❄53:息子の名前を。
ベッドの横に跪いたランヴェルト様が、赤ちゃんの顔を真剣に見つめて悩んでいます。
名付けをお願いしたのですが、何やら悩まれているようです。
「ルーカスか、コルネリウスか…………ハブリエル? ハブリエル…………ハブリエルだな?」
『ハブリエル』という名前を声に出すと、赤ちゃんがアゥアゥと声を出しました。
「テレシア、見たか? この子は天才だぞ! 返事をした!」
キラキラとした笑顔でそう同意を求めてくるランヴェルト様があまりにも可愛くて、クスクスとした笑いが漏れ出てしまいました。
「む? 信じてないな?」
「いえいえ! お父様の声に反応したのは間違いないと思いますよ」
「お父様…………そうだな、父になったんだよな。うん。お父様か」
ランヴェルト様が噛みしめるようにそう呟くと、私の頬にキスをくださいました。
急にどうしたのかしらと思っていたら、「ありがとう」とお礼を言われました。
「父親にしてくれて、ありがとう。母親になってくれてありがとう。テレシア、愛しているよ」
「っ――――はいっ。ランヴェルト様もありがとうございます。手、大丈夫ですか?」
先程から気になっていたのですが、右手の甲が真っ赤に腫れています。等間隔に小さな切り傷のようなものも存在しているような?
「…………名誉の負傷!」
なぜか慌てながら手を後ろに隠されました。
「気にするな。それよりもテレシア、疲れただろう? 少しだけでもいい寝なさい」
「はい、ありがとうございます。少しだけ――――」
少しだけ眠らせてください。と言おうとしている途中で、意識がふわりふわりとなって行きました。
無事に産まれてきてくれて、よかったです。
❄❄❄❄❄
スウスウと穏やかな寝息を立てる妻と息子。
なんという幸せな光景だろうか。
テレシアの腹が膨れていくのを見て、子供が出来たのだと、徐々に実感していった。
今まで考えたこともなかった。自分の子供。自分の娘や息子の存在。それを想像するだけで、心臓がギュッと締め付けられる。
この感情は、何なんだろうか?
なんとなく、テレシアに抱くものと似ている。
息子が産まれた。
白銀の髪と灰色の瞳。
顔のパーツはどれも、どことなくテレシアの要素が強い。
抱き上げて間近で見た瞬間に思った、この子は絶対に可愛くなるぞ、と。
穏やかに眠るテレシアの額を擦る。
頑張った。本当に頑張った。
予想していたよりも大きくて、とてもか弱い命。
見ていただけでも、壮絶だった。
いまだに額が汗で濡れているのを見ると、本当に厳しい戦いだったのだろう。
「おつかれさま」
そう囁いて頬に手を滑らすと、寝ているテレシアが擦り寄ってきた。
起きているときと、寝ているときのギャップが凄い。
そんなところも愛おしいと思うのだから、私はテレシアにベタ惚れしているのだろうな。





