34話 初運転:後編
運転席に乗り込み、座席を合わせ、シートベルトを着用する。心臓の音がバクバクと鳴っているのがわかる。
「えっと……これからどうすれば?」
「もう発進できるっすか? ならルームミラー、サイドミラーを見えやすいように動かしてくださいっす! あ、シートベルトは一旦外してください。この手順をした後にシートベルトはかけるっす!」
意外とちゃんと教えてくれる先生。いや、これを教えてくれなかったら困るんだけど、それでもなんか意外って思っちゃった。
先生の教え通りに手順を進めていく。
「じゃあ次はサイドブレーキがかかっていて、ギアがPにあるかの確認っすね」
「OKです!」
「よし、ならブレーキを踏んで、エンジンをかけるっすよ!」
緊張がピークに達しながらも、鍵を右に傾けてエンジンをかけた。ブルンッ! というエンジン音で緊張はさらに増していく。
「さぁ、いよいよ発進っす! サイドブレーキのボタンを押してください」
言われた通りにボタンを押す。
「それじゃあギアをPからDにするっす! あ、ブレーキはちゃんと踏んだままっすよ!」
「りょ、了解です」
カクッと、少しだけ車が前のめりになったのを感じた。
いよいよ私の運転が始まるんだ。そう強く実感した。
前を向くと輝夜ちゃんの車が発進している。緊張しているようだったけど、さすが輝夜ちゃん。見事なハンドル捌き……に見える。
「よし、前の車が行ったっすね。それじゃあ森野さん、出発するっす! 右折の合図を出して、後方確認してブレーキを離すっす!」
「は、はい!」
後方の安全を確認し、右折の合図を出して、ついにブレーキから足を離した。
「お、おおっ! おお……」
ディスポンでも憑依したのかという感じの声が自然と漏れちゃう。クリープ現象はさっき勉強したけど、思ったより速く進む!
「じゃあ停止線で止まって、左折して外周スタートっす!」
「は、はい!」
言われた通りに左折する。けど曲がる時のコツはかなり雑に説明されたからあたふたしてしまった。でも確かに『ぐっとやって、ウィンウィーンってやったら、シュルルルって戻る』って感じかも。
……あれ? 私ってもしかして先生と同じで感覚派だったりする? 今度輝夜ちゃんのバイト先の塾に行って教えてみようかな。……いや、私の方が勉強を教えられそうだからやめておこう。
「あ〜、いいっすね。極めてますね」
「何が!?」
初運転なんですけど!
「森野さん、昨日の夜は何を食べました?」
えっ!? そんな美容室みたいなノリで会話するの? こっちは運転のことで頭いっぱいなんだけど!
昨日食べたのってなんだったっけ……間違いなく輝夜ちゃんはいただきましたけど。
「えっと……えっと……」
「あ、曲がらないとやばいっすよ」
「うぇ!? あぁ!」
「うへー、急ハンドルっすね〜」
先生が急に話しかけてくるからでしょうが!
その後も先生による謎のトークが続き、私は翻弄され続け、慣れないままに初運転を終えたのでした。
◆
「疲れた……」
待合室というか、待機室というか、休憩室というか。
何というべきかわからないスペースで私たち4人は座っていた。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「先生に翻弄され続けたって感じ。輝夜ちゃんは上手く運転してたね」
「はい! なかなかに楽しかったです」
何やらせてもできちゃうよね〜。羨ましい。
「ブラッディはどうだったの?」
「……楽勝」
……本当かな。この子、わりと完ぺきなように見えて、その実ちょっとポンコツだったりするから心配。
「マリーちゃんは?」
「私は運転より先生とのおしゃべりの方が楽しかったデスね〜」
うん……確かにマリーちゃんなら先生と上手く仲良くなれそうだね。私はなんとかなるのかなぁ〜。不安になってきた。
おっと、そういえば聞かないといけないことがあったね。
「ねぇねぇマリーちゃん、私たちってどこかで会ったことないっけ?」
「会ったことデスか? ……無いと思うデスよ」
う〜ん、マリーちゃんの記憶にも出会った記憶はなしか。マリーちゃんがそう言うなら初めましてってことになるのかな……?
「ヒヒッ! 先生との愛……愛だねぇ……」
後ろにいる怖い子に気がつくまで、あと※日。




