❄45:国王陛下に傅く。
フリーナ様の重低音を聞き、アーデルヘイト嬢がぽかんとしています。
「あらやだわ、素が出ちゃったじゃないの!」
「…………殿下もです。私語は慎まれてください」
「でんか? でん、か?」
アーデルヘイト嬢が『殿下』という言葉を何度か反芻していました。気持ちはわからなくはないですが、フリーナ様はフリーナ様なので、そこらへんは拘らなくても良いのでは?ということでスルーします。
「殿下って呼ばないでちょうだいよ」
「そちらは却下します」
議長がまさかの却下をしました。
隣でランヴェルト様がブブッと吹き出したのですが、お顔はいつもの飄々としたままの氷の貴公子様でした。
――――器用ですね?
アーデルヘイト嬢が気が立っている野生の獣のようなお顔……とでも言えばいいのでしょうか? なんとも形容し難い表情で、証言中のフリーナ様を睨みつけています。
「…………第四? え、ゴドフリー殿下、なのですか?」
「なによ? 人の証言中に話し掛けないでちょうだいよ」
「ふたりとも! 私語は慎むように」
「やだもぉ、アンタのせいで怒られたじゃない!」
アーデルヘイト嬢も大概ですが、フリーナ様も自由すぎます。いま、裁判中なのですが?
流石の氷の貴公子様も、これには額に青筋です。
「っ――――」
ランヴェルト様が何かを言おうとした時でした。
玉座に足を組んで座り、目を瞑って沈黙を続けていた国王陛下が、スッと立ち上がられました。
その瞬間、議事堂にいた全員が立ち上がり慌てて敬礼をしました。もちろん、私も。
陛下が立てば、全ての国民が傅く。
晩餐の席で陛下が食べやめれば、誰が食べ途中であろうとも終了の合図。
それが、当たり前なのです。
「陛下?」
議長が少々不安そうに声をお掛けすると、陛下がフリーナ様にチラリと視線を向けました。
そしてすぐに逸らすと、今度はアーデルヘイト嬢のほうへと視線を向けました。
「アーデルヘイト、次にお前が余計な口を叩いたら、不敬罪を適用とする。コニングの家格も剥奪し、一族同罪とする。それからゴドフリー、お前もだ」
議事堂内が静寂に包まれました。
家格の剥奪、つまりはコニング家の取り潰し。
現在のコニング家は元侯爵の親戚筋が引き継いでおり、アーデルヘイト嬢に関しては一切の関知をしないと決めているそうです。
陛下はそれさえも罪だと判断したということ。
フリーナ様に関しては、ちょっとよくわかりませんが、第四王子でありながら市井で生活をされていることから、過去に何か様々なしこりを残されたままなのかもしれません。
兎にも角にも、国王陛下の一声で議事堂内は、静寂と厳粛なる雰囲気を取り戻しました。





