第59話 ほーりゅう
わたしは、夢乃の家で京一郎と一緒に夕食をご馳走になり、そのまま泊まることにした。
夢乃のお母さんが、わたしの叔母へ連絡をいれてくれる。
明日は日曜日だし、問題はないよね。
以前にも泊まりで試験勉強をしたときに、お泊りセットとしてパジャマを置かせてもらっていたから、急でも大丈夫だったし。
ジプシーと京一郎は、まだなにかやっている気配がしたけれど、夜更かしは美容の敵だとばかりに、わたしと夢乃はさっさと寝ることにした。
夢乃の部屋のベッドの隣に、布団を借りてきて並べて敷く。
そして、早い時間から電気を消した。
暗いなかで、わたしは唐突かもしれないと思いつつも誤解を解こうと、夢乃に声をかけた。
「今日のこと、シチュエーションのせいだと思うのよ」
「なにが、どういう意味?」
夢乃が訊ねてきた。
今日の話題を持ちだすこと自体照れるけれど、暗闇って、けっこう大胆に言えるよね。
わたしは、仰向けに寝転がったまま言葉を続けた。
「たしかに喫茶店や公園でドキドキしたんだけれど。あれは、ジプシーが相手だからじゃなくて、同じことを京一郎がしたとしても、たぶんわたしは同じようにドキドキしたと思うんだ。だから、相手は誰とかは関係なくて、その状況だけのせいだと思うんだよね」
「――そうね、わたしもそう思う。ジプシーってなんとなく、ほーりゅうの好みじゃないって気がするし」
「でしょ! 夢乃はそんな状況になったこと、ないの? 血のつながらないジプシーと同じ家に住んでいてさ」
「わたしの場合は……。ジプシーは、たぶん家では誤解が起きないように、必要以上に気を使っているわ。わたし自身ももう、家族同然に思っているし。それに、なんていうか、わたしもジプシーは恋愛対象から外れるのよね。好みの関係かな。わたしの好みは……。そうね、知的で大人っぽい人、かな」
「それはわかる! だって夢乃、英語の熊谷先生を見るときの目の色が違うもん」
「やだなぁ! なんでそんなところだけ見てるのよ! ほーりゅうは!」
見えないけれども、赤くなっているだろう夢乃のそばで、わたしはぼんやり、熊谷先生の姿を思いだす。
そうか。
じつは、半分は引っかけだったんだけれど。
でも、熊谷先生ってことは、夢乃って本当に、知的で大人っぽくてやさしいタイプが好みなんだな。
意地悪なジプシーとは違うかも。
「大人っぽいといえば……。わたしが転校してくる前にいた高校の生徒会長、三年生だったけれど。たぶん夢乃の好みだったと思うなぁ。なんか、こっちの生徒会長と違って、すごく落ち着いていたし、頭も良くて大人って感じだったな」
「それ、こっちの会長に失礼よ。それに足立会長は二年生だし、一年後にはもっと落ち着いて貫禄がでるかもよ。――ほーりゅう、そういうあなたはどんな人がいいの?」
「わたしかぁ……」
う~ん。
とくにいまは、こうっていうこだわりはないんだけれど。
「そうだなぁ。わたしは、――離れていても、すぐにまた会いたいって思える相手かなぁ。あと、恋愛なんだから、一緒にいるだけでドキドキしたり嬉しくなるような瞬間が欲しいよね。顔は、そりゃいいに越したことはないだろうけれどさ」
「ジプシーも京一郎も、見た目はいいんだけれど、なぜかわたしたちの恋愛対象から外れるのよね……。いつも一緒にいるから、距離が近すぎるのかしら」






