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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第61話 ほーりゅう

 月曜日の朝となった。

 今日はさすがに学校がある。


 京一郎は二日間徹夜だったそうで、日曜日の夕方に家で寝るって帰ったけれど、わたしは土曜日の夜からずっと夢乃の家にお泊りした。

 考えたらわたし、土曜日におとりになったってことは、なにか進展があるまで、おとりのままってことじゃないの?

 ずっと、夢乃やジプシーや京一郎のなかの誰かと、行動を一緒にしていないといけないってことじゃないのかなぁ。




 夢乃とジプシーのふたりに合わせて一緒に家をでたために、わたしは早々と教室に着いてしまった。

 いつもはこんなに早く教室にきていたことがない。

 なので、わたしは暇つぶしに、夢乃やジプシーと一緒に、窓辺からほかの生徒が登校する様子を眺めることにした。


 朝一番の教室って、人は少ないし、晴れた日に窓から入ってくる風も爽やかだ。

 知っているひとたちが眼下を通る様子を、四階からぼんやり眺めているのも楽しいかも。


「お、早いねぇ」


 京一郎も珍しく、朝早くから教室に入ってきた。


「いつもはギリギリのイメージがあるほーりゅうも、さすがに夢乃の家から登校となると遅刻になるわけねぇよな」

「ギリギリのイメージは、京一郎だって同じでしょ」

「俺は普段、ギリギリじゃなくて遅刻だって」


 京一郎は笑いながら返してくる。

 そのとき、窓の外で車の音がした。

 いやに大きく聞こえたので、なにげなくわたしは音がした校門のほうを見る。


「おっ、あれ、フェラーリじゃねぇ?」


 音に反応して、同じように窓の外へ視線を向けた京一郎が、目ざとく見つけて声をあげた。

 フェラーリ。

 車に疎いわたしでも、聞いたことのある車の名前だ。

 門の前で、赤いオープンカーが停まっている。

 あれだろうか。

 すると、そばを通る登校中の生徒のあいだからも声があがった。

 そうか。

 やっぱり人気がある車なんだな。


「あれはF430のスパイダーだな。二千万は下らねぇ」


 京一郎が、わたしの隣でつぶやく。


 へえ!

 すごい高級車。誰が乗ってきたんだろう?


 同じように窓からのぞいていたジプシーが、京一郎の言葉のあとを続けた。


「ミッションでV8エンジン。車回りが硬くて小回りがきかないから、乗るのは好みだな」


 ――やっぱり男子は、車が好きなのかなぁ。

 どういうことか、わたしにはさっぱり意味がわからないけれど、よく知っているなぁ。


 そう思いながら見ているあいだに、左ハンドルの運転席から若い男性が降りてきた。

 先入観を持って見るせいか、高級車に似合ったかっこいい雰囲気の人だ。

 大学生なのだろうか。


 彼は、そのまま助手席へまわり、少々気取ってドアを開く。

 すると、助手席から現れたのは、セーラー服を着た女の子だった。

 大学生のお兄さんが、高校生の妹を送ってきたような図に思える。

 でも、あの制服は、ここの生徒じゃない。


「あれ? でも、どこかで見たような制服に思えるんだけれど。はて、どこだろう?」


 首をかしげながら、わたしはぼんやり思いだそうとする。

 すると、わたしのそばにいたジプシーが、小さい声で教えてくれた。


「見覚えがあるのは、おまえが生徒会長の妹に会ったことがあるからだろうな。会長の妹が通っている私立中学の、高等部のほうの制服だ。きっとデザイナーが同じだから似ているんだろ」


 なるほど。

 説明を聞いて納得したわたしは、ふたたび女の子を眺めた。


 細身で華奢な感じの、とても可愛らしい少女だ。

 遠目からでもよくわかる、小顔でパッチリとした二重。

 鼻筋が通り、その下には小さなピンク色の唇。

 毛先を軽くふわふわ縦ロールに巻いたようなロングヘアー。

 そして、彼女が意識して動く振る舞いも、場が華やかになるような芸能人的オーラをまとっている感じがする。


「なんか、可愛いらしいんだけれどねぇ」


 ずっと眺めていた京一郎が、ぼそりと口を開いた。


「へぇ~。京一郎って、ああいう子が好みなんだ」


 不思議に思ったわたしは、ぽろっと言葉がでる。

 暴走族のチームに入っている京一郎は、もっとなんていうか、そっち系が好みかと思っていた。

 へへっ、それも先入観ってものか。


「いや、ロリータファッションの似合いそうな女に、特別興味はねぇよ。俺はどちらかというと、顔が問題じゃなくて、こう、ボン、キュッ、ボンな身体のほうが」


 目の前の空間に手の動作で女性の身体の輪郭を作り、ジェスチャー付きでわたしに説明する京一郎の後頭部を、夢乃は手のひらで叩く。

 ジプシーは、車からおりた彼女を無言で一瞥しただけで、車以上の興味はなさそうだ。


 そんなわたしたちがいる校舎の四階を、車からおりて校門を入ってきた彼女は見上げたらしい。

 偶然、窓の外を見下ろしたわたしと目が合った。

 彼女はわたしを見て、にっこりと微笑む。

 そして、そのまま近くの入り口から校舎へと、ひとりで入っていった。

 でも。


「あれ? 彼女、この学校に入ったけれど、いいのかな? 今日は通常授業で、なんのイベントもないはずだし、他校生って勝手に入ってきていいものなの?」

「他校生でも、職員室とか、まあ用事でくる場合があるだろうしな」


 京一郎は、なんでもないことのように言ったけれど。

 しばらくすると、廊下からざわめきが聞こえてきた。

 そして、なんと先ほどの彼女が、この四階の教室の入り口に姿を現したのだ。


 彼女は、まだ数人の生徒しか登校してきていない教室内を、ゆっくりと優雅に見渡した。

 そして、一瞬わたしの顔の上に視線をとめる。

 けれど、すぐに視線をそらせると、今度は窓際にいるジプシーに目を向けた。

 たちまち彼女は、嬉しそうな表情となる。

 笑顔のまま教室のなかへ足を踏みいれると、ジプシーのほうへ、ゆっくりと歩み寄った。


 自分へ近寄る気配に気がついたらしいジプシーは振り向く。

 そして、いつもの無表情を、そのまま彼女へと向けた。


 向かい合うようにジプシーの正面へ立った彼女は、これでもかと思うくらいの満面の笑みを浮かべ、可愛らしい声をだした。


「はじめまして、高橋麗香たかはしれいかと申します。江沼聡くん、わたしと付き合ってくださいませんか」



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