13・足りない・・・
めでたくオヤモッテ諸島を根拠地とすることで更に掃討範囲を拡げることが出来ると思ったのは数日だった。
「足りない・・・」
「も~、昼間から何いってるのかな」
金剛が言葉とは裏腹に俺の顔を胸の谷間に埋める。確かに、これは天国だが、今足りないのはそうじゃない。
しかし、離れようとしてつい胸に手がいってしまった。
「そんなに足りないのは?」
いえ、十分足りてます。ってか、たまには休ませてください。
だが、そんなことを言う勇気はない。何より、艦隊の運営は殆ど金剛のおかげで成り立っているからあまり強く言えない。
「そうじゃなくて、艦不足だよなと」
現に、今は梨と椎がアバチャウンとオヤモッテ間の警備に出向き、青葉隊が更に前方に掃討範囲を拡げ、 萩、楡が青葉隊に代わって漁船団回りの警備に就いている。
「確かに、今後を考えると足りな過ぎるね。なんでドンと召喚しないの?」
金剛は尤もな事を聞いてくる。
「問題点は駆逐艦の装備かな。松型を大型化したような艦が理想かな。日本の艦でならば、駆逐艦や巡洋艦よりも今すぐ護衛艦が欲しいくらい」
とはいえ、今のレベルは丙を指している。護衛艦の召喚は甲でないと不可能だから、いつになるやらわからない。
「でもさ、護衛艦には護衛艦のデメリットがあるよ?はたかぜ型やイージス艦はともかく、汎用護衛艦はたぶん、この世界では『手数』が足りない。ダーリンみたいにバンバン撃てないと」
そう言ってどこ触ってるのかな。最近は撃ちすぎなんじゃないかと思うんだが、誰かさんが毎日お盛ん過ぎるせいで。
「『補給』は1日1回しか出来ないからミサイルじゃ対処しきれない場面が出てくると思うんだ。アスロックやスパローは16発、ハープーンは8発だからね。撃ち終えると後は3インチや5インチ砲を1門でどうにかしなきゃダメでしょ?確かにミサイルは命中率は高いけど、近距離戦闘だからミサイルの必要性がないのも大きいかな。戦艦も4隻も居れば充分だと思うし」
なるほどと思う。確かに、この世界では手数が必要だ。遠距離で探知出来たら、データリンクで互いに情報共有出来たらの必要性よりも、間近で共に多数を相手にする事が大半だから、護衛艦ばかり揃えても困るわけだ。
「そうなるとなぁ~」
タブレットを見ながら考え込んでしまう。
重雷装の島風が活躍出来ているのは異世界製の三年式であるため、俺の召喚可能な艦より発射速度や砲塔旋回が速い。ほぼ八九式なのだ。特型や陽炎型でも働けるだろうが、どうにも不安がある。
軽巡洋艦は指揮艦だけあれば良いだろうし、青葉が居るからいっそ、古鷹や加古を召喚しても良いかもしれない。
金剛が俺の頭にわざと胸を乗せてタブレットを弄る。
「そんな高い要求したらなにも召喚出来ないよ。旗風が10隻居たら満足だろうけど、それに次ぐベターな選択はこれかな」
金剛が動きを止めたのは秋月型だった。確かに、他に選びようはないと言えるだろう。
「やっぱりそうなるなぁ」
「分かってたならそうすれば良いのに」
分かってはいたが、決めかねているのも確かだ。
「大丈夫だよ。松型が活躍してるんだから、電探が同じで砲力が圧倒的な秋月型なら問題ないよ。揚弾限界の毎分15発で撃てる事は保証する。私の体に誓って」
それさ、ダメでもその通りでもヤる方向に持っていく為の誘導だよね?別に拒みはしないけどさ。
「じゃあ、それで行きますか」
秋月型の召喚を行うことにした。が、そこで着信である。
「はい、古河です」
「古河アキオさん、お久しぶりです。これから秋月型駆逐艦の召喚を行うのですね?」
「そうですが、何か不都合がありましたか?」
何故、秋月型の召喚で女神さまが出てくるのだろう?
「秋月型の召喚について確認したいことがございます。秋月型については、神さまのお戯れもありまして、青葉と同じ世界の装備が可能です。ただ、そうした場合、今後、護衛艦への変身は不可能です」
護衛艦への変身?
「あの、召喚した艦を変身させる事が出来るんですか?」
「古河さん、説明をよく読んでください。あなたのレベルが甲になった時、手持ちの艦艇の中で護衛艦として存在する艦は変身させることが出来ます。金剛さんには予め部分的にその能力を備えた状態でしたので、レーダーの換装が行えたのですよ?」
なるほど、そうだったのか。
「もし、神さまのお戯れをお受けにならない場合、私から少し特典を付けさせて頂きます」
さて、一度は決まりかけた決意が揺らいでしまった。
「女神さま、ちなみに、神さまのお戯れは秋月型だけですか?」
「はい、あちらの世界と変わらない艦型の駆逐艦は秋月型だけです。巡洋艦ならばより多くの艦が恩恵を受けますが、変更なさいますか?」
実のところ、今は巡洋艦の必要性がない。が、
「古鷹型とかはどうなんですか?」
「残念ながら、対象外のようです」
なら、秋月型で良いだろう。さて、どちらを選ぶかだな。
「ダーリン、女神さまの提案にしな」
俺にしか聴こえないように金剛が囁いた。その顔は真剣で、軽口の類いには見えなかった。それに、あきづき型護衛艦ならば、この世界でも有用に思える。
「わかりました。では、女神さまの特典付きの召喚をお願いします」
「はい、かしこまりました」
こうして、秋月、照月、凉月、冬月を召喚した。
「秋月、照月、凉月、冬月、ご主人様のご意向により、顕現、以後よろしくお願いします」
揃って挨拶に来た4人は旗風みたいなツインテール娘たちだった。なんで対空艦はツインテールなんだろう?
精霊が揃ってツインテール。艦はというと、特に何が違うようにも見えなかったが、
「それでですね、ご主人様。私達の追加装備が届いてる筈なんですが、確認して頂けますか?」
秋月がそんなことを聞いてくる。俺はタブレットを見る。秋月型の項目に追加装備と注記された項目が存在していた。そこには、後部高射装置、島風型主機、四式聴音、探信儀、改良型揚弾筒という記載が存在した。
「あるな、じゃあ、これを装備と」
ポチっても目の前のツインテールは変化しなかった。しかし、嬉しそうにしているのは確かだ。
「ありがとうございます。ご主人様」
4人は晴れやかな笑顔で敬礼して帰って一端。
秋月型は結局、後部高射装置が搭載されることはなく、機銃台座に転用されてしまったのは知っているが、島風型主機?秋月型に7万5千馬力ね。聴音、探信儀は松型と同一だろう。改良型揚弾筒は砲の発射速度である毎分19発を可能にするモノだろう。これは確かに喜びそうだ。
「改良型揚弾筒かぁ~、毎分15発じゃないとなると、今夜は頑張らなきゃ」
結局、金剛はこれである。さて、明日からは金剛も秋月型4隻と最前線だな。




