❄28:ランヴェルトの苦痛の日々。
手紙の内容から考えて、情報を漏らしているのは使用人だろう。それらの処分も待つように言われた。
そして、その日の昼には、アーデルヘイト・コニングが薦めてきた令嬢の中の数人から手紙が届いた。
それぞれが返事を待っていると書いてあった。
ある程度の歩み寄りを見せる文面で返事を書き、送り返す。という作業を繰り返していた。
まさかそれが何日も続くなど、想像だにしていなかったが。
時には令嬢の家の使用人が手紙を直接持って来て、返事を受け取るまで帰らない、なんてこともあった。
まだ十歳の子供相手に、大人たちは何をしていたんだろう、と今なら思うが……当時の私は困惑しかなかった。
そして、それが三年続いたと言った瞬間、テレシアの眉間に皺が寄り、苦々しい表情になった。
その反応を見れただけで私は救われた気がする。
あれは、テレシアと出逢うために必要な出来事だったのかもしない。
そう思えるようになって、多少の溜飲が下がったような気がした。
◇◇◇◇◇
ランヴェルト様のお話を聞いていると、お腹の奥底に怒りのようなものが渦巻いていくのが分かりました。それと同時に、愛しさのようなものも。
今すぐ彼をギュッと抱き締めたい。
でも、今はとても大切なお話の途中ですから、我慢。
そんなことをぐるぐる考えながら、膝の上で重ねていた手を固く握っていると、それに気付いたランヴェルト様が申し訳無さそうに微笑まれました。
「気分が悪くなるような話を聞かせてすまない」
そして、私の手にご自身の手を重ねられると、ゆっくりと優しく撫でて来られました。
心臓が高鳴ります。
「っ――――」
「あ、すまない。つい」
ビクリと震えてしまったせいで、ランヴェルト様が手をスッと引いてしまいました。
「あっ……違うんです!」
慌てて彼の手を握ると、彼もビクリと震えて、何だか妙に可笑しくなりました。
ついついクスリと笑ってしまいます。
不思議そうに小首を傾げるランヴェルト様にまた心臓がドクリ。
「っ…………失礼いたします」
そう宣言し、ランヴェルト様の首に両腕を掛けるようにして、抱き寄せました。
初めは硬直されているように全身に力が入っていたのですが、徐々に力が抜けていき、私に体重を預けて来られました。
その重さは心地のよいもので。
激しい鼓動を続けていた心臓が、ゆっくりと落ち着いて行くのが分かりました。
抱き寄せていた腕を少し動かし、ランヴェルト様の頭を撫でていると、彼が私の腰に腕を回して来られました。
お互いに抱き寄せ合うような形になったまま、ソファに倒れ込みます。
ランヴェルト様に押し潰されているのに、それさえも愛おしく感じる不思議。
――――これが愛しさ。





