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62-1.久々に魔法講義

魔法を繰り出しますん






 *・*・*








「結構元気そうじゃねーか!」



 ちょっと久しぶりにやって来られましたのは、フィーガスさん。


 用事はもちろん、私の魔法訓練の先生として。


 私が風邪だったことを、カイルキア様から伺ったのか私と会うなり、わしゃわしゃと髪を撫でてくれました。



「はい。皆さんのお陰でもうすっかり快復です!」


「そうかそうか。実はうちのカーミィも夏風邪引いちまってよ」


「え、大丈夫なんですか?」


「おう。だいぶ熱も咳も落ち着いてっから、今日は屋敷の連中に頼んでんだ」



 それなら、安心出来たけど。


 この時期って、風邪が流行る時期だったのかな?


 孤児院では年がら年中だったけど、冒険者だった時はどうだろう?


 たしかに、怪我や病気があったけど、私は看病する方だったから、自分がかかるのだなんて相当久しぶりだ。


 とにかく、今日はフィーガスさんの時間の兼ね合いもあって、午前中に魔法の訓練をしていただけることに。



「んで? 結局は、俺の言った通りだったか?」


「はい。先生が、ケッセンがいくつかあったのでそれを取り除いてくださったら」


「魔力保有量が高い奴なら、まずあり得る結果になったわねぇ」



 今日は、悠花(ゆうか)さんとレイ君も一緒。


 ロティはデレデレが隠しきれていないレイ君の腕の中。


 ちょっと大丈夫かなと思うけど、今日のメインは私なのだからロティは少し離れていなきゃいけない。


 私は今日は料理人じゃなく、魔法師になるための生徒なんだから!



「ほーぉ。んじゃ、同じ技を俺に当ててみろよ」


「は、え?」


「だーいじょぶだっての。当たると分かってりゃ、初心者の技でも全然防げるって」


「けど、結構凄かったんですよ?」



 私が言うのもなんだけど、あの威力は凄かった。


 こう、中華鍋とかフランベの火力に比じゃなかった気がする。


 それでも構わないと彼は言うので、ロティに遮断(シャウト)を周囲にかけてもらってから私とフィーガスさんは向き合った。



「おら。全開で来いよ。半端じゃ、お前さんの力がどんなけかわかんねーだろ?」


「む。ほんとに怪我しても知りませんからね?」


「ああ、いいぜ?」



 ちょっとわざとらしい挑発なのはわかったけど、カチンと来ちゃった。


 こうなったら、特大の炎の矢をお見舞いしてあげようじゃないか!


 まずは、構えて……詠唱は無しでいい。


 今ならイメージだけでいけそうだから!



「…………【炎の矢(フレア・アロー)】!!」



 ただ違ってたのが。


 イメージでは一本の大きな炎の矢を見立てていたのに、今度は複数の矢が散らばるようになって飛んで行ってしまった。



(なんでなんで?)



 ケッセンはとうに抜いたのに、やっぱりイメージとコントロールがうまく成り立たない。


 前のもそうだったけど、このままじゃいくらフィーガスさんでも怪我は免れないんじゃって、あたふたしてたら。



「おんっもしれー……複数同時か」



 すると、フィーガスさん。上空に手を上げたと思ったらいきなり剣を握っていて。


 その剣を握った直後に刀身が青白い光を帯びて、向かってくる炎の矢めがけて構えられた。



「一つ!」



 声を上げたと同時に、斬り込んで行くと、あれだけ勢いの強い炎が瞬く間に消えてしまい。


 次のも同じく、次の次も。


 計6本は飛んでた炎の矢だったのに、フィーガスさんはあっという間に切り裂いて消してしまいましたとさ。



「す、すっごい……」



 これが、冒険者だった魔法師の力?


