❄31:狂気に触れて。
手紙を開くと、そこにあったのは――――。
『私の愛しいランヴェルト
なぜ手紙の返事をくれないの?
いつまでも待っているわ貴方と過ごした日々をいつも思い出すの私は貴方のために生きているのに貴方は私のために生きてくれないのねまだ私のことを思い出してくれていないの?でもいいのきっといつか思い出してくれると信じているわだって私と貴方は運命共同体だものあの日私たちは裸でお互いを温め合いながら誓いあったでしょう?死んでも一緒にいるってなのに嘘つきな人ねでもそんなところも好きなの愛してるの貴方が生きているって知って私がどれだけ嬉しかったかわかる?幸せかわかる?貴方のためだけに生きているのに貴方は私のことを思い出してくれていないのね?なんでなのかしら?貴方のためにお父様を殺したのに喜んでくれなかったのはなぜなのかしら?
そうそう、今日はね、お屋敷のお庭に出ることを許されたのよ!
お庭にはね、真っ黒な薔薇が沢山咲き乱れているのよ。
ねえ、なぜここの薔薇は真っ黒なのかしら?
綺麗だからいいのだけど。
たまには真っ赤な薔薇やピンクの薔薇をみたいものね。
お父様にお願いして植え替えてもらおうかしら?
それからお友達がまた会いに来てくれたわ久しぶりに沢山おしゃべり出来たの貴方にお手紙を渡してくれるって言うから今急いで書いてるのだけどなんでなのかしらずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと手紙を書いているのにお返事がないのなんでなのかしらお父様を刺してあげたのに誰も感謝してくれないのよ貴方は喜んでくれているのよね?貴方のために殺したんだものねえ貴方は喜んでくれているのよね?お父様に聞いても教えてくれないの真っ黒に染まって使用人たちと一緒に床に寝てばかりいるのよそんなんだからお母様に愛想を尽かされてしまうのよ
ああっ、もう最後の一枚が残り半分になってしまったわもっといっぱい愛の言葉を書きたいのに何でお手紙を好きに書かせてくれないのかしら?酷いでしょ?お父様に聞いても答えてくれないのよ酷いでしょ?
ランヴェルト
愛しているわ
早く思い出して逢いに来て私を抱きしめてね
いつまでも待っているわ
貴方のアディ』
一度、目を通しただけでは理解できない文字列がそこにはありました。
「あの……」
「ん?」
視線を手紙からランヴェルト様に移すと、完全に感情を消し去ったお顔をされていました。
「このお父様とは、コニング前侯爵ですよね? 確か数年前にお屋敷で起きた火災で亡くなられていましたよね?」
「ああ、そう処理されたな」
「処理…………」
数年前、真実を闇に葬り去るしかなくなった事件が、コニング侯爵家で起こったとのことでした。





