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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
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抱負。

 食糧確保の足掛かりを作った状態で、幼馴染達は次々と16歳になり、青年の家を出て行った。

 保護者がいる幼馴染達も同様に、大人達の仕事に交じっていく。


 予想していた通り、仕事をし始めた事で、どうしても接点が少なくなったが、幼馴染達は一緒に働いている大人達の現状やこの先どうしていきたいかの意見を集めてくれた。


 集めるだけではなく、青年の家やくじ引きの復活についても、尋ねてくれている。


「あれ? いっつもお前等、くじ引き復活は無理って言ってたのに?」


 どういう風の吹き回しかなと、僕が問い掛けるれば。


「エイブがあんまり何回もくじ引きくじ引きって言うから~」

「そうそう。青年の家の食糧確保が上手くいったし、くじ引きも……と思うわけ」


 これまで全然話を聞いちゃくれなかったが、どうやら僕の粘り勝ちらしい。


「流行病の後にも赤ちゃんは生まれてるもん。このまま病が下火続きなら、そのうち人が増えて、州都だけじゃ皆を賄えなくなる」


「そしたら隣の村とかに自然と移住する事になるんだろうけど、その移動先の土地とかが早いもん勝ちじゃ、不公平になるに決まってるよ」


「そう考えると、やっぱそうなる前に……くじ引き?」

「かなぁ……」


「だろ! くじ引きだよ!」

 僕はここぞとばかりにしっかり頷き、力説した。


 集まって来た北の州の人々が州都に収まっているうちに、くじ引き復活を成すべく、僕は幼馴染達とすっかり顔見知りになった大人達から説得していく事にした。



 書類を頼みに来た時に、


「親方。ちょっと相談が……」

 そう話を持ち出す。


「おう。なんだ?」

「新しい船を作りたいんですけど、作れそうですか?」


「新しい船かぁ……」

「ええ。今幼馴染と話してたんですが、村のみんな結構海に出るようになったそうじゃないですか」


「ああ。そうだなぁ」

「そうすると、今ある船じゃ足りなくなりませんか?」


 親方は悩んでいるようだが、畳み掛ける。


「う~ん。今でさえ不足気味だからなぁ」

「でしょう? だからこの際、新しい船を作っちゃうのはどうかなと」


 すると親方は少し考え、そして賛成してくれた。


「まぁ、みんな舟の修理はお手の物になったしな。新たな船を作るのも、皆のやる気が起きそうだ」

「ですよね! 計画お願いしてもいいですか?」


「おう! ただし書類は任せたぞ!」


 しかし、それを聞いて僕はガックリだ。


「え~。たまには自分で書いて下さいよ~」


「わしの字は汚い。お前も読めんって言ってただろうが」

「そうなんですけど~。たまには僕も皆と一緒に働きたいです」


 とも言ってみるが、親方には通用しない。


「しょっちゅう混じってるだろ?」

「そりゃあ、書類ばっかり見てるのは飽きますもん」


「お前の字が一番きれいなんだ。任せるよ」

「ちぇ~」



 そのまま親方は州長室を出ようとするが、実はまだ本題がある。


「あ、親方!」

「うん? どうした?」


「それで、新しい船なんですが、管理をどうしようか悩んでるんです」

「うん? 今まで通りわしがやるぞ?」


「ええ。何も言わずに甘えちゃおうかなと思ったんです。実は」

「おい。言ってくれるなぁ」


 親方は呆れている。

 僕も親方に任せてしまうのが、一番楽だろうとは思うけれど、それで進んではいけないのだ。


「でも、どんどん船が増えて来たら、親方1人に任せるのは甘えすぎだと思うんです」

「だなぁ」


「それで、何かいい手はないかなと思ったんですけど、何も思いつかないんですよね~」


 僕は悩むふりをして、親方に尋ねる。


「昔はどうやってたんですか?」

「昔かぁ……」


 おっしゃあ。

 親方に、くじ引きしていた当時を考えさせる事に成功!


