しぶり? 顔出した方が可愛いじゃん?」
「ど、どうも……ラスティさん、呼んできます」
「ああ」
「お願いするね?」
俺が褒めると、ちょっとほっぺを赤くしてさらに可愛く見えたが。
途端、エスティ姉に足を踏まれて、痛かったがなんとか堪えた。
「やあ〜。エコールくん、久しぶり〜?」
ちょっとしてやってきたラスティさんは、相変わらずのんびりした笑顔だった。
エピアの方は、作業の方があるからかいなかったが、俺は目的を言うのに口を開けた。
「あの、厨房のチャロナにご馳走になったんっスけど。コメって言う穀物、買わせてもらえないっスか?」
「お米〜? 食べたんだ〜?」
「うっす。めっちゃ美味かったんで」
「チャロナちゃんの料理は、なんでも美味しいからね〜?」
なら、いいよ〜? と、ラスティさんは作業小屋から取ってきてくれることになり。
少し時間がかかったが、革袋にずっしりと重いコメを俺に差し出してくれた。
「値段は、とりあえず青銅貨三枚かな?」
「うっす」
安い漁師の賃金でも、まあまあ出せる金額だったので。
俺は懐に入れてた財布から、言われた金額を彼に渡してから袋を受け取った。
「エコー、あんたチャロナに何食わしてもらったんだい?」
「持ってきたサバを、塩焼きにしたもんだったけど」
「「けど??」」
「塩振った以上に、身にも塩味が染み込んでたし。あと、なんか食ったことがある黒いソースと大根ってやつのすりおろしとか」
「黒い、ソース……」
すると、エスティ姉の隻眼が光った気がした。
「ってことは。エスメラルダさんが分けてあげてるショーユ?」
「きっとそうさね? このあと聞きに行くのもアリさ!」
「え、あれがショーユ?」
「あの子はそれをさらに美味くさせたソースも作ったりするんだ」
「ずっり〜〜! ここの皆だけ美味いもん食えれて!」
「はっは、特権さね!」
「あ〜、やっぱ撤回しなきゃよかった」
「何を?」
「あ、もしかして〜?」
俺がしゃがみ込むと、ラスティさんは俺の髪をぽんと叩いた。
「チャロナちゃん、可愛いし。胃袋つかまれたからお嫁にきてとか言ったんじゃ?」
「う」
「はっは! その勢いはいいが、あの子には想う相手がいるんだ。諦めな」
「え、誰?」
「ん? このお屋敷と言えば?」
「…………まさか」
あの無愛想だけど、性格は悪くないし美形過ぎるエスティ姉達の雇い主である旦那様?
一瞬、身分が……と思ったけど。この国の王様達の一部が身分差突き抜けて〜の結婚してるし、なくもないか。
(ん、王族?)
と、チャロナの顔を思い出すと。
未だに姿絵は出回っているが、亡くなられた王妃様と似てるんじゃ、と思いかけた。
姉さん達に、聞いてみるか?
「……エスティ姉。ラスティさん」
「「ん??」」
「違ってたら、ごめんっスけど。チャロナって……」
「気づいたなら、それ以上は言うな。あの子自身も知らないんだからな?」
「……マジか」
ある意味失恋して正解だった。
俺なんかより、身分差が釣り合ってるのなら。
幸せになるなら、その方がいい。
なので、俺は気づいた真実を胸に抱えたまま、お屋敷を後にして。
荷馬車でクスティに向かいながら、村の皆にコメを食わせてやるのを考えることにした。
予定通り、明日も更新




