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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』  作者: 朧塚
新約・冥府の河の向こうは綺麗かな。
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CASE 『冥婚』‐溺死した死者が裁かれ続ける湖畔へ。‐ 3

 土蜘蛛から無礼の詫びとして、死者達の祭りに呼ばれた。

“たまたま”恵まれて死んだ後に、恵まれた者達が行き着いた場所なのだという。

 せっかくの、祭りなので、と言われて、二人は土蜘蛛から浴衣を貰った。

 セルジュは赤色。イリーザは水色だった。


 金魚すくいの場所があり、水飴が売られ、たこ焼きやお好み焼きの臭いがする。

 朽ちた神社があり、絵馬が飾られていた。

 盆踊りをしている者達もいる。

 みな、浴衣姿で楽し気な顔をしていた。狐の面を被っている者もいる。


 イリーザは湖で収集した死者達の悲鳴によって作られた音楽をスマホに入れて、イヤフォンを耳に付けて聴きながら、金魚すくいに興じていた。


「バアさんさー。なんで、古臭い思想に取り憑かれているんだよ」

「昔、儂の一族は権力者に無慈悲に殺された。儂はその生き残りかのう。勿論、その権力者共は歴史において善とされた、実態は違ったのじゃがのう」

「そうか、苦労してるんだな。処で、死者の祭りだが。『ヨモツヘグイ』にならないか? ほら、あるだろ。神話の中で。黄泉の国の食い物喰ったら、死者の仲間入りして戻れなくなるって」

「ああ。大丈夫じゃろ。心配なら、帰りに身を清めの酒でも飲んでおくとええ」


 イリーザは気にせず、たこ焼きやたい焼きを食べたり、林檎飴に綿菓子を買っていた。

 セルジュも毒々しい色彩のチョコバナナを買って少し口にしてみる。悪くない味だ。

 屋台にいる者達の身体は時折、透けていた。

 白骨を覗かせている者達もいた。


「バアさん。死人が好きなんだな」

 セルジュは売っていた甘酒を飲む。

「死に魅入られたのじゃろうな。死ねない身体故にな」

 土蜘蛛はストロングの缶チューハイの蓋を開けていた。


 イリーザはお化け屋敷の中で悲鳴を上げて、お化け怖いと喚き散らしていた。




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