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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE 月光浴‐幽霊船の残骸‐ 3


「私の女の直感みたいなのが告げている、あそこに行けば何とかなりそうな気がする!」

「お前の直感は生存本能みてぇなものだから、少しは信じる価値があるかもな」

 漁村の奥には奇妙な施設へと続く道があった。


 それは螺旋状の道で、まるで巻き貝のような地形になっている。

 幽霊達はぼうっと呆けながら、遠くの海の景色を眺めていた。

 彼らの中には星を見ている者や、海岸の遥か彼方を見ている者達がいる。何やら生きていた頃の記憶をぶつぶつと呟き続けている者もいた。


 頂上に辿り着く。

 どうやら、此処は天文台みたいだった。

 頂上には、古びて錆び付いた天体望遠鏡が置かれている。

 イリーザは天体望遠鏡を覗き込んだ。


「おいおい。無防備だな。トラップかもしれねぇぜ?」

 セルジュは少し呆れる。


「これを見てっ! セルジュっ!」

「なんだ?」


 セルジュはイリーザを押しのけて、望遠鏡に眼をやる。

 空が写っている。巨大な満月がよく見える。

 満月の下には、何体かの骨だけ鳥が、空を旋回していた。

「骸骨鳥よっ!」

「それがどうした?」

「私、骸骨鳥の習性を知っているっ! ランプの明かりに反応して、人が操る事が出来る!」

「明かりは?」

 セルジュは辺りに転がっているガラクタを探す。ランタンを見つけた。オイルや火を灯すものは見つからない。……明かり…………。

 セルジュは鞄の中から、真珠を取り出してランタンの中に入れる。

 ランタンを月明かりの下に照らすと、大きく光り輝いていた。

 しばらくすると、天文台のバルコニーに、空から骸骨鳥や骨だけのウミガメが舞い降りてくる。

「この骸骨鳥達は小さいから…………。同じ習性を持つ、骨ウミガメに乗りましょう?」

「大丈夫なのかよ?」

「うん。骸骨鳥は“乗鳥”の為に、少し光を動かす訓練がいるみたいだけど。骨ウミガメの方が扱いやすい。……でも難点があって」

「それは?」

「骨ウミガメは空も飛ぶけど、海が近付くと習性として海に行きたがる…………」

「ダメだな。あの大海は渡れねぇな」

「じゃあ。私達が乗れる骸骨鳥を探さないと……………」

 イリーザが言っている間、ダチョウくらいの巨大な骸骨の鳥が舞い降りる。形状は空の恐竜のラムフォリンクスに似ている。

 二人は真珠の入ったランタンを見せると、巨大な骸骨鳥は興味を示した。

「私達に好意を示したわ。運賃として、後で幾つか真珠を渡す事を条件に乗せてくれる筈」

「ギャラが減るが仕方無ぇな。乗るか。しかし、お前、闇の世界の生物の生態なんかに意外と詳しいんだな」

「私は狂人達と生活していたから、多少は分かるわよ」

 イリーザはそう言うと、骨の鳥の上に乗った。セルジュは続く。


 二人は巨大骸骨鳥の前にランタンを掲げて、空高くから大海原を渡るのだった。



「……通行料として渡した真珠が半分になった。イリーザにも半分渡して……、やっと当面の生活費を工面出来た程度か。もろもろの経費などを考えれば、正直、イイビジネスじゃなかったな」

 セルジュは溜め息を付く。


 真夜中だった。

 一時的に借りている西洋建築を模した屋敷の中に入る。

 デザインは古臭く魔女の家といった感じだった。

 あるいは、それこそポルターガイストでも起こる田舎の古臭い幽霊屋敷といった処か…………。洋風ホラー映画にでも出てきそうな家だった。

「さて、まず電気付けないとな………………」

 家の中に入ると、二階から何やら物音が聞こえる。気味の悪い笑い声もだ。

 沢山の気配が充満していた。

 生首らしきものが宙を舞っている。

 ぽつり、と桃色のロリータのワンピースを纏った者が室内で日傘を差していた。

「よう。あそこに滞留している幽霊ってのは、生前に親しかった人間と接触すると、そいつに憑いていけるんだぜ」

 プリム・ローズは狡猾そうな表情で笑う。

「俺は貴様と親しかったわけじゃねぇんだけどな…………」

 セルジュは引き攣り笑いを浮かべる。

 パリンッ、と、生首の一体が窓を割る。

 月の明かりが皓々と室内に入ってきて、生首だけの女や、手足の欠損した女の姿を映し出す。彼女達はセルジュを嘲る者や物憂げに哀しみに沈んでいる者など様々だった。


「おい。テメェ、プリム・ローズ! 家の中のモノ、壊すなって躾けておけよっ!」

 セルジュはこめかりに怒りの筋を見せる。


 …………、しばらくの間、一人の青年と、そしてその他大勢との騒がしい共同生活が続きそうだった。



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