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19・戦闘巡洋艦

 巡洋戦艦とは、戦艦の革命児ドレッドノートと時を同じくして産み出された艦種である。

 戦艦はその防御力と火力を生かして海上要塞であったが、その防御力は重量が嵩み、速力の面では見劣りした。

 対して、巡洋艦は速力と航続力を生かして艦隊の目となり、活躍していた。


 もし、巡洋艦に戦艦の火力があれば、主力として活躍できるのではないか?

 そうして生まれたのが巡洋戦艦だった。

 だが、発祥地英国では、battle cruiser、つまり、戦闘巡洋艦というのが正しく、艦隊の主力というよりは、偵察部隊や遊撃部隊の艦種というのが正しくみえる。


 日本の巡洋戦艦の用語に近いのは、英国に対抗して大艦隊を造り上げたようとしていた帝政ドイツの巡洋戦艦ではないだろうか。ドイツの巡洋戦艦は、英国と違い、防御力も重視しており、第一次大戦での評価も高い。


 しかし、巡洋戦艦は、当時の技術力では防御力と速力の両立が出来なかった事による妥協の産物であり、金剛型戦艦を例にみると、竣功時点では6万馬力余りに過ぎなかった出力が、20余年後の改装では13万馬力まで増強されている。


 そこまでいかなくとも、金剛竣功から10年後に竣功した戦艦長門は、戦艦としての防御力もありながら、金剛型と大差ない速力を手に入れている。

 更には、戦艦大和は7万トンの巨艦を27ノットで走らせるのだ。

 こうして技術の進歩は妥協の産物だった巡洋戦艦を戦艦の高速化で消し去ってしまった。


 ただし、巡洋戦艦とは別の思惑から新たな艦種が生まれてきた。


 ワイマール体制下のドイツは厳しい軍備制限を受けており、艦の大きさも主砲口径も上限が定められていた。この上限値では戦艦は作れなかったが、ドイツは上限値の船体に上限値の主砲を搭載したこれまでに無い艦を建造した。

 それが有名なポケット戦艦である。

 ポケット戦艦は巡洋艦を容易に打ち負かす火力を持ち、戦艦から逃げるに足る速力を備えてた艦だった。

 フランスではこれに対抗できる小型戦艦を造る程だった。


 そして、これが思わぬ方向に転がる。

 ある時、米国は日本がポケット戦艦級の艦艇を建造するとの情報を得て、対抗策としてポケット戦艦級の火力を備えた巡洋艦を作り上げてしまう。

 この情報は誤りで、米国の動向を知った日本があとから対抗策を練ったのだから、面白い。


 さて、目の前に居るのはそんな歴史の中で生まれた戦艦だ。

 米国の大型巡洋艦を倒せる火力を備えた小型戦艦。しかも、改装により余剰になった戦艦の砲塔や主砲を流用した戦時急造艦としての一面を持っている。



「駿河、近江、着任しました。よろしくお願いします」


 目の前の二人は金剛とはまるで違う。どちらかといえば、その容姿は青葉に近く、童顔は駆逐艦すら思わせる程だった。


 さて、想定外な戦艦の出現で、全くどうして良いかわからない。今、指揮艦が居ない暁隊の指揮艦に1隻はまわせるとして・・・


「いっそのこと、彼女達に艦隊指揮を任せて私達は事務、管理に専念するのもアリだよ?さすがにこの大所帯を組合支部に丸投げするのも無理があると思うよ?」



 確かに、その通りだった。オモヤッテの組合支部には島内の業務や警備の冒険者や帰還住民への対応とやることは多い。


「それもそうだよな」


 こうして4部隊を束ねる「連合艦隊司令部」として、金剛を旗艦に据えた体制をスタートさせた。





 それから一年ほど大過なく過ごしたのだが、幾つか問題点も出ている。

 当初は金剛が戦後のレーダーを備えたことで魔物判断が容易だった。

 金剛のレーダーに内蔵された敵味方識別装置が魔物に反応するように改変されており、遠距離からの攻撃が可能だったが、現在はその様な機能を持つ艦が居ないため、目視距離でしか対処できない。

