商人来訪
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秋の59日。毎日毎日戦略を考えては送り出しというのを続けていたら、レイミール商会のダンレムさんがやってくる時期になってしまった。何というか、毎日こんなことを続けていたら禿げ散らかすぞ。予想通りに動いてくれているからまだマシなんだけど、結構厳しい。戦局は安定しているんだけど、それでも1つ間違えれば、一気に崩れる可能性も残っている。綱渡りな部分もあるからな。何とかして勝利に結び付けたいが、現地の戦術で戦略が崩される懸念は十分にあり得るんだ。
「いやあ、最近は商売関係なしに船便を動かすことが頻繁になってきましたからな。正直、何をしているのかさっぱりですよ。ヨナターク子爵家からの命令なので、何とかしているのが現状ですからね。そのままデイローレル侯爵家に荷運びをしないといけなくなるのもどうにも。往復するだけで1日はかかりますし、商売って訳でもないんですがね。まあ、儲かっておりますのでいいのですが。して、何をそこまでやり取りする必要があるのですか? 詳しい事は聞けないとは思いますが、出来れば教えていただけると嬉しいのですが。何を運んでいるのかが解らないと、こちらとしても不安になりますからな」
「うーん。僕じゃあ何とも言えないですね。詳しい事はアーミンに話させます」
「おや? ご当主とやり取りをしている訳では無かったのですか?」
「僕は代筆だよ。考えるのはアーミンの仕事になってしまっているからね。僕じゃあそんな事は思い付かないし」
「ほう? まあ、そう言う事にしておきましょうか。それで、どんな内容なんですか?」
「そうですね。レイミール商会さんは、商会の戦略って持っていますか?」
「それは当然の事でしょう。何を扱って、何を扱わないのか。それを決めないと商売が出来ませんからね。商売は生き物です。それがどのような形で運が舞い込むのかは解らない。けれど、運に頼っている様では二流です。稼げるときに稼げるだけ稼ぐ。それがまずは商売人としての感覚でしょう」
「ですよね。……それでなんですけど、何処まで在庫の管理をして居ますか? 売れ行きの管理や、季節の流行なんかも把握していますか?」
「在庫の管理は勿論行っています。無駄に買い付けすぎれば、腐らせることもありますし、足りなければ、信用を失う事にもなりかねない。売れ行きも、どの店では何がどのくらい売れているのか、その辺はちゃんと確認しておりますとも。そうじゃなければ、戦略は立てられませんからな。季節の流行も、今年はこれが流行るかもしれないと言う事を予想して、在庫を確保したり、新しい商品を開発しなければならない時もあるでしょう。そんな事は商売をやる側にとっては常識的な事ではありますよ。ですが、商売の話は特にしていないのですがね? 私としては、手紙の内容が知りたい訳なんですが? はぐらかされている訳では無いのですよね?」
「はぐらかしたりはしていないですね。正にそのことを文章で書かせてもらっているんですよ。商売では無くて、軍事的な問題なんですけどね。俺がやっているのは、戦略を立てる事。戦略が無ければ、商売が出来ないように、軍事もまた同じなんですよ。軍の戦略が無ければ、行き当たりばったりの戦闘になってしまう。それでは困る訳です。何処にどの戦力を配置するのか。ここでの勝敗はどうなるのか。それを予想して、今後の方針を決めているんですよ」
「それは……。ですが、それらは侯爵家の皆さん方が決める事なのでは? 何故にここでそれを行っているのですか? そもそも、それなりに時間がかかるのであれば、マイナスしか産まないとは思うのですが……」
「それは重々承知なのですが、何故か、軍事で戦略的に考えるという人が居ないらしいんですよね。ヨナターク子爵家に、1度献策をしてみたところ、この様に頼られるようになってしまいまして。商人であれ、農民であれ、戦略というものは持ってしかるべきなんですよ。商人だって、在庫がここで足りなくなる恐れがあるから、事前に在庫を補充しておかなければならないとか、ここでこの時期、需要が上がると解っていれば、そこに商品を補充しますよね? その様な当たり前の事を、軍事ではやってこなかったのです。今までに誰も。なので、戦略的に動くと言う事が出来なかった訳なんですよ。誰もその様に考えたことが無かったので。それで、俺がやっているのは、5日遅れの情報で、10日後の未来を予想して指示を出しているんですよ。ここでの戦闘が勝利すれば、この様に動く。ここでの戦闘が負けてしまえば、ここの兵力をそこに向かわせる。そう言った事を指示しているんです。……本当なら、俺がやることでは無いんですよね。本来であれば、公爵家や侯爵家が陣頭指揮を執って、何とかしなければならない事なんですよ。その戦略が欠けているので、ここで何とか補っている訳ですね」
「……それは、実質、アーミン様が魔族救済派の軍を動かしていると言う事になりませんか?」
「実質も何も、そうなってしまっているんですよ。何度かデイローレル侯爵家の方から、こっちに来てくれとは言われているんですが、俺たちも今回の内戦で戦果を獲得しないといけない訳なんですよね。オーテルージュ準男爵家としての戦果が欲しい訳なんです。なので、こっちとしても動くに動けないんですよ。コンラート兄さんを除けば、軍を動かすのは俺しかいないので。まあ、ドルト村のクルト兄さんにはこっちに内応してくれるようには働きかけているんですが、実質こっちの指揮官は俺しかいないんですよ。なので、デイローレル侯爵家には申し訳ないんですが、こういう形で指示を出している訳ですね。……本来であれば、侯爵家の中の人たちが、ここでやっているような事をやらないといけないんですけどね。なんでここでやらないといけないんだって感じではあるんですが、今の軍の動きは、大体把握しています。それで、ここでの内戦なんですけど、早ければ、冬の5日くらいから始まりますね。遅くとも20日までには始まると思っていただければ」
「……商人でも、ある程度の戦略は立てます。そうしなければ、商売が成り立たないですからね。ですが、軍でもその様な事が必要になってくるのですか……。戦争をしなくなって久しいですからね。誰もが皆、戦争のやり方を忘れてしまっているのかもしれないですな。前回の内戦は200年ほど前ですし、その時もどちらが勝ったのかなんて気にしては居ませんでしたからね。内戦があったことは知っていますが、そうなってくると、戦略が無いままに内戦を? いや、そんな事は出来ないはずですよ。戦略が無ければ、内戦なんて起こせるわけがない。そもそも戦略があってこその……」
そうなんだよな。内戦が、なんで起きるのかと言えば、普通は戦略的に考えて、今なら勝てると思ったからなんだよな。だから内戦は起きる。勝敗は分かれる。どちらも負けたような感じにはならない。どちらかが勝てると踏んだから、内戦が起きる訳なんだよ。普通ならな。
この異常事態をどうやって解決するのかって言えば、積極的に内戦を起こして、敵対派閥を駆逐するというやり方しか思い付かないんだよな。俺なら、相手側が準備できていない所を強襲すると思う。こんな準備期間を与えないで、一気呵成に攻め立てるとは思う。それが貴族の流儀に反するとしてもだ。貴族の流儀など知ったことではない。勝てば官軍負ければ賊軍なのだから。勝った方が偉いのだ。勝った方が覇権を握るんだよ。




