閑話 皇王
移動させました。
私は、アルシッドク皇国、現皇王をしている。シェルジル・グラシエ・フォン・アルシッドクだ。我が皇国には古くからある歌が残っている。それは我が皇国の民全てが知っている歌だ。
光が生まれ 闇が生まれた
闇は、水を望み 水は、風を望んだ
風は、大地を望み 大地は、緑を望んだ
緑は、木々を産み 木々は、命を延ばし世界を覆う
光は、悲しみ 大地は、竜を生み出した
竜は、木々を燃やす火となり 火は7日7晩燃え続けた
燃えた、灰から命が生まれた 命は全ての恵みを受ける
この歌を私なりに解釈するなら、この世界にある我らが使う魔法や、住まう大地は、神々の恩恵を受けた竜によって齎されたもたらされた物だ、感謝こそすれ狩るなどもってのほかなのだ…。
だがしかし、この歌を知らぬ者達は竜を、狩る。
基本竜は、攻撃しない限り人に対して攻撃する事は無い、それに、竜は獣魔を間引き餌とする…それは我らにとって安全に暮らせると言う事にほかならない…
それにこの国が建国した際、その当時の王竜と初代皇王によって【竜は人を狩らず、人は竜を狩らず。互いに塒住む場所を隔てようとも互いの心はこの誓いを永遠に損なわない】との盟約がなされている。
毎年、竜を狩らぬよう、冒険者組合などにも通達はしているが…、他国から来た密猟者に年間数頭の竜が殺され解体され、その鱗は、飾りに、肉や血は万病を治す薬の材料にされている。これは、我が国にとって由々しき事態ではあるものの、手の打ちようがないのもまた事実なのだ…。
報告結果の書類を見て深い溜息を吐く。結果が良くない…。確かに毎年と変わらない数字ではあるのだが…先日訪ねてきた神殿の巫女の言葉が頭を過ぎるよぎる。
『竜神アルバス様より、神託がございました』
『その神託の内容とは?』
『はい、王竜シュベル・クリム・ハーナス様が皇王を訪ねたいと仰られたようです』
『何故だ?』
『それが、この世界に御座すおわす神々より、愛されし赤子を10年前より王竜シュベル・クリム・ハーナス様がお育てになっており、その赤子の為とお聞きしております』
『!!!』
『また、人と竜が遺恨を残さず盟約が守られるようにとのお言葉も頂いております』
『…そうか……』
王竜様を迎える準備は、宰相に任せてある。あの男ならばしっかりと役目は果たすだろう…。王竜来訪の件を知っているのは王妃、宰相、巫女のみとなっている。情報を秘匿する必要がある為だ。
執務室の扉がノックされ入室の許可を出す、宰相のノービスと西門隊長のガラドが入ってきた。
「失礼します」と格式ばった挨拶をしたノービスとガラドに「いつも通りでいい」と伝え王竜様ご一行の様子を聞く。
ガラドが言うには、王竜様ご一行は特に悪態を吐く事もなく、善良な様子で、穏やかに過ごされていたようだ。また、王竜様においては、娘として神より預かった子供を愛情を惜しむことなく向けられていたと報告があった。
「では、特に問題は無かったのですね?」
いつもの硬く真面目な面持ちではなく、少し安堵の色を乗せた顔でノービスがガラドに問いかけた。
「はい。特に問題は無かったように思いますが…ただ…」
そこで言葉を濁し、少し言い難そうに私とノービスに視線を向けたガラドに、私は続きを促すように、一度頷いた。
「何と言いますか…ご一行に関してといいますか…宿屋を先に押さえられていたらしく、そちらにと望まれていました…」
「…そうか…しかし何故、宿屋を取られていたのだろうか?」
それなんですが、と言葉を続けガラドが説明した。要約すると、王竜様は娘である少女と、王都デュセイで散策の約束をされていたらしい。その、散策で、彼女に色々と教えるつもりなのだとおっしゃっていたそうだ…。
「ふむ…ではご機嫌を損ねてしまったのだろうか?」
腕を組み、少し頭を斜めに下げたノービスがポツリと零した。
「そこまで、問題があるようには思いませんが…」
その後、しばらく考える素振りを見せた2人は私に視線を向けた。私は、ひとつ頷くと
「もし、何か希望される事があるなら、それは叶えてさしあげろ」
そう指示を出した。
2人が退室した後、独りになった私は考える。
情報の秘匿は特に問題はないが…ひとつだけ招くのに心配ごとがある…。それは、私の子供たちの事だ…。可愛い余り甘やかして育ててしまった、もしあの子達が、私の知らぬところで王竜様の機嫌を損ねるような事をしでかせば…国が終わる…。
知らずに大きな溜息を吐く…。もう一度今日、注意しておけば、きっと大丈夫だ…そう、思い込むよう心がけた。
その日、久しぶりに家族で食事をとることとなった。2日後に予定された、王竜様との謁見について話をするためだ。謁見には、私、王妃ナルシャ、第一王子ナディク、第二王子ジーク、第一王女リーシャ、ノービス、神殿より第三者の立会いとして巫女様がいらっしゃる予定となっていた。
今回、話すのは私だけだが、側に控える家族にも再度注意喚起は必要だと判断した。特に、ジークとリーシャは何をするか分らない恐怖がある…。
この双子の兄妹は、特に甘やかして育ててしまったと自身でも思い至るところが多々ある。だからこそ、厳しく注意を促すことにした。
食事が始まり、メイド達が冷えた料理を運んできた。それをひと口運び、グラスに入ったワインを含むと、皆に今回の事を話すため口を開いた。
「既に、王妃には伝えてあるが、2日後に王竜様ご一行が私を訪ねていらっしゃる。その際、お前達もその場に同席する事…ただし、余計な口や行動は一切とらぬ様に細心の注意を払ってほしい」
「へ~!王竜って大きいのかな?」
瞳をランランと輝かせ、興味がある事を微塵も隠さずジークが言う。
「私、そういう席は苦手ですわ…欠席できないのですか?お父様…」
逆に、興味が無いらしいリーシャ
「とにかく、王竜様ご一行に不快な思いはさせるな…後、ジーク・リーシャお前達は、大人しくしておいてくれ…」
つい、素で言ってしまったが、まぁいいだろう。この2人さえ問題を起こさなければ、大丈夫だ…。そう考え、食事を進める。
「そういえば、明日小物を取りにベルティスの店に行きますからね!ちゃんと、支度を済ませておきなさい」
王妃がリーシャにそう伝え、にっこり微笑み、グラスを傾けた。
言われたリーシャは「わかってますわ!」と返事をすると、プイっと横を向いた。忘れていたのか…。
「そう言えば、父上に少しお伺いしたい事があったのですが?」
手に持った、食器をテーブルに置き、ジークが改まって聞いてきた。
視線で話の続きを促せば、なんと一目惚れした子女を1人来月開催予定の誕生日のお披露目会に誘いたいと言うのだ…。
ふむ…まぁ、あのお披露目会は言うなれば、未来の妃や側近を選ぶ為の茶会だ!本人が望むのであればそれもまた良しか…だが…このまま許可をだすのは得策ではない…。
「そうだな…」
少し、渋る感じに腕を組み言葉を濁す仕草をすれば…
「許可をいただけるのであれば、明日からは、逃げたりせず真面目に勉強します。もちろん、講師陣に迷惑をかけることもしません!」
思った通り釣れた。必死に言い募るジークに、内心ニヤリとした。
「ならば、その姿をみて決めるとしよう」
そう伝えれば、俄然やる気をだす。その姿に、我が息子の将来へ少し不安を覚えたのだった………。




