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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第64話 ほーりゅう

「あの女、俺に平手打ちを食らわす前に、信じられないって言っただろ?」


 呆気にとられて聞いているわたしと夢乃へ向かって、ジプシーは、彼女の戸籍や家系図などの資料に目を落として続けた。


「あのとき、俺が術にかからなかったことを、あの女は信じられないって言ったんだ」




 ――術?

 ってことは、彼女は裏世界関係の敵じゃなくて、陰陽道関係の敵ってこと?

 とっても可愛い、ただの女子高生にしか見えなかったのに。

 そんな力があるようには、とても思えなかった。


「京一郎が調べてくれた資料を見る限り、彼女の家や血縁関係に、陰陽道とは関わりがない。ただ陰陽術のなかには、知識や力のない素人でも扱える蠱毒こどく犬神いぬがみのような術も多くあるから、もう少し調べる必要がある」

「ジプシー、あのさ」


 わたしはどうしても気になったので、話の途中だったけれども、割りこむように口をはさんだ。

 ジプシーは、ちらりとわたしへ視線を向ける。


「彼女、あの一瞬で、どんな術を眼で仕掛けてきたの? それにジプシーが術にかからなかったってことは、ジプシーのほうが陰陽師としての力が上だったってこと?」


 ジプシーは、おもむろに腕を組みながら、わたしの疑問に答えてくれた。


「断言できないが、あの状況を考えたら傀儡術くぐつじゅつか。俺にイエスの返事をさせたかったんだろ。だから俺は、彼女の眼を見る前に、自分のかけている眼鏡に防御結界を張った。力や状況判断としては、あの時点では俺のほうが上だったな」

「――傀儡術って、なぁに?」

「傀儡術は、簡単に言えば、相手を操り人形のように術者が動かすことのできる術かな」


 彼女、そんな術を使ってまで、ジプシーと付き合いたかったのかな?

 恋する乙女は、手段を選ばないのだろうか。

 その彼しか、目にはいっていないのだろうか。

 相手が自分のことを想ってもいないのに、付き合うのもどうかと、わたしは思うんだけれどなぁ。




「京一郎は、どう思う?」


 わたしがおとなしくなったので、ジプシーは、京一郎に視線を移して声をかける。

 京一郎の考える麗香さんの、不透明な十パーセントって、ジプシーと同意見なのだろうか。


「――ジプシー、おまえさぁ」


 すると、いつになく真剣な顔で、京一郎がジプシーの表情をうかがう。


「今回の彼女は、おまえの性格上、敵としか、みなしていねぇだろ」

「? ――なにが言いたい」


 珍しく細部において、意見の食い違いがでたのだろうか。

 京一郎とジプシーの視線が、空中でぶつかる。

 その視線をそらさずに、京一郎は続けた。


「おまえのなかの人間のカテゴリーは、敵か味方か一般人の、三つだけに分かれてんだろう? そりゃま、今回の彼女は敵の部類だろうさ。だが、俺の考える残りの不透明な十パーセントはカテゴリーとしては、女、だ」


 意味が理解できないという顔をして、ジプシーは京一郎を凝視する。


「まあ当たってりゃ、俺の言いたいことは追々わかるだろうが、俺の勘が外れてりゃ、やり方はいつもと一緒でいい。おまえに任せる」


 しばらく無言でふたりは見つめていたけれど。

 珍しく、ジプシーのほうが、先に視線をそらせて頭をかいた。


「わかった。視野に入れておこう。なんと言っても、京一郎の勘だからな。ただ、――俺にはただ単に、女と言われてもなぁ……」


 なんだろう?

 なんか、なぜだかジプシー困っている感じがする。

 これは面白いかも。


 わたしは、めったに見られない戸惑うジプシーを、にやにやとしながら眺めていた。

 でも、わたしも京一郎の言う意味が、わかんないんだけれどね。




 放課後、わたしと夢乃は明子ちゃんたちから、甘味処にいこうと寄り道に誘われた。

 もしかしたら、朝の出来事に興味津々の明子ちゃんが、わたしたちから逆にジプシーの情報や動向を知りたいのかもしれない。


「相手の片鱗が見えたから、こちらは精神的に落ち着いている。おまえたちが俺についている必要はないから、気にせずいってこい」


 ジプシーはそう告げると、教室で、わたしや夢乃と別れた。

 京一郎は、先に教室をでたのだろうか、早々と姿をくらませている。


 そういえば京一郎、午前中はバイクで情報集めに走り回ったって言っていたからなぁ。

 普段は歩いて学校にきている京一郎も、移動手段の違う今日は別行動になるってことだな。




 わたしと夢乃は、今日に限って全員が別行動だというこの大変な事態を、あまり深く考えていなかった。


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