85-4.幼馴染みの勘(マックス《悠花》視点)
お待たせしましたー
*・*・*(マックス《悠花》視点)
『なんでやんすか、なんでやんすか! 俺っちをロティの前に出さないだなんて!』
「だーらっしゃい、あんたは!」
『へぶ!』
チーちゃんとロティちゃんを見送ってから、ずっと影に籠らせていたレイを仕方なく出した。
影から、あの子の変化を見ていたであろうこいつは。想い人の劇的な変化に、出てきた途端お花満開にさせたようなヘタレ顔になってたが。
そのロティちゃんがいないとくれば、あたしに涙顔で迫ってきたがった。
当然、契約精霊だからって気色悪いからぺいってしたけど!
「あんたとロティちゃんの恋路を邪魔する気は毛頭無いけど、時と場合を考えなさいな!」
『だからってぇえええ!』
「……なんだ。レイバルスはロティに懸想してるのか?」
「お似合いと言えば、お似合いだけど」
あ、そう言えばカイル達はレイの気持ちを知らなかったわね?
『けど。あの姿はなんでやんすか! 精霊は契約主の魔力変化で成長するのもいるでやんすが。ロティは別格でやんす! まさしく、神のお力添えを感じるでやんすよ!』
「……そうなの?」
『俺っちのこの姿は、マスターとの契約時のまんまでやんすから。年齢を下げることは出来やすが、上がるのはまだ試してないでやんす』
それは初耳だわ。
けど、今はそれどころじゃないから、この話は無理やり置いといて。
「カイル。シュラにどー伝えんだよ? 【枯渇の悪食】の始まりがこの国だっての」
「確証は、レクターが調べてこないとわからないが。……異能持ちの姫の言う事だから、ほぼ間違いない。偽りなく伝えるつもりだ」
「陛下とかも、きっと気落ちされるだろうけど。多分、マックスと同じ答えを下さるだろうね……」
「その可能性は高いな……」
時々馬鹿親父でしかない、チーちゃんとシュラの父上様は。
なんだかんだでこの国の英雄王だもの。
馬鹿でも、公私混同させない性格もちゃんと持っている。
だから、レクターからの報告を聞いても、レクターが言ってたとおりになるとは思うが。
『あああ〜〜……なんなんでやんすか、ロティのあの可愛らしさ! 可愛すぎて可愛いすぎて、俺っちどーすればいいんでやんすかぁああ!』
「あんたはうっさい!」
『げぼぉ!』
うるさいので、も一発腹にぶち込んでおとなしくさせておいた。
好き好き言うのは別にいいが、今はお花畑を咲かせてる場合じゃないもの。
「ま、まあ。マックス……好きな相手の変化に何かあったら、じっとしてられないのが性格じゃない?」
「まあ。俺もあんた達も想う相手がいるからそーだが、こいつの場合は暴走しがちだからこんくれーでいいんだよ」
「……お前も言えるか?」
「俺はいーの!」
少し前も、エイマーの肩をキュッと掴んじゃったけどー。
少し赤くなる顔が可愛かったけどー。
人前でめちゃくちゃイチャイチャしてないわ、ええ決して。
「カイルも、いつか言える時になったら。姫様と堂々と一緒に過ごせるんだし……もう少しの辛抱じゃない?」
「……そ、うか」
あとひと月半。
それくらいになったら、チーちゃんは自分の本当の家族の元に帰れて、カイルとも結ばれる可能性が高くなる。
その時期を、こいつも心待ちにしてるだろうけど。
「めでたく結ばれたら、ふたりで小旅行に出かけるのもいいんじゃないかなー? 僕はリーンと少し計画してるし」
「……いつのまに」
「あんた、リーンと結ばれてから性格大胆になったな?」
「しがらみとかが、どうでも良くなったからかなあ?」
幸せなのはいい事だ。
あたしの方にも、そのしがらみがなかったわけじゃないけども。チーちゃん達のお陰で払拭出来たに等しい。
毎日の過ごし方が色々変わってきたもの。
そろそろ次の段階に行きたいとこだけど……この世界で恋愛経験皆無だったから、慎重に行きたい。
あと、性転換での転生だから……あたし、ほんと未経験なのよね。
野郎どもの会話程度には、前世のOL生活だった時の知識と照らし合わせばまあ、ほとんど一緒だったが。
いざ実践となれば、話は別。
一度、あたしもエイマーを旅行とかに誘おうかしらん?
「あーあ。俺もエイマーと旅行行きてー」
「……せめて、姫の生誕祭が終わってからにしろ」
「終わったら行っていいのか?」
「……俺もそこまで頑固ではない」
「チーちゃんと再会して、少しずつ丸くなったなあ? 『氷の守護者』が?」
「……その異名は関係ないだろう」
「あるある。あんた、群がってきた女どもには露骨に毛嫌いしてただろ? そんなあんたが、チーちゃんには表情筋緩めるとか……やっぱ、愛だろ!」
「あ、あ……い」
「素直に認めなよ、カイル。捜索時代もなんだかんだで姫様一筋だったんだから、ずっと気を引き締めてたんじゃないの?」
「……く」
まあ、からかうのは大概にして。
明日のちゃんちゃん焼きが本当に楽しみだわ!
「例の神達が清酒を持ってきてくれたから、きっと美味いぜ。ちゃんちゃん焼きも鯖味噌も!」
「ずーっと前に言ってた、ワショク?だっけ?」
「そうそう。米を原材料にしてる酒で、飲むのもいいが……料理の臭み消しや旨みにもなって、煮込み料理とかにも重宝されてんだよ。たしか、黒蓮に行った時に飲んだ酒に近い」
「黒蓮か……」
「懐かしいねー。カイルがベロンベロンになったの!」
「……言うな。消したい記憶でしかない」
ほんと、2年前にその国でチーちゃんを捜索してた時に酒場で飲んだのよね?
そしたら、いつもならザルのカイルがふた口程度で落ちたのよ。
気色悪いくらい表情筋ゆるゆるで、酒場の女どもを蕩けさせるくらいの笑みになって。
多分、清酒独特のアルコール成分のせいもあっただろうけど……料理じゃ大概風味はともかく、アルコール分は飛ぶはずだし?
多分……チーちゃんの前ではそうならないと思うけど。
(一応、気をつけとこうかしら?)
ただの酒じゃなく、神が持参したものだから。
なにかが起きても不思議じゃない。
一応幼馴染みの沽券を守るためにも。
少し、緊張感を持たなくてはならない。
とりあえず、床に転がしておいたレイを無理矢理引きずって、寝るためにカイルの執務室から出る事にした。
次は水曜日です




