表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/61

結果とその先



 共通試験が思った以上にできて国立に挑戦した。

 看護大学は合格したし、看護師になるのは就職の点からも本命になっていたけど、国立の工学部にある一つの学科に挑戦したい気持は消えなかった。


 その学科を卒業して、父と同じ会社に就職したい……そんな気持ちがずっとある。

 母を苦しめた嫌な女がいた会社だけど、父がどんな世界にいたのか見て経験したくなったのだ。


 結果は駄目だった。

 不合格を目の当たりにして「やっぱりかぁ〜」って思わず声に出した。


 駄目だったけど残念だとか悔しいとかよりも、しょうがないなって気持ちの方が強い。


 模試の結果が悪くて悩んで、林兄の言葉で心が軽くなって。

 陸斗の協力もあって思いっきり勉強に打ち込んで、やれるだけのことをやった結果だから、正面から受け止めることができた。


 受験結果よりも早く、2月末日に高校は卒業式だった。


 受験結果はチャットで友達と連絡し合った。

 父と母の三回忌のころにはみんな進路が決まって、仲の良かった子たちとも別々の場所に進むことになった。


 希君は県外の大学に行くことになったので、「最後に遊ぼう」って誘いに応じた。そこで「もう一度付き合いたい」って言われたけど、「希君は遠距離なんて無理だよね?」って答えたら、希君も「だよね」って笑った。


 林兄が国立医学部に合格したことは林君のお母さんが教えてくれた。

 林弟は「俺は馬鹿なのに兄ちゃんスゲーよな」って。林弟は五教科が壊滅的にできないのだと、本人と林君のお母さんは笑っていたけど、陸斗は「空は高校行けるのか?」って本気で心配している。


 わたしは4月から私立の看護大学に通うことになったと同時に、陸斗の保護者にもなった。


 沖田さんは引き続きわたしたち姉弟の相談に乗ってくれるそうだけど、お金のことや進路のことなど、何もかも自分で責任を持つことになる。

 

 父と母が死んでから陸斗と二人だったけど、保護者として沖田さんがいてくれたことはとっても心強かったのだと今さらながら感じていた。


 成人して世間に放り出されたら、色々落ち込むかなって思っていたけどそんなことも暇もなかった。


 わたしは大学に慣れることと、新しい出会いに必死だったうえに、陸斗が中3になって高校受験に向けての話が始まり、最初の三者面談で、陸斗が弁護士になるという明確な目標があることを初めて知った。


 どうして弁護士なのかと聞いたら沖田さんの影響らしい。


 父と母が死んで、施設に行くことや他人の世話になるのではなく、未成年だけで暮らしたいという姉と弟の気持ちをしっかりと受け止めてくれ、道を開いてくれた沖田さんは陸斗の目標になっていたそう。

「姉ちゃんに何かあっても法律の力で正々堂々と守れるし」って、少し照れながら教えてくれた。


 年上のわたしが陸斗を守らなきゃって思っていたけど、陸斗は陸斗で考えていた。難しい資格だけど、わたしも陸斗を信じて応援する気持ちしかない。


 高校は林兄と同じ県下一の進学校を希望していて、そこに受からないようなら弁護士なんてなれないと言っていた。

 陸斗は自分をしっかりと持っている。わたしが中3のときよりもずっと大人に近い。

 陸斗の成長は嬉しいことだけど、父と母がいたらもう少し子供のままでいたんだろうなって思う。


 ある日突然、6月の修学旅行に参加しないと言い出したのは、3泊4日とはいえ、わたしが一人になってしまうからというのが理由だった。


「夜中に具合が悪くなったらどうするの。俺みたいに空ん家に泊まるのはなしだし」


 近場で頼れるのは林君のところだけど、男兄弟ばかりの友人宅に姉を宿泊させることはできないと陸斗は言った。

 わたしは成人した大学生だし、陸斗が修学旅行の間くらい一人でも大丈夫なんだけど、急病で手術までした過去のせいで心配でたまらないらしい。


「姉を一人置いて修学旅行なんか行けない」と本気で怒る陸斗を担任の先生と説得した。

 校長先生まで巻き込んで、ついには禁止されているスマホを持っていくことを条件にようやく納得してくれたのだ。


 ただし、担任預かりで、他の生徒には絶対に秘密。スマホを触ったり連絡を取り合うのは担任の前だけとの条件付き。

 担任保管中にわたしや林君のお母さんから連絡が入ったらすぐに知らせること。陸斗はそれで渋々納得した。


 どんだけ過保護なんだと思ったけど、そうじゃないとすぐに気づいた。

 だってわたしたちは二人きり。家族を失う恐怖は計り知れないんだよ。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