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56-5.帰ってから(シュライゼン/アインズバック視点)

今日は短いです






 *・*・*(シュライゼン視点)







 さて、転移でとりあえず俺の私室に帰ってきたんだが。



「…………う、うう……うー……っ」



 とりあえず、予想してた結果になったから、いきなり膝をついて四つん這いになった父上の背中を叩いたんだぞ!



「う!?」


「受け取ってもらえて良かったじゃないか。なんで今更泣くんだぞ!」


「殿下。陛下はあの時も耐えられたのですから」


「わかってはいるんだけど……泣き過ぎ」


「うぅ……」



 もうすでに、床の絨毯に涙のシミが出来ちゃってるし。


 感極まってる父上はなかなか立ち上がろうとしないし。


 マンシェリーと別れるまでは、毅然とした態度でいられても。


 こうもなるとは、俺も予想はしてたんだが、予想以上に面倒なんだぞ。


 散々人を妹の目の前でバカ息子と呼びまくることで、すぐに号泣する癖を抑えてても。


 決壊すると、こうなるかってくらいにどんどん涙の量は増えてくし。



「俺の……俺の作った人形をあれほど、あれほど喜んでくれるとは……! アクシアそっくりの笑顔で、あれほど!」


「だー!? 父上泣き過ぎ! 俺の絨毯変えなくちゃいけないじゃないか!」


「絨毯一枚がなんだ! 二度目の対面でこの顔を見せずに済んだ努力をいたわれ!」


「どこにだよ!」


「陛下。絨毯も安くはありませぬぞ、ましてやここは殿下の私室」


「……すまん」



 うむ。やはり、爺やの言葉は王でも敵わないんだぞ。


 何せ、俺以上に父上の教育係でもあった爺やなんだから。


 父上も後が怖いから、なんとか涙を拭って立ち上がった。



「…………う……うう。作って良かったぁ」


「とりあえず泣き止みなされ。歓喜の心は十分に姫様にも伝わりましたぞ?」


「そうだと……そうだといいんだが」


「あれだけ喜んでもらったんだから、そうなんだぞ」



 本当に、子供のようにはしゃいで人形に頬ずりしてたくらいだし。


 後半はほとんどロティが堪能してたが、いい品だったんだぞ。



「…………ぐす。しかし、あの子の前で伝えた頼み事は嘘ではない。二人とも頼んだぞ」


「うむ」


「承知致しました」



 たしかに、パンの技術を広めるなら。


 本当だと、シェトラスの師ら宮廷料理人を派遣したほうがいいかもしれないが。


 まだ身近な俺達のほうが、親近感も持ってもらえるし、マンシェリーも安心んするだろう。


 そこの采配は、父上も王として考えたのだろう。



「とりあえずは、食パンとバターロール?がうまく出来ればいいんけどー」


「一朝一夕では難しいですぞ、殿下。今日もお教えいただいたご助言を考慮してまた挑戦してみなくては」


「うんうん。まさか、暑さも関係してるとは思ってもみなかったんだぞ」



 今日教えてもらったのは。



 ①一次発酵ののちに、そのまま置いておくと夏は生地がさらに発酵しやすく、冬は寒くて緩みにくい


 ②生地を必要以上に触らない、手数を減らして成形していく


 ③膨らみ過ぎると、焼いても内側がパサパサになる可能性大



 この注意点は重要だったんだぞ。


 ただ、マンシェリーにきちんと見てもらわなければわからないので、ひとまずの課題の一つにしておく事になった。



「五日後に持っていけるように、今から作ってみるんだぞ!」


「材料の無駄遣いはするな。カイザーも一緒に行け」


「は。気をつけますぞ」



 と言うことで、お昼を食べてから挑戦はしてみたんだが。


 加減とやらがさっぱりで、失敗続きに終わったのだった。






 *・*・*(アインズバック視点)








 本当に……本当に、アクシアが帰ってきたと勘違いしそうになってしまった。


 俺は自室に戻ってから、ベッドにうつ伏せになり、無理矢理引っ込めた涙を流し続けていた。



「……アクシア。俺達の娘は、君そっくりだ」



 もう会えない、愛しい人。


 俺が初めて贈った小さなマロウサギの人形を手にした時の笑顔と瓜二つ過ぎて。


 マンシェリーの前では、なんとか堪えたが。もう自分の部屋だと我慢が出来なかった。


 今は王でもない、ただの父親として。


 涙を堪えるのはとてもだが、無理だったから。



「……大事にしてくれると言っていた」



 契約精霊の方も気に入っていたようだし、壊す様子もないし、丁寧に扱ってくれるだろう。


 そこの心配はあまりしてないが、しばらく会いに行く口実がないのは残念だ。


 息子のように、気楽に会いに行けないのが王であり、まだ打ち明けていない父親としての役割だから。


 だから、しばらくは我慢するしかない。



「それに、あの子のパンの技術をもっと広めるために一部だけにも、知らさねばならない」



 もう大丈夫だと顔を上げてから、何度か洗面所で顔を洗って、この間使者として出向いた者らを玉座の間に召集する事にした。


 目的はもちろん、マンシェリーのパン製造技術について。



「徐々にだが、王太子と宰相が直々に彼女に習いに行く形になる。お前達の中で料理の心得がある者にも、二人が覚えた技術を習得してもらいたい」


『はっ!』



 どこまで可能に出来るかはまだわからないが。


 出来るだけ、こちらも素早く対応していこう。


 でなければ、あの子の持つ錬金術を公にしていくのが難しいからだ。


明日は人物紹介込みで二話お送りします

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