 引退しても尚って、カイザークさんのお孫さんでも、力量が桁違いだ。



「ちぃっとばっかしびっくりしたが、まあ魔力保有量があれだけなら頷けれるな?」



 涼しい顔一つで、剣をまた消してしまい、フィーガスさんは口笛を吹いた。



「相変わらず、腕は衰えてないわねぇ?」


「たまーに、爺様の練習相手になってっかんな?」


「ああ、じい様ねぇ?」



 なるほど、カイザークさんとの。


 実際、カイザークさんがどれだけ強い人なのかはわからないけれど、フィーガスさんがこれだけの力量を持つんだ。


 きっと、すっごいハイパワーおじいちゃんかもしれない。



「けど、さっきの慌て具合じゃイメージとは一致してねーようだな? ケッセンは抜いても……魔力が浸透しきってねーかもしんねぇな?」


「浸透?」


「魔力の多い少ないに問わず、身体に行き渡ってないとイメージとコントロールが噛み合わないケースがある。嬢ちゃんの場合は、まさにそれだ」


「どうすれば……」


「何。簡単なことだ。魔力を使うだけ使って『消費』を身体に馴染ませりゃいい。ある程度使い慣れなきゃ、魔力も増えたり減るのを覚えられないからな?」


「え?」



 ってことは。


 私がとにかく限界になるまで魔法をぶっ放さなきゃいけないようで。


 それからは、魔力がなくなるイメージをしながらも、大きな魔法を放つ練習となった。



「とりあえず、さっき教えた技から順に俺に放て。マックスの方にも流れ弾飛んだら、そん時は気にするな。あいつなら自分で対処出来る」


「は、はい!」


「心配しなくていいわよ、チーちゃん〜。本当にこっちはなんとかするから」


「うん!」



 それからは、【土の障壁(アース・クウェイク)】【水の竜巻(アクア・トルネード)】【炎の爆炎(フレア・ブリザード)】などなどなど。


 コントロールはきかなくても、なんとか形になった魔法を繰り出してはフィーガスさんに受け止められ、いなされて。


 時々、悠花さん達の方に飛び火しちゃったけど。悠花さんは悠花さんで、戦斧(バトルアックス)を魔法で取り出してからいなすなど、かっこいい!


 けど、私は私で、体力を使い切る感じで魔力を消費するのを体で実感していた。



「よーし、そんなもんだろ」


「ぜーは、ぜーはー……」


「疲れてるとこ悪いが、なんでもいいから軽めの魔法を放ってみろ。そろそろ出来るはずだ」


「は、はい……」



 そして、放ってみたのは最初に披露した炎の矢(フレア・アロー)で。


 今度こそ、一本でーと思ったら、あらまああっさりと。


 威力もひょろひょろだったが、きちんと一本の矢が出来てすぐに消えたのだった。



「うっし。消費に関しちゃ、しばらくは繰り返しすりゃ落ち着く。つか、教えたら即出来るっつーのは、やっぱ転生者のせいか? リーンやシュラ様に教えるより楽だぞ?」


「あたしもそうだったじゃない。大体の魔法想像とかがイメージしやすい文化圏にいたのよ」


「ニホンってすげーのな」



 とりあえず、合格はいただけたのはいいんだが。


 使い過ぎた魔力と体力が体に追いつかなくて、足がガクガクのプルプル。


 仕方なく、悠花さんのお姫様抱っこで自室に。


 エイマーさんに少し申し訳なく思うが、私と悠花さんはマブダチだと認識されてるから大丈夫と悠花さんが言ってくれてるので。


 とりあえずは、ご厚意に甘えることにした。


 ちなみに、治癒魔法をかけ過ぎると、せっかく消費を覚えた魔力が体に浸透しないからと却下されました。



「この分じゃ、俺が教えれんのは魔法の種類と応用程度だな? あと、カイルが許可してくれりゃ領地内の魔物(モンスター)討伐に加わらせるとか」


「い、いきなりですか!?」



 部屋に全員で入って、私がベッドに降ろされてから唐突にフィーガスさんが言い始めた。



「いきなり大物は狙わせねーよ。小物小物、ゴブリンとかアッシュコボルトとか」


「えー……」


「自衛のためだと思えよ。お前さん、例の元子爵の前でいきなりぶっ放しかけたんだろ? ああ言うのが二度とないと思わねーし」


「……はーい」



 たしかに、覚えていなくてもああ言うのが二度と起こらないように、自分で自分を守らなくちゃ。ロティの事もあるし。



「とりあえず、今日の講義はここまでだ。復習はせめて二、三時間後にしとけ。体が動かねーからな?」



 と言った途端、フィーガスさんは指を鳴らして転移魔法を繰り出そうとしたのを私は慌てて止めた。



「昨日の作ったプリンがまだ残ってるんです。型に入ってるんですが、その器を持ってれば食べられますので」



 せっかくだから、カレリアさんへのお土産にしてもらいたい。


 器の型は返してもらうことを約束して、食べ方を教えてから、今度こそはフィーガスさんも笑顔になって帰られたのだった。



「さて、明日は試作と祝賀会だけど。今日は少し休んだら?」


「うん、もうダメ」



 フィーガスさんの前では力を抜けなかったのが、一気にどっときて、私はベッドに倒れ込んだのだった。

全然繰り出していないおおう(*´Д`* )おうふ

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