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39.その頃のあの集団(メルクキス視点)

実は実は……です








 *・*・*(メルクキス視点)








 ほんと、なんでこうなった。



「ちょっと! そこ塩入れ過ぎ!」


「うぇ〜ん、この洗剤どう使うの? 泡立ち良過ぎ〜……」


「それも入れ過ぎだから! ああ、もうメルクも手伝って!」


「俺に鍋番頼んだの誰だ!」


「そうだった!」



 今は冒険ではない。


 ただの野営地点で、今日の夕食作りと洗濯に別れてメンバーが動いているだけ。


 が、ひと月近く経っても誰も要領を得ず。


 毎日が、魔物(モンスター)と戦ってる以上に疲弊してくばかり。


 この雑事を一切請け負ってた少女がいなくなっただけでこれだ。



「あ、マシュラン。……それ焦げてる」


「うっそ! うっ……わ、せっかく採ったキノコ!」


「仕方ない。俺、採ってくる」


「ごめん、ジェラ」



 男手も加わってこのザマだ。


 俺も他人事じゃねーが、今見てるスープが焦げないよう見守るしか出来ない。



(…………あいつ、よく一人で全部こなしてたよな)



 リーダーのマシュランの決断とは言え、脱退させてしまった、成人し立ての少女。


 メンバーの中では最年少だった、元パーティーメンバーで一応錬金術師だった少女の事を思い出した。


 適性は一応あるはずだったのに、何故かポーションも他の錬成も出来ず、戦闘力も皆無だった少女だ。


 そうして、いつのまにか洗濯から始まって、自然と雑事を請け負う形になり……ある意味家政婦のような存在でメンバーとしては在籍していた。


 もう二年も共にいてくれたんだが、ひと月程前に。このセルディアス王国領に入ってから……今キノコを焦がして落ち込んでるリーダーマシュランが。


 その少女、『チャロナ=マンシェリー』を、脱退させようと言い出したのだ。


 最初は、俺もだが全員反対したんだが。



『決めたんだ。もう……皆が言っても、僕は決断を覆さない』



 あの時ほど、戦闘以外じゃ頼りなかったリーダーに悪寒を感じない日はなかった。


 結局は、全員を頷かせて、二日後に彼女を脱退させて旅立たせた。


 いつか言われるのを覚悟してたらしいチャロナ本人は、困ったような笑顔で俺らを見てから去っていった。


 が、その日からはもう地獄のような日々の始まり。


 今もだが、全員戦闘以外の雑事には苦戦しまくっている。


 一応、親元にいた時に担当してたのをこなしてみても同じようにいくはずもなく。


 結果、チャロナを脱退させたのは失敗だったのだ。



(当然だがな? 誰も(・・)何もしてこなかったんだ)



 いつも洗い立ての清潔な服が用意され。


 いつも暖かな食事を用意してくれて。


 健康管理も、時々は気にしてくれていた。


 何も役立ってなかったわけじゃない。


 チャロナは、俺達の生活にとっての『要』であったのに。



(いつまでも改善されなきゃ無理だろ?)



 こうなったら、出費はかさむが野営を断念すべきだと俺でも思う。



「ねぇ、マシュラン!」



 俺が考えあぐねていると、気の短い魔法師のシミットがリーダーに詰め寄っていった。



「やっぱり、何も教わってないあたし達じゃ無理があり過ぎるわ! あれは急だったけど、チャロナを脱退させるの。せめて引き継ぎしてからでもよかったんじゃないの?」



 流石のシミットでも堪忍袋の緒が切れたのか。


 ひと月様子見してても、誰もが要領が悪過ぎて、いい加減問い詰めてやりたかったのだろう。


 いつもチャロナに洗濯を頼んでたあいつでも、じつは一番心配性だったからなぁ?



「…………ダメだ。今更探しに行ったって戻せない」


「なんでよ!」



 シミットの怒りが頂点に行きそうなのに、何故かマシュランは否定的だ。


 顔はこの角度じゃ見えねぇが、シミットが少し怯んでいるから、決断した時の目と同じなのだろう。


 だが、俺も堪忍袋の緒が切れそうなんだよ!



「おい、マシュラン。今回ばっかは俺もシミットの言葉に賛成だ」


「でしょ!」



 俺も言い出すと、他に洗い物を担当してた弓者(アーチャー)のミッシュと剣士(ソードマン)のラトに、キノコを取りに行ってた僧侶(クレリック)のジェラも静かに頷いた。



「あの時はお前の決意に頷いちまったが、チャロナに非はねぇ。……気まずくさせてたのは俺達が悪いが。何も急に脱退させる理由にはならねぇだろ?」


「…………」



 副リーダーの俺の言葉には流石に反応を見せたのか、振り返っても気落ちした表情になっていた。


 シミットも他の奴らも、俺の聞きたいことが全員一致してたのか誰も口を挟まない。


 しばらく、全員でマシュランの様子を見ていると、何か諦めたのか大きく息を吐いた。



「…………とりあえず、メルクキスだけ来て」


「ちょっと、あたし達もいちゃダメなの?」


「順番にだよ。ひとまずはリーダーと副リーダーだけにさせて」



 なので、料理をジェラに任せてから、俺とマシュランは茂みの奥深くまで歩いた。


 道中はずっと無言だったが、だいぶ奥に着くと突然立ち止まった。



「んで? いい加減言う気になったって訳か?」


「…………君には酷な事だから、出来れば隠し通したかったけどね」


「は?」



 なんでチャロナの事なのに、俺が?



(いや……まさか)



 まさか、こいつに気づかれていた?



「君は、一番チャロナを気にかけていたんじゃないかな? メンバーと言うよりも、男として」


「…………バレてたのかよ」



 一応、念入りに隠してたつもりだったが。


 この戦闘以外ぼんくらな男に見抜かれているとは思ってもみなかった。


 だが、そこは曲がりなりにもリーダーを任されているからこその、観察力の高さもあるのだろうな。



「気づいてる子は気づいてるよ。シミットは違うだろうけど、ジェラとかミッシュは多分」


「あ〜〜……そうかよ」


「てっきり、付いていくとか言い出すかと思ってたけど」


「…………あいつに迷惑がられると思ってたんだよ」



 ガタイもでかい、ガラの悪い男に好かれてもきっと喜ばないだろうと。


 あれだけのべっぴんさんは、同じ綺麗系ならジェラの方が似合いだ。そのジェラはどーかは知らねーが。



「で、今もまだ……?」


「あーそうだ。未練タラタラ、副リーダーじゃなきゃ追いかけそうになってたさ」


「じゃあ、今から聞く話……言っても?」


「なに言うんだよ……」


「…………チャロナの、本当の家族(・・・・・)について」


「……は?」



 なんで、孤児のチャロナの出生とかについてこいつが知ってる?


 チャロナの一応の故郷は、あいつと出会ったホムラ皇国なのに?


 なにを俺に言う気だ?



「…………絶対信じないと思うけど。彼女は、本来なら僕らみたいな冒険者と話せない環境にいるはずだったんだよ」


「……つーと?」



 前置きでなんとなく察せれてはいるが、こうなったら全部聞く。


 その上で、俺もメンバーにちゃんと言うか決めよう。


 俺の目を見てそれに気づいたのか、マシュランは苦笑いしながら言葉を続けた。



「…………今いるこの国。僕の出身地でもあるセルディアス王国のお姫様だからさ」


「…………嘘だろ?」



 口ぶりから予想してたとは言え。


 俺は、とんでもねー女に惚れ込んでたってわけ?


 あれだけ気さくな女が、実は王女だって信じられるか?



(だが……なんつーか、品はあったな?)



 思い返せば、たまに見せる仕草も。


 ふとした笑い方も。


 ときめいた数々の事が、一般人じゃねーのはあった。


 最初はてっきり、孤児院での作法だと思ってたが。



「嘘じゃないんだよね。彼女の髪色、あれ他の国でも似たようなのはあっても。この国じゃ王侯貴族しか受け継がれない特別な色なんだ。あと、戦争で亡くなられた王妃様に彼女、そっくりだったから」


「まさか……出会って即採用した理由って」


「ああ、そこは違うよ。あの頃はデビューしたてだったし。この国に送り届けるとかそんな大層な理由じゃない」


「んじゃ、なんで?」


「彼女を脱退させた理由は…………使者が来たんだ」


「使者?」



 またおうむ返しのように聞くと、マシュランは一度長い息を吐いた。



「『姫をあるべきところに返すためにも。どうか決断してほしい』。クノーテンに着いた時に、酒場で出会ったんだよ」


「んな事信じられるか?」


「けど、僕も憎まれ役を買ってでも、チャロナ……姫をもう親元に返してあげなきゃって。ずっと悩んでいたんだ」


「……お前、馬鹿だろ」


「そうだね」


「ちげーよ。俺に言わなかった事だ」



 副リーダーの俺が、いくらチャロナに惚れてたってメンバーの事を第一に考える立場は同じだ。


 戦闘能力も、生産能力もない家事が得意の女でもメンバーに変わりはなかった。


 あんな形で脱退させていいものでもない。



「……僕を、責めないの? 好きな子を無理矢理抜けさせたのに」


「そこについてはずっとイラついてたが。お前を信頼してっから、副リーダーとしては納得がいく。けど、あれはよくねーよ」


「……けど、セルディアスに入ってから。もう一度使者が来たんだ」


「いつだよ?」


「……姫を抜けさせる一週間前。『ここで別れてくれ』って。野営地で急に」


「…………城のもんか?」


「多分、だけど」


「なんで?」


「……二度とも、黒尽くめのマント姿だったから。君にも時期を待ってから言えって」


「ちっ」



 遠回し過ぎるが、もう過ぎてしまったことだ。


 チャロナはもう城に帰ってるかもしんねーが。


 今悔いても、もう彼女は二度と戻って来れないのはこれでわかった。



「……とりあえず、これで全部。だから、皆にももう言うよ」


「……ああ」



 そして、戻ってからマシュランの口から伝えられた内容に。


 それぞれ、放心したりその場に崩れたりと。


 俺以上にショックな状態になった。


 そして俺も、一途に想ってた恋心を閉じることにした。

明日はまた主人公側に

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