第48話 エピローグ ほーりゅう
「文化祭、終わったねぇ」
そろそろ、暖かい陽射しを浴びても肌寒く感じる屋上に座り、脚を伸ばした上に広げたお弁当を食べ終わったわたしは、大きく伸びをした。
これからは、雨の日にだけお弁当を食べるために使っている自習室で、昼休みを過ごすことになりそうだ。
「ねえ、ジプシー。演劇部の勧誘がすごいんだって? あれからずっと逃げ回ってるって明子ちゃんから聞いたけれど」
わたしは、柵越しにぼんやりと街並みを眺めているジプシーに、声をかけた。
「演劇部のひとたちって、男としてのジプシーが欲しいんだろうか? それとも女装したジプシーが欲しいんだろうか?」
続けたわたしの言葉に、ジプシーは、とっても嫌そうな目を向けてきた。
そして、あれから千葉くんは本当に、一躍時の人となった。
本人が、わけもわからないままにモテているけれど。
でも、あの様子では、後夜祭にでたのが千葉くんではないとバレるのは、時間の問題かな。
そして、もうひとり。
文化祭の直後から、とてもモテはじめたのはジプシーだった。
舞台のジュリエットを観たひとから、それも男女を問わず、毎日ラブレターが届くようになってしまった。
それは、机のなかに入っていたり、校門で待ち伏せされて渡されたり。
毎日届く手紙が、いい加減一日で二桁を越すようになるころ。
騒がしさを嫌うジプシーのためにだろうか。
ある日、わざわざクラスメートが見ている前で、京一郎が大きな声をだした。
「お、ジプシー。手紙が毎日たくさん届くなぁ。それっておまえ、全部どうしてんの? 護摩木の代わりに燃やしてんだろう?」
とたんに、一斉にその場が凍りついた。
それからは、ばったりと手紙が届かなくなった。
さらには、いままでの手紙を返してくれと泣きついてきた男子もいたらしい。
でも京一郎も、もっとマシな言い方があるのになぁ。
これじゃあ、もともと変人扱いだったジプシーが、ますます怪しい人だと思われちゃうよ。
そんなことを考えながら、わたしもジプシーと同じように、ぼんやりと遠くの景色を眺めながら日向ぼっこをしていたら。
ふと思いだしたかのように、突然京一郎が、わたしに向かって口を開いた。
「なあ、ほーりゅう」
「? なに」
真剣そうな表情の京一郎をみて。
これって、いまから真面目な話がはじまるんだろうかと、わたしは身構える。
なんだろう?
「とりあえず、文化祭も終わったことだし、期末試験に向かって勉強するか?」
「え? 期末? 試験なんて、まだまだ先じゃん!」
抵抗するように叫ぶわたしへ、京一郎はドスをきかせた声をだした。
「おまえの前回のペースをみていたら、いまからやらねぇと試験範囲が終んねぇんだよ! 大きなイベントが終わったことだし、今日から学校がひけたら試験勉強はじめるぞ! この俺さまが責任持って、みっちりと叩きこんでやるからさ」
京一郎と、そして夢乃とジプシーに囲まれて、逃げ場のないわたし。
しぶしぶうなずきながらも、わたしは心のなかで叫んだ。
みっちりと試験勉強だなんて。
そんなの、いやだぁ!






