15話 私のアルバイト
今日は輝夜の誕生日です!
「こんばんは」
「……こんばんは」
私の挨拶に、関心がなさそうに返してくる花さん。ここは[キラキラ塾]。中学生を対象とした個別指導の学習塾で、今の私のアルバイト先です。
そして今、心底つまらなさそうな顔をしているのが向井花さん。私がマンツーマンで教えている中学3年生の生徒です。担当科目は数学。
「えっと……最近どうですか、学校」
「先生……先週もそれ聞いてきたじゃないですか。変わりないですよ」
呆れたような顔で花さんに見つめられる。
「そ、そうですよね。ごめんなさい……」
うぅ……勉強を教えるのはいいのですが、この雑談メインの会話になると戦力外になってしまいますね。ここは灯のコミュニケーション能力が羨ましくなったりします。
うちの塾では生徒との仲の良さをウリにしている。だからこうやって雑談を重ねることで仲を深める必要があるのですが……
「え、ええっと……花さんの好きな食べ物はなんですか?」
「……パフェ」
「そ、そうですかー! 美味しいですよね、パフェ」
「……」
「……」
た、助けてください……灯! 私、どうやって女の子と話せばいいのかわかりません! いや、男の子とも話せませんけど!
そんなこんなで授業がなんとなく始まって、なんとなく終わってしまう。これでは……いけませんよね。花ちゃんも楽しそうな顔をしていませんし。
「……ただいまです」
「輝夜ちゃんおかえり〜……って、最近バイト帰り元気ないよね、どしたの?」
灯に相談することにしましょうか。灯ならもしかしたら解決の糸口になるものを示してくれるかもしれません。
「実は……」
灯には包み隠さず全部話した。花さんと雑談が盛り上がらないこと、質問してもすぐに話が途切れてしまうこと、勉強面ではそんなに問題はないこと。灯は黙って私の話を聞き終えて、最後に大きく頷いた。
「なるほどね。なんとなく状況は理解したよ」
「私は……どうすればいいんでしょう」
昔の私だったら1人で抱え込んで、解決した気になったまま突っ走っていたのでしょうね。今は……灯がそばにいてくれるから変わりましたが。
思えば今の環境は本当に恵まれています。魔法少女としても、美山輝夜としてもずっと1人だった私に手を差し伸べてくれた灯。そんな灯を頼ることができる、愛し合うことができる。幸せ者ですね。
「ふむふむ、問題点はズバリ……」
ごくり……何でしょうか……質問した身で勝手な事ですけど、私はそんなに間違ったことをしているつもりはありません。それがいけないのかもしれませんけど。
「輝夜ちゃんは質問してばっかりで、自分のことを花ちゃんに伝えていないのが問題だね!」
「自分のことを……伝える?」
私は塾講師。生徒に質問されたりしたり、そういう関係を築くはず。なのに……私のことを自分から話すのが必要ということですか?
「うん。だって花ちゃんにしてみたら輝夜ちゃんのこと、何にも知らないんだよ? それなのに自分のことばっかり聞かれたらちょっと萎縮しちゃうのも無理はないと思う。騙されたと思ってさ、今度の授業の時には輝夜ちゃん自身のことを話してみてよ。きっと、上手くいくと思うよ」
「灯……」
なんでしょう……灯がいつも以上に輝いて見えます! なんだか勇気が湧いてきました!
「よ、よし、頑張ってみます!」
「うん、その意気だよ、輝夜ちゃん!」
灯に背中を押されたら何でもできる気がしますね。
そして1週間後……
「こ、こんばんは! 花さん」
「こ、こんばんは……」
し、しまった……つい気合が入って声が裏返ってしまいました。恥ずかしい恥ずかしい……。
「今日は……授業に入る前に一つ聞いてもらえますか?」
「……え? いいですけど」
よし。なら……
「わ、私、魔法少女だったんです!」
「……へ?」
困惑する花さんを他所に勝手に話を進めていく。
「魔法少女として街を守るために戦ってですね、それはもう辛い日々でした。ずっと一人ぼっちでしたし。でもある時素晴らしい人と出会えたんです! その時から私の人生は薔薇色になりました!」
「……ぷっ、何それ」
冗談だと思っているのか、笑う花さん。そういえば……笑った花さんを見るの初めてかも。
「ご、ごめんなさい。いきなりこんな変な話、信じられませんよね」
「うん。信じられない。でもいいよ。もっと聞きたいかも」
「は、はい! ならその後にですね……」
灯、ありがとうございます。私、大きな一歩を踏み出すことができました!