 あんまりくじ引きを押しても、子供の戯言に取られちゃうし、今回はこれでいいよな。



「あ、親方。もう1つお願いが」

「……おう?」


 次は何を言い出す気だと警戒されているらしく、親方の返事にはほんの少し間があった。

 申し訳ないと思いつつも、僕個人にとっては大事な事なので続ける。


「新しい舟の木材の切り出しに行く前に、叔父達に声を掛けてもらえませんか?」

「うん?」


「確か叔父達の誰かが山の村の出身で、僕らじゃ分からない木材について教えてもらえるかもしれないんです」

「ああ。確かになぁ」


「よろしくお願いします」

「おう。長い目で見てやらぁ」


 親方に叔父達の面倒を押し付けしてるのがバレてる……。

 でもくじ引きに戻すなら、州長館のお荷物状態の叔父達にも動いてもらわないとマズイ。


 大仕事を請け負ってくれる親方を最敬礼で送りだし、僕は甘える事にした。



 さらに、色んな人に声を掛けていくと、どうやらおばあちゃんもこっそり人を呼び寄せては諭してくれているらしく、


「その話、おばあちゃんにも言われてなぁ。考えてみたんだが……」

 という事が時々あった。


 話が早いのは助かるし、仕事を始めて数年の若人達に言い出されるよりは、北の賢者であるおばあちゃんからの提案の方が受け入れやすいし、説得力もあるに違いない。


 少しずつ前に進んでいる実感を得ながら、頑張ろうと自分にエールを送った。





 そんな風に働き掛けを行っている最中、事件は起きた。

 青年の家の7人と、村の子の3人が、夜になっても帰って来なかったのだ。


 誰も出掛ける姿を見ていないので、どうやら日の出前からそれぞれの家を抜け出したらしい。


 てっきり晩御飯まで遊び回っているのだろうと、この時間まで大騒ぎにならなかったのだ。


 大人から子供まで、手が空いている人総出で探し回る事になり……そして魚釣り用の帆船が一艘なくなっている事に気付く。


 僕が目を覚ました時には既に晴れていたが、地面には大きな水たまりが残り、まだ緑色をした葉も落ちて、滴がぽたぽた垂れていたのを思い出した。


 きっと短時間ながら、突発的な大雨風に見舞われていたの違いない。

 

 そのせいで子供達の乗った船が、沖へ流されてしまった可能性があった。



「おーーーーーーーい!! 聞こえたら、返事をしてくれーーーーーーーーッッ」

 海に向かって叫んでみても返事はない。


 日の出前に抜け出したのなら、もしかすると火種を持っているだろうが、真っ暗な海に灯りは見えなかった。


 魚釣りの時は必ず陸地が見える沿岸で、と教わっている。


 海から見た州の様子や、遠くからでも見えるクロワサント島の山脈の形も、海に出る全員が覚えさせられている。


 しかし普段釣りに出ている日中の太陽の位置なら、何となく覚えているかも知れないが、夜の星の位置まで分かっている子は果たしているだろうか……。


 そもそも晩御飯までに帰らなければ、騒ぎになると分かり切っている。

 そして騒ぎになれば、秘密どころか怒られると……。


 それなのに帰って来ないという事は、帰れなくなっているのだ。


 お昼ご飯と水くらいは持っていっただろう。

 だが突発的な大雨風で転覆は免れても、何の目印もない大海原で彷徨う事になれば、子供達の命は絶望的だった。



「僕のせいだっ! 僕が海に出たいって言ったからっ!」

 物凄い後悔が押し寄せてきて、僕は叫ばずにはいられなかった。


「お前のせいじゃないっ! おれ達が言い出したんだっ!」

「そうよっ! ちゃんと見てなかった私達が悪いのよっ!」


 青年の家を出るまで、一緒に暮らしていた幼馴染の方がいてもたってもいられないだろうに……。


「いいえ。それを言うなら私達」

「そうだ。自分達が忙しいばっかりに、子供達だけで行動しても、問題ないと思ってたんだから」


 子供を心配する親の方がよっぽど辛いに決まっているのに……。


「お前達のせいじゃない」

「落ち着けっ。誰が悪いと言い合っている場合じゃないっ」

「そうだ。まずは子供達だ」


「大きなかがり火を上げるのはどうかしら? 遠くからでも見えるように」

「ああ。いいな。急いで準備だっ」



 みんな無事でいてくれ。

 祈る事はみな同じだった……。





州長館


 村長館・州長館・島長館、そう違いはありません。


 実質ちょっと大きめの宿屋。


 村の住民以外の人を泊める為に作られたようなもので、昔は村長のくじに当たった村人の普通の民家が館を兼ねてました。


 館の住民は村長一家。


 基本的に、宿屋部分に、プライベートな空間と、村長室、書類保管室が追加になります。


 食事は、村長一家と宿泊客が一緒に取ります。

(希望を出せば、別に取る事も可能)


 宿泊客が多い時は、近場の村民が手伝いに来ます。

(役割分担もくじ引きです(笑))


 館の目印は、隣に立っている青年の家と、貯蔵物資や共有機材を入れる蔵。


 館よりも、両隣の建物の方が大きく目立ちます。


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