 そして、大陸間交易の再開で常時警戒が必要で、出来ればもう1隊増やして余裕がある運用が望まれる。


 大陸間交易はアハペナンマーで組合長に話したように、完全な護衛が出来ないので、魔物に襲われる船は出ている。この事自体はこの世界では覚悟の上なのか批判はない。完全な護衛が出来ないことを詫びた時には、「魔物に関係なく、帆船は海象、気象の悪化に弱くて簡単に沈むから気にするな」と言われてしまったくらいだ。


 出来ることなら、各艦隊に1隻は護衛艦を配置して、魔物識別を出来るようにしたいが、いつ、甲にレベルアップ出来るのか分からない。

 多少の無理や困難に目を瞑り、問題の先送りを続けてしまっている。


「さて、アハペナンマーの組合に行きますか」


 今日から2泊3日でアハペナンマーまでの船旅である。護衛を付ける余裕は無いので金剛単艦での船旅である。


 往路は何事もなく到着し、組合での仕事も滞りなく終えた。

 アハペナンマーで遊ぶ余裕は無いので、すぐさま帰路につく。


 帰路でも初期ほどの危険もなく、比較的穏やかな航海だった。


「さっきのは島風だな。無駄に飛ばして、あれでクラーケンが探知出来るのかな」


「あの子の場合、ソナーよりも感に頼ってるみたいだから、暁隊とやってることに代わりはないかな。旗風は慎重なんだけど・・・」


 金剛も島風を見送る顔はちょっと心配そうだった。戦果は悪くないからあれでやっていけるのだろう。


 そんな、何事もなく過ごしていたのだが、


「あ、多分、クラーケンだよ」


 金剛が右舷を見る。波間にチラッと見えただけらしいが、金剛が見間違えるとも思えない。


「これは振り切った方が良さそうかな」


 金剛はそう言って出力を上げるが、加速には時間が掛かる。



「おい、あれもそうじゃないのか?」


 俺も左舷にゲソらしきものを見つけた。


「囲まれたかなぁ~」


 と、嫌そうに金剛は呟く。


「こちら金剛、クラーケンに囲まれた模様、救援乞う」


 金剛は迷わず救援要請をした。


 それから間を置かずに四方からクラーケンが飛び出してきた。

 主砲の距離ではないし、副砲では追従出来ない。高角砲と機銃しか有効な手だてがない。


「くそ!」


 金剛は高角砲を撃ちまわるがなかなか当たらない。

 至近距離まで来れば機銃でなんとか牽制は出来るが、威力は知れている。


 そうこうするうちに甲板にたどり着くクラーケンが現れた。機銃でズタズタだが、致命的ではない。


「コノヤロウ」


 金剛は主砲塔を旋回させるが動きが遅いので逆に主砲に取り付かれてしまう。


ドン


 クラーケンは吹き飛んだが、砲身も裂けている。


「金剛!」


 俺は金剛を見るがそ知らぬ顔で新たなクラーケンと闘っている。


「金剛さん、呼んだ~?」


 軽い声と共に島風が現れた。


 島風が金剛に近付くクラーケンを砲撃して回る。


 なんとか難をのがれてオモヤッテにたどり着くが、金剛の様子がおかしい。


「金剛、大丈夫か?」


 にっこり微笑むが大丈夫そうには見えなかった。

 この程度の損傷ならば宝石の力で直ることは分かっているが、問題は、金剛は今朝補給したばかりだった。


「主砲は大したことないんだけどさ、スクリューに巻き込んだクラーケンに軸をやられたみたい。減速機まで損傷しちゃった」


「だったら減速しろよ」


「ダーリン逃がさないと。それが最優先だから」


 シレッと言ってのけるが、そんな軽い調子で言われるとあまり冷静では居られない。


「バカ!、金剛が居なきゃ意味無いんだよ。お前が居ない世界でノウノウと生きていたくないんだよ。お前が居るから今の俺がある。わかるか?俺には金剛が必要なんだ」


「軸の浸水程度じゃ沈まないと思うけどさ、ありがとう」


 沈まないと言うけど、大丈夫だろうか。誰かに呼ばれても、俺は金剛から離れることが出来なかった。

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