16話 人生初のレポート
「うーーーん……」
【百合園荘】2階の部屋で唸り声をあげるのは……私。森野灯です。何をしているって? 人生初のレポートを書いているのだ!
……まぁ正確に言えばレポートを書く前の段階、引用しようと考えていた本を読んでいるところだね。そこでもう詰んでる。
「活字の本とか無理だよ〜」
ちなみに今回レポート課題を出してきた教科は地方学。地方を良くするためにどうするか的な何かが書かれた本を図書館で借りて、読もうとしている土曜日の森野灯です。
「頑張ってください、灯」
もう昨日にはレポートを書き終えている輝夜ちゃん。すごすぎる。まだ課題を出されて4日しか経ってないのに。
私の計画では今日本を読んで明日レポートを書くという算段。先生が「君たちは初めてのレポートだろう? だから1000字にしておいてあげる。引用は400字までOKにしてあげる」って言ってたけど、どこをありがたがればいいのかわからない。いつか2000字のレポートとか出されるってこと? そんなんになったら終わりだよ……。
そして悩める子羊は私だけではなく……
「うう〜ん? なんかようわからんなぁ」
ユウもまた、本を読む段階でつまずいていた。今日はユウも一緒になって本を読むことに。
「私は明日バイトあるしね。ちゃんと今日のうちに読まないと!」
「バイトあってレポートなんて書けるん?」
たしかに……不安になってきた。
「大丈夫ですよ。1000字って意外と少ないですから。集中すれば30分で書けると思いますよ」
「本当!? なら大丈夫そうだね」
冷静に考えたら輝夜ちゃんが集中して30分ってことは、私なら2時間近くかかるってことだよね。まぁ気がつかなかったことにしよう。そうじゃないとやってられないよ。
「はぁ〜、頭クラクラするわ」
「でもユウ、なんだかんだ半分読めてるじゃん」
「まぁ読書自体は嫌いやないからなぁ。内容が難しいから手こずってるだけで」
ぐぬぬ……そもそも読書の文化がない私は圧倒的不利なわけか。何ページあるのこれ。451ページ……まだ100ページなのに……。
「灯、どこが重要か考えて読むんですよ」
「そんなことしたら余計に時間かかるよぉ……」
読んで終わりじゃないもんね。どこを抜き出してどう意見を書くのかだもんね。はぁ……憂鬱な気持ちになってきた。
「輝夜さんはどうやって読むん?」
「そうですね……文字を追うというより、一文を目に入れるという感覚ですかね」
「なるほどな〜、やってみよ!」
ユウがしれっと輝夜ちゃんからアドバイスをもらって実践する。一文を目に入れるってどんな感じなんだろ。ある程度本を読む人じゃないと出来ない芸当だよねそれ。
「あー、なるほど。なんか読める気がしてきたわ! ハイになっとるかもしれへん!」
「それはいいことなの?」
でも確かに進みは良くなっているみたい。ペラペラとページをめくる音が聞こえてくる。私はまだまだページをめくることはなさそう。
「灯、リラックスですよ。あまり肩肘を張りすぎずにあくまで本を楽しんでください」
「楽しめる内容じゃないよぉ〜」
楽しむ……楽しむねぇ。田舎がどうとか、都市に集まるだとか興味のない話ばっかり。
……ん? 田舎で住むスローライフ? 輝夜ちゃんと2人で田舎でゆっくり過ごす……あれ? いいかも! それには何が必要なんだろ……ふむふむ!
「あれ? 灯ペース速なってない?」
「な、何かスイッチが入ったみたいですね」
輝夜ちゃんとユウが何か話しているけど今はそれどころじゃない! 輝夜ちゃんと田舎で住むためには何が必要なの? 地域付き合い? 余裕よ! 逆に都会で済むなら……ほうほう、なるほど……
読む手がどんどん先へ先へと向かっていく。気がつけばあっという間に……
「あれ、終わっちゃった!」
読み終わっていた。ちょうどユウも同じタイミングで読み終えたみたい。
「後半の灯、凄かったな〜。何がスイッチを押してくれたん?」
「輝夜ちゃんと住むことを考えたら田舎も都市もどちらも課題が多いなぁって」
「……何を学んだんです?」
「あはは……灯の原動力はやっぱりそこなんやな」
よし、読書はとりあえず突破した! あとは1000字のレポート、頑張るぞ! きっと輝夜ちゃんのことを考えたらすぐ終わる……はず!




