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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第60話 ジプシー

「――くそっ! どうしても開かねぇ」


 京一郎が、パソコンの画面を睨みつけながら舌打ちをした。

 それまでは予備のパソコンも引っ張りだし、俺と京一郎のふたりで長いあいだ、黙々と作業をしていたのだが。


「たいした組織でもないのに、パスワードが三重もかかっていやがる」

「それでも、その組織のなかのスナイパーリストだ。まあ、その組織では、位置的には裏帳簿と同レベルの最重要機密にはなるだろうから」


 手をとめずに画面を凝視しながら、俺は京一郎へつぶやくように返した。


「あ~! 俺、考えたら昨日も徹夜じゃねぇか。解除ソフトを使っても全然頭が回んねぇ……。下で、うんと濃い珈琲を淹れてこようかな。おまえも飲むだろ?」


 京一郎が、両手をあげて背伸びをする。

 俺のうなずきを確認してから、ちょっと声を落として言葉を続けた。


「ところでさ、ほーりゅうと夢乃、気がついているのかねぇ」

「なにを?」


 声をさらに低くして、笑いを含んだように京一郎はささやいた。


「とくに、ほーりゅうの声! でかくて話の内容が隣の部屋まで筒抜けだってこと。まったく好き勝手言っていやがる。俺ら、恋愛対象外だってさ」

「さっきまでこっちの部屋が、それだけ静かだったってことだろ。それに、ほーりゅうの声が大きいから夢乃もつられているんだ。普段、夢乃の声は聞こえない。まあ、内容はともかく、女どもは平和だって証拠だろ」


 小さな笑い声を残して京一郎は席を立つと、足音をたてないように扉をすり抜け、部屋をでていく。

 俺も大きく息を吐くと、手をとめた。

 伸びをしながら眼をつむる。

 そして、今日の喫茶店での会話を思いだした。


 彼女の質問。

 ――あのときの俺は、演技じゃなかった。




 以前、ほーりゅうに奴との関係を直球で訊かれたときは、突然だったせいか、かなり精神的に動揺した。

 今回は話の流れが穏やかだったせいか、俺が自分から話す気になったせいか、比較的精神を安定させたままで、奴のことを口にすることができた。


 こうやって少しずつ、十年前の事件についても、奴のことも、俺は考えていけるようになるのだろうか。


 あと、ほーりゅうだ。

 今日のあの様子では、彼女も能天気なりに自分の能力のことを、かなり気にはしているようだ。

 本当に、感情がすぐ顔にでる女。

 よくいままで事件に巻きこまれずにいられたものだ。

 能力に関して、まったく無知で未開発なのは、きっといままで相談できる相手がいなかったためだろう。


 俺自身がこんな状態のときだが、ほーりゅうの件も乗りかかった船だ。

 いつまでも先延ばしするわけにはいかない。

 なにか対策を考えてやらないといけないな。




 そこまで考えたとき、階段をあがってくる京一郎の気配がした。


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