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68-1.冒険者ギルドのギルドマスター(マックス《悠花》視点)

冒険者ギルド……やっと








 *・*・*(マックス《悠花》視点)









 翌日。


 あたしは、レイを精霊の姿に戻らせて、空に駆け上がってからリュシアを目指した。


 レイは最初行きたくないと渋っていたけど、馬車を使う方が面倒とあたしのごり押しで無理に言い聞かせた。


 久しぶりに空を飛ぶ感覚は、気持ちがいいし、用事が用事じゃなきゃ楽しんでいたかったけど。


 面倒事だから嫌だわ〜と愚痴りたいのよね。


 門に到着して、ジョシュアに入門許可書をお願いして(ユーシェンシーの家の者でもあるから、顔パスでもいいけど、今日は冒険者だもの)。


 レイを少し小型にさせてから、店に寄るのは後にして先にギルドに向かう。


 道中、視線が色々痛く感じたけど、誰も近寄っては来なかった。


 ま、レイが隣にいる時点でそうよね?


 こいつ、大きさ変えても『雷公のレイバルス』でいるから、見た目いかつい虎だし。


 まあ、あたしもぉ?


 ランクSSの冒険者ってことで注目高いし、見た目悪くないし?


 女共からの熱い視線が嫌になるってくらいに混じっているのも癪だわ。あたしの場合はエイマーだけで充分よ!


 とりあえず、無視無視と堂々とギルドまで歩いていけば。


 見覚えのある連中達もいたが、軽く苦笑いされたのであたしも手を軽く振ってから中に入った。


 活気のある中はいつものことだが、あたしが入るなりさざ波が広がるようにシーンってなるのは勘弁してほしいわ。


 まあ、特にここひと月はカイルの屋敷に居たから、全然来なかったし。稼ぎには困ってないし、大物討伐の知らせもチーちゃんと会うまで特になかったし。


 けど、今日はギルマスに用があるから、全員無視して受付の方まで歩いて行った。



「よぉ、ギルマスに呼ばれて来たんだが」


「お待ちしておりました。お部屋にいらっしゃいますので、いつでもよろしいと」


「そ。行くぞ、レイ」


『ガルゥ』



 ベテラン受付嬢の一人は、あたしが来てもいつも通り涼しい顔で応対してくれたので、礼を告げてからそこを後にした。


 カイルんとこのように、魔法陣を常時設置して空間移動させる魔導具は、普通以上の貴族階層じゃないと設置出来ないんで、冒険者ギルドには普通ない。


 だから、階段を上がって移動するしかないが、面倒事についてはあれがあると楽だなと思わずにはいられない。


 ともあれ、5階までゆっくり上って、その階層にはひとつしかない大部屋の扉をノックする。



「おい、ギルマス。来たぞー」



 そして、この後の展開が予想しやすいんですぐさま飛び退けば。



「遅いわ、馬鹿者があああああああ!」


「おっと」


『あー』



 見た目からわかりやすいくらいの、熱血漢なおっさんが当然のように拳を突きつけながら扉を開けてきた。


 飛び退いた場所が、べこって嫌な音がしてきたけれど。当たんなかったからよしとしておかないとね。


 代わり、じゃないけど。あたしも拳を突きつけたわ!



「あたしが言えないことくらいあるのがわかれや!」


「ぬるい! その口調でいると言うことは、あの方がやはり本物であられたという事か!」


「ちっ、やっぱ勘付いていやがったか」


「あん時に俺も居たからな!」


「げー……」



 ってことは、今日呼んだ理由は単なる確認ってことかしら?


 とりあえず、本気じゃない拳を余裕で掴まれたのと、もう隠しようがないので大ため息を吐くしかなかったわ。



「とにかく中に入れ。下と結構離れているとは言え、誰かが聞き耳を立てないとは言い切れないからな」


「あんたの声が馬鹿でかいからでしょ」


「うるさい」



 とにかく中に入るように言われ、あたしは応接用のソファにどかっと座り、レイはあたしの足元で寝そべった。


 ギルマス……アレスタ=バッカシュアはいかつい見た目から裏切って、繊細な手つきでコーヒーを淹れてくれるとあたしの前のローテーブルに置いてくれた。



「で、あたしを呼んでどうしたかったわけよ?」


「…………分かれ、それくらい」


「あたしは、あの子(姫様)の護衛だもの。何も悪くはないわ」


「やはり、姫様……髪色は、カツラか何かで隠されてたのか」


「ええ。本来実兄であるシュラがね。姫様……あたしは普段チーちゃんって呼んでるけど、あの子はこの国の事情についてほとんど知らないわ。育ったのは、亡命させたカイザーの爺様のお陰でホムラ皇国まで逃げ延びてたからよ」


「ならば、16年も経った今……何故この国に」


「言いふらさない覚悟があるのなら、だけど」


「誓って、言わん」


「そう」



 そこからあたしは。


 チーちゃんが、カイルに拾われて。今はカイルの屋敷で使用人として生活してる事。


 加えて、あたしがマブダチとなり、護衛になった事も。


 あ、ギルマスには転生者の話はしてないから言わないでおいてるわよ?



「…………そうか。だから、お前がしばらくこっちにも来なかったわけか」


「あたしも少し引退を考えたりしたけど、ランクがランクだし。すぐには出来ない事くらいわかってるわよ」


「たりめーだ。お前みたいな逸材、世に引退が知れたらどんな事になるか考えてみやがれ」


「けど、あたし婚約したからいずれは引退するわよん?」


「な……に?」



 そう、あたしがエイマーと婚約した事で。


 いずれは、だけどカイル達のように引退はして。


 親父の跡目を継がなくちゃいけない。


 そこは正直にギルマスに話す事にした。



「チーちゃんのお陰で、あたしの長年の想いが報われたのよ。だから、いずれはユーシェンシー家に戻るわ」


「…………マジかよ」


「マジも大マジ。それだけはもうどうしようもないわ。けど、なんかあったら言ってきてくれて構わないわよ。SSランクだなんて、そうゴロゴロいるもんじゃないし」


「そこは助かる。今の所、大掛かりなのはないがいつA級討伐依頼が来てもおかしくはない」


「面倒よね〜」



 Sランクもだが、Aランクも早々いるはずがない。


 あたしの場合、転生の特典が大きかったけど。あとは、今の親父に鍛えられまくったせいも大きいわ。



「わかった。そこについては了承しておこう。姫様については、決して口外せぬと誓おう。が、問い合わせが殺到するくらい、あの方は亡き王妃様の生き写しそのものだ。次に来る機会があれば、まず俺のところに来い。口裏合わせではないが、なんとかしよう」


「一応、あの子に真実を知ってもらう機会は約二ヶ月後よ。それまでに、孤児院の差し入れなんかがあるし、まったくじゃないけど来ないこともないわ」



 たしか、サイラの提案でレイリアに会いにまた行くとも言ってたし。


 あそこの連中にはこの後で会いに行く予定ではいるけど、少し久しぶりだからどうなってるかしら?



「……それは、陛下が?」


「いいえ、提案者はシュラよ。ついこの前、カイザーの爺様も亡命させた真実を口にしてくれたから、いい加減打ち明けようになったってわけ」


「…………しかし、王妃様への真実もか」


「そうね。あの子は悲しむだろうけど、まだ家族をすべて失ったわけではないわ」



 男家族だけど、父や兄は健在だ。


 従兄弟も、想ってるカイル以外にもリーンだっている。


 あたし達もいるんだから、寂しい思いは絶対にさせないわ!



「……たしかに、そうだったな。まだすべてを失ってはいない」


「それと、想う相手も出来たのよ。いい感じだし、あたしのようにうまく行って欲しいんだけど」


「…………誰、にだ」


「カイル」


「おいぃいいいい!」



 あー、見てて面白いわ。


 こいつ、見た目いかついおっさんでも、ツッコミ気質があるせいか面白いくらいリアクションがいいのよね。


 ひとしきり驚いてから、ギルマスはがっくりと肩を落とした。



「……それはあれか。カイルキアの見た目があれだからか?」


「それもなくはないでしょうけど、意外と面倒見がいいあいつに惚れたかもしれないわ。カイルの方も、惚れてるし」



 それと、レクターとリーンがこの前結ばれた事を告げれば、また面白いくらいにひっくり返ったわ。



「おい、なんだよ。あの女っ気のなかった、カイルキアまでも……お前ら全員かよ!」


「いーいでしょ、万年独身のあんたよりか」


「俺も婚約したわ!」


『「……誰と?」』


「受付のリーシュだ」


「あらぁ」



 さっきあたしに対応してくれたベテランの子ね?


 あれはなかなかに上玉だし、肝っ玉据わっているし……なかなかいい選択したじゃないの。



「……とりあえず、なんだ。姫様の噂についてはなんとかしておく。と言っても、絵姿まで出回ってるのはどうしたもんだか」


「何させてんのよ!」


「仕方ないだろ? あれだけの口上をあそこで披露したんだ。絵師も出入りしてたし、今も王妃様の再来とも言われてる。すぐには、難しいが」


「あー、あれね。本人覚えてないらしいのよね」


「そうなのか?」



 それから雑談をしばらく挟んで、あたしとレイは店の方に足を運んだのだった。

明日も頑張ります!

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