72話 幸せですね
時が一気に飛びます!
「美影〜〜! ちょっと待ちなさーーい!」
星乃川市の中心街にある一軒家にて、私は大声で叫んだ。
「やーん! 灯ママ怖い」
「コラー! 輝夜ちゃんの胸に飛び込んでいいのは私だけなんだから!」
「灯……娘と張り合わないでください」
大学を卒業し、無事歯科医になれた私と弁護士になれた輝夜ちゃん。
きっちり結婚して、百合園ベイビーセンターにて子どもを作った。苗字は森野に。名前は美影。輝夜ちゃんに似て美人で、私に似て無駄に元気だ。
「もう、ピーマン苦手なのはわかるけど、一口だけ食べなさいって言ってるでしょ?」
「輝夜ママ、食べなきゃだめ〜?」
「そうですね。一口は食べましょうか」
「えー! 輝夜ママも怖い〜!」
そう言って美影はとことこ走って行ってしまう。思ったより子どもでも走れて、27歳の私では追いつけなかったりもする。
そんなときピンポーンとチャイムが鳴って、ブラッディが入ってきた。長かった白髪はどこへやら。いつのまにかショートカットにしている。
ブラッディも歯学部だったので歯学の道へ。なんなら私と一緒に働いている。いつか私が独立した時もついてきてくれる予定だ。
「あー! ブラッディお姉ちゃん」
「こんばんは、美影。今日も麗しい」
「灯ママも輝夜ママもねー、ピーマン食べさせてくるの」
「それはよくない。苦手なものは食べなくていい」
「ちょっとブラッディ? 美影に甘すぎるのやめてくれる?」
ブラッディは美影のことをすごく可愛がってくれる。それはいいんだけど、甘やかしすぎて美影がますますわがままになるのが心配だ。
「可愛い子には可愛いと伝えよ。そういうこと」
「いやどういうことよ……」
それとピーマンとは関係性がない気がする。
親としては食べやすいように小さく刻んだりして、美影のことを思ってやってるんだけどなぁ〜。
「灯、心配する必要はない。きっとこの子は立派に育つ」
「そう? ならいいけどさ」
「やったー! ピーマン食べなくていいって!」
「ちょ!? それとこれとは違うでしょ!?」
私たちがワチャワチャして言い合っている中、輝夜ちゃんはこたつの中に入ってゆっくりお茶を飲んで呟いた。
「幸せ、ですね」




