表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
91/286

第91話 ほーりゅう

 校舎の三階から、窓ガラスを突き破って、わたしの身体は飛びだしてしまった。

 変な体勢のまま地面に叩きつけられることを覚悟して、ぎゅっと目をつぶる。

 急激に重力が、身体にかかった。


 ――そのはずが。

 ふいに全身から、重さの感覚が消えた。




 おそるおそる、わたしは眼を開く。

 すると、すべてが止まっていた。


 わたし、空中で止まって、浮いちゃってるよ?

 いつもの、いままでのわたしの自己防衛の超能力に、こんな力はなかったはずだ。


 そして、すぐに気がついた。

 身体を包む、以前にも触れたことのある、この力の雰囲気に覚えがある。

 思わずわたしは、つぶやいた。


「――我龍?」


 すると、それに応えるように、直接頭のなかへ声が響いた。


『逃げる? それとも戻る? こちらとしては脱出を勧める。きみは、奴のいざこざに巻きこまれただけなんだろう? きみが身体を張って、奴の揉めごとに付き合う必要はない。逃げる気があるなら、俺が奴の結界を破って助けてやる』

「戻る!」


 わたしは、我龍のテレパシーを最後まで聞かずに叫んだ。


「ジプシーも夢乃も京一郎も上にいる。みんな、闘っているんだもん! ジプシーはわたしをかばって大怪我をしたのよ。今度は、戻ってわたしがジプシーを助ける! それに、麗香さんもわたしが助ける。闘いで彼女に勝って、彼女を助けるんだ!」


 すると、一瞬の間があいて、我龍が面白そうに返してきた。


『彼女も助ける、か。いいだろう。なら、上に連れていくだけで手助けはしない。これ以上の俺の力の干渉は、せっかく張った奴の命懸けの結界を破壊することになる』


 ――そうか。

 さっき、ジプシーの結界に触れた人って、我龍だったんだ。


 なぜ我龍がこの闘いを知ってここに現れたのかはわからない。

 けれど、いま、わたしのなかで、内側から湧きでてくる力を感じる。

 同じ能力者の我龍の力を、直接わたしが触れているからだろうか。


 いまなら、彼女の殺気を原動力にしなくても、自分の奥底で湧きあがる感情で、最大の力を発揮して攻撃できる自信がある。


 わたしは空気に押しあげられるように窓際へ寄り、割れたガラスに気をつけながら、三階の窓枠に片足をかける。

 両手で身体を支えるように横の窓枠をつかんだとき、身体を包んでいた空気が変わって重力が戻った。

 きっと、我龍のサポートが消えたんだ。


 そして、わたしは校舎内の現状へと目を向けた。




 廊下のずっと向こうで、炎は揺らめき煙があがっている。

 窓を開け放して消火を続ける京一郎と夢乃の姿が、炎の向こう側に見えた。


 煙は増えているけれど、さっきに比べて火が小さくなっている感じがするから、京一郎たちに任せて大丈夫だよね。


 そして目の前には、うつ伏せで倒れている血だらけのジプシー。

 その傍らにかがんで、まさに彼へ手を伸ばそうとしている麗香さん。


 いま、麗香さんは、どういうつもりでいるかわからないけれども、これ以上ジプシーを傷つけられてたまるものか。


 わたしは、窓枠の上で仁王立ちになると、息を大きく吸って叫んだ。


「ジプシー! まだ意識があるよね? 攻撃最大でいくから! あんたの力と根性、信じているから!」


 そして、驚きの表情でわたしを振り仰いだ彼女に、ためにためていた力を全力でぶつけるべく、わたしは両手を頭上へ振りあげた。




 わたしは、だせる力を最大限に引きだして攻撃を仕掛けるため、両手を上にあげたまま狙いを定める。

 我龍の加護を受けて、みなぎる力が冴えわたっているのがわかる。

 普段は方向なんか定まらない超能力だけれど。

 たぶん彼女をはずさない。


 わたしの本気が伝わったのか、慌てたように麗香さんもわたしへ向き直り、両手を左右横に広げた。

 でも、いまのやる気満々のわたしに対して迫力負けしているうえに、自らがジプシーを傷つけたことに動揺しているためだろうか。

 なかなか彼女の両手のひらの上に、力が集まらないのがわかる。


 そのとき。

 まったく注意を払っていないであろう彼女の足もとに、梵字を配した巨大な陣が薄っすらと浮かびあがった。

 その陣の中心は、傷だらけで床に伏したままのジプシーがいる。


 ――ジプシー、わたしの声が聞こえたんだ。


 大丈夫、まだ彼は意識を失っていない。

 彼女の防御を、この状態でもしてくれている。


 わたしは、いまの自分の力の大きさを知らない。

 けれど、彼女の力を出し切らせてのオーバーヒートが目的だから、最大で攻撃するよ。

 だから、彼女が傷つかないように、絶対にジプシーが護ってくれるって信じている。




 わたしは麗香さんへ向かって、思いきり手を振りおろした。

 不安定なまま必死で反撃をしてきた麗香さんの力を、わたしの力は丸ごと飲みこんで、彼女へと向かっていく。

 そして麗香さんにぶつかる寸前、彼女の目の前に一瞬で五芒星が浮かびあがり、わたしの力がその中心を通って、彼女を吹っ飛ばした。

 廊下と教室のあいだの壁に、麗香さんは背中から全身をぶつける。

 その壁までにも浮きあがっていた別の陣が、彼女が座りこむように廊下の上へ崩れ落ちるときに、一緒に沈むように消えていくのが見えた。


 ――これって、ジプシーの防御結界が間に合っていたってこと、だよね?


 わたしはひとり、動かなくなった麗香さんを見つめて、その場に立ち尽くした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a0139966_20170177.jpg
a0139966_20170177.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