❄37:急展開の結果。
目尻に涙を溜めたランヴェルト様をよそ目に、持っていた手紙をゆっくりと折りたたみました。
封筒に戻したところでどうしたらいいのかと悩みます。
ランヴェルト様がくすくすと笑いながら、私の手から封筒を奪い取るとビリビリに破り捨ててしまいました。
「あ……」
「コレの責任は私が負うものだからね」
ふわりとした柔らかな微笑みは、とても穏やかなものでした。出逢った当初からは想像できなかったお顔。
心臓が緩やかに温かくなっていきます。
「ランヴェルト様のそのお顔、とても好きです」
「……顔?」
ランヴェルト様の眉がピクリと動き、どんどんと無表情に戻っていきます。
「顔、というよりは……醸し出される雰囲気や空気と言ったほうがいいのかもしれません。ランヴェルト様は、『氷の貴公子様』と呼ばれていますが、今はとても春の陽射しみたいで、すごく好きなんです」
「っ――――!」
意思疎通をしっかり取る、考えはちゃんと伝える、言葉にする。そう決めましたから、思ったことは口に出すことにしました。
なので、そうお伝えしたのですが、ランヴェルト様のお顔が真っ赤になり、くるりと背中を向けられてしまいました。
「ランヴェルト様? あ、その、確かにお顔もお綺麗なのですが、それだけで好きになったとかではなくてですね?」
「っ……今は追撃を…………しないでくれ、頼むっ」
「追撃?」
「天然か……」
――――天然?
よく分かりませんが、ランヴェルト様がこれ以上この話題を続けてほしくなさそうなので、別のお話にしようと思います。
「そういえば、資料棚にある『コニング家』というファイルを見たいのですが――――」
「っ!? 天然すぎる」
「へ?」
なぜかランヴェルト様がしょぼんとされています。
先ほどの話題を続けてほしくなかったのか、続けてほしかったのか、どっちか判断できないのですが、普通は判断できるものなのでしょうか?
「急展開、し過ぎじゃない!?」
先日のお礼をしにフリーナ様のお店を訪れましたら、作業場に通されました。
作業机の向かい側前に座るよう勧められたので、そこで報告をしたのですが、前のめりでそう返されてしまいました。
フリーナ様のお店は予約し順番待ち必須なのですが、なぜかいつでも好きに訪れて良いと言われています。
お仕事の都合等は大丈夫なのでしょうか?
いえ、普通に作業しながらお話していますので、手はしっかりと動かされていますが。
「驚くほどにこちらの意図が伝わらない娘ね」
「意図?」
「アンタは、親友だって認識してんのよ。だからここに入れてるの」
「っ! ありがとう存じまひゅ」
「……天然め」
また『天然』と言われてしまいました。天然、とは何のことなのでしょうか? 辞書で調べたのですが、どうやら違う意味で使われているようなのですよね…………。





